第19話 ギルド結成

 多くの冒険者で賑わう協会。

 その中の一角、木製のテーブルを挟んでテンションの高い女性と向かい合っている。


「それで……えっと、貴女は?」


「あー、言ってなかったっけ!ウチは浦洲うらすさくらってゆーんだ」


「桜さん、ですか」


「あはは、よくみんなからぽくないって言われんだー」


「そうですか?綺麗な名前でよく似合ってると思いますけど」


「ホントに?ありがと!そう言われるとうれしーね」


 なんとも明るくて陽気な人だ。

 ケラケラと眩しく笑うその様子は太陽のようにすら見える。


 ちなみに桜さんが楽しそうに笑っているからか、それともなかなか肌面積の多い格好をしているからかはわからないが、先ほどから明らかにすれ違う人や周りにいる人が彼女をチラチラと見ている。

 当の本人は全く気にしていないようだが。


「じゃあ改めて。桜さんは俺になんの用があるんですか?」


「無理やり連れてきちゃってごめんね!どうしても聞いて欲しい話があって」


 無理やり、という自覚はあったらしい。

 

「それじゃあ早速だけど、ウチのギルドに入らない⁉︎」


 思い切り手を引かれたもんだから何かと思えば、想像以上に普通だった。


「もしかして協会に招待状を提出してくださってたんですか?」


「いや、全然!たまたま見つけたから誘っちゃおーって」


「あ、そうですか……」


 よくわからない。

 あの勢いはどう考えてもずっと探していた人にようやく会えた時の反応だ、偶然見つけた人にするものではない。


「失礼かもしれませんが、ギルドのリーダーをやられてたんですね」


「まだだよ、今から設立の申請に行こうと思ってたんだ」


 それを聞いて椅子から転げ落ちそうになってしまった。

 まだ存在してもいない、これから設立予定のギルドに俺を誘おうとしていたのか。

 それもたまたま見つけたから、という理由で。

 なんというか、何もかもが勢い任せすぎる。


「あの、失礼かもしれませんがどうしてギルドを作ろうと思ったんですか?」


「わーお、面接みたいだね」


「すみません、別にそういうわけでは……」


「任せて、ウチそーゆーの得意だから!それでギルド設立の理由だよね、それはもちろん楽しそうだから!」


 あ、どこかで誰かが椅子から落ちた音がする。

 まあそりゃそうだよな、普通こんな人はいない。

 究極の気分屋というか、ノリで生きすぎている。


「楽しそう?」


「うん、やっぱ誰かと一緒の方が楽しいっしょ?」


「まあ、そうかも……?」


 なんだか俺まで流され始めている気がする。

 だが桜さんには不思議な雰囲気があるのだ、こんなメチャクチャな話を聞かされているのに不快になったりはしない、むしろ楽しいとすら思える。

 

「でしょ!だから凰真クンもウチと一緒にギルドやろ?」


 キラキラと輝く目で期待を向けられている。

 とはいえさっきも言ったように、俺はギルドに入る気なんてこれっぽっちもない、なので申し訳ないが断るしかない。


「すみません、俺はギルドに入る気はなくて……」


「えー!勿体無い!絶対楽しいのに」


「今までそんなこと考えこともないので」


「でもでも、凰真クン人気者だし今はいっぱい誘われてるでしょ?」


「まあ一応は……」


「どーすんの?これからもっと勧誘が増えると思うよ」


 確かにそれは新たに生まれた悩みの一つである。

 これだけ招待されている、必要とされていることは嬉しくもある。

 ただこうも数が多いと、ギルドに入る意思は無いと宣言しても無理やり勧誘してくるところが現れるかもしれない。


「それはその度に断るとしか」


「それならいっそのこと入っちゃった方が楽だと思わない?ウチは強要されるのとか嫌いだから、自由なギルドにするつもり!どう?」


「どうって言われても……」


 これは参ったぞ、ギルドに入る意思は無いと分かっていながら勧誘してくる人がいきなり現れてしまった。

 しかも悪意が全く無いのが余計に断りづらい。

 ものすごいニコニコの笑顔で、善意100%で俺のことを思いながら勧誘してきている。


「あーあ、ウチ一人だと心細いかもなー。一人で無茶して危険な目に遭っちゃうかもなー」


 前言撤回、俺を勧誘するために姑息な手も使い始めた。

 いや、俺の顔を見てニヤニヤしながら言っているので、冗談なのは理解しているのだが。


「ま、冗談はこの辺にして、頭の片隅にでも置いておいてくれたらうれしーな。ウチはずっと待ってるから!」


「いいですよ」


 席を立とうとする彼女に向かって俺はそう言った。

 それを聞いた桜さんは初めて笑顔を崩し、少し驚いたような顔をしていたものの、少しすると満開の笑みを浮かべた。


「ホント⁉︎いいの⁉︎」


「はい、桜さんのギルドに入ります。できたら、の話ですが」


「わかった!作ってくるね!」


 桜さんはそう言って受付の方に走り去ってしまった。


 俺自身不思議だ、まさかギルドに入ることを選ぶなんて。


 ギルドの存在自体は知っていたものの、最低ランクの自分には縁のないものだと思っていた。

 それに元々生きていくので精一杯だったのだ、他者との交流の機会が増えるギルドに時間を割く余裕もなかった。


 それにギルド同士の対立や、功績の競い合いなんかも激しいと聞くので、そういったのも敬遠する要素の一つになっていたのだ。


 だけど桜さんならそういうのは無さそうだ。

 まだ会ってほんの少ししか喋っていないけれど、何故かそう思えた。

 それにこれで勧誘がなくなる、というのも無視しきれない魅力がある。


「とりあえずやってみるか。実は思っていたよりいいものかもしれないし、最近はいいことばかりだしな」


 この選択も良い方向に働く、今はそう信じよう。

 新たに広がった未来に期待を馳せながら、俺も席を立って受付に向かう。


「はい、それじゃあ新しいギルドお願いします!」


「すみません。お手数おかけしますが、こちらの書類は全て処分していただいてもよろしいですか?」


「構いませんが……それでは雨宮さんはギルドには入らないということでしょうか」


「いえ、もう決まったので」


「ギルドができたら凰真クンをメンバーに追加しておいてください!」


「なるほど、そういうことでしたか。わかりました、それでは手続きをしておきますね」


 さて、これで俺がギルドに入ることが正式に決まってしまった。


「桜さん、これからよろしくお願いします」


「うん、ウチの方こそよろしく!何か面白いことあったらすぐ連絡するからね!」


 俺たちは固く握手を交わし、それからお互いの連絡先を交換して解散となった。

 それから家に戻る途中、俺はこう思った。


 あの時の俺、明らかに勢いに押されて流されてしまったな……

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