第18話 協会からの呼び出し
改めて思い返してみると、最近は本当に良いことばかり起きている。
翼や江莉香、澪葉と巡り会うこともできたし、配信が好調で広めの部屋に引っ越すこともできた。
転校した学校ではみんなと良好な関係を気づき、特例でDランクに昇格、久しぶりに顔を出した孤児院でもルカねぇを始めとしてみんな元気そうであった。
Cランクダンジョンの攻略にも成功。
まあ途中でカメラが壊れたので配信上では不慮の事故により中断、ということにしてあるが、問題なく攻略できることはわかった。
これで自信もついたし、Cランクに上がれるかもしれないという希望も見えてきた。
しかも今回の休日なんて、特に何をするでもなく家でゆっくり寝て過ごした。
孤児院を出てから初めてのことだ。
本当に最高の気分だった、おかげで今は体力マックス、英気に満ち溢れている。
こんなにもいい思いばかりして良いのか、何かとんでもない落とし穴が控えているのではないか、と逆に不安になってくるほどだ。
「ん?冒険者協会からメール?」
週明けの月曜日、普通はだるく感じるのかもしれないが今日の俺にとっては何てことなく、授業もバッチリ終えてさあ帰宅だ、と準備をしていると一通のメールが届いた。
協会からのメールなので長々と本文が書かれているが、要約すると『話があるので近くの協会本部or支部に来てほしい』とのことだった。
協会からの呼び出しなんて滅多にあるものではない、急に怖くなってきたぞ。
「どした?なんかあったのか?」
「いや、急に協会から呼び出しのメールが」
「ふーん、なんか表彰でもされんじゃね?ほら、凰真って最近有名人だし。なんせ澪葉とコラボするくらいだからな!
他人事と思っているのか元々楽観的な性格なのか、大斗龍斗はそれほど大事には捉えてないらしい。
「ま、あれこれ考えていても仕方ないか」
呼び出されてしまった以上は行くしかない。
深刻な問題かどうかは話を聞けばわかる。
俺は江莉香にメッセージアプリでこの後協会に行かなければならなくなったこと、今回は1人で行くことを伝える。
「江莉香ちゃん、この後カフェ行かない?」
「うん、いいよ!行こっか!」
江莉香はこちらを横目に見ながらそう答えていた。
直接声をかけて伝えないのは、こっちの学校での生活を考えた結果である。
同じ学校から同じ時期に転校してきて、普段からよく喋るし帰りも同じ、となると周りに変な想像をされかねない。
なので普通に喋るし仲も良いけれど、特別な関係というほどでもない、という絶妙な距離感をキープしている。
帰りも一緒に駅に向かうのではなく、それぞれ電車に乗ってから中で合流する、という徹底ぶりだ。
そのおかげで今のところうまくいっており、それぞれ新しい学校で仲の良い友人も作ることができた。
あとは家族用のグループにも連絡しておこう、もしかしたら帰りが遅くなるかもしれないしな。
グループには現在3人いる、翼はまだスマホを持っていないので仕方がない。
美沙からの『帰りが遅ければ先に食っておるからな by翼さん』という返信に思わず吹き出しそうになりつつ、荷物を持って駅へと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ちょっと前に来たばかりだけど、やっぱり緊張するな」
東京に置かれた冒険者協会の本部、そして各地にある支部はどこも冒険者たちの溜まり場としても機能している。
今どきスマホで情報交換やメッセージのやり取りは済ませられるとはいえ、ダンジョンに挑む以上は少なからず命の危険がつきまとう。
そんな状況で背中を預けられる仲間を探すには、やはり顔と顔を合わせて話をするのが一番なのだ……と何かで見たことがある。
俺は今までずっとソロプレイなのであまりよくわからない。
やっぱり江莉香にも来てもらった方がよかったかな。
いつも付き合わせるのは可哀想だし、と思ってわざわざついてこなくていいと言ったけれど、今になってその選択を後悔し始めてる。
「まあいいや、さっさと用事を済ませよ」
多くの冒険者で賑わう集会場を抜け、事務員のいる受付へと向かう。
「すみません、雨宮凰真です。メールを読んで来たんですけど」
「雨宮様ですね、わざわざお呼び立てして申し訳ありません。実は、ギルドへの招待が凄いことになっていて……」
そう言いつつ、受付の女性は紙の束をいくつも並べていく。
「これら全てが招待状となっています。本来はこちらでデータ化してお送りするのですが、いかんせん数が多く、加えて先日の事件で人でも足りておらず……」
確かにこの前のモンスターの襲撃事件は俺が知る以上に広範囲に被害が出たらしい。
死者こそ出なかったものの重症者はおり、何よりも街が受けたダメージは少なくない。
協会が対応に追われるのも致し方ない話である。
「わかりました、これを一個ずつ確認してほしい、そういうことですね?」
「はい、お手数をおかけして大変申し訳ないのですが」
忙しいであろうことは簡単にイメージがつくので責めるつもりは微塵もない。
むしろ俺のせいで仕事を増やして申し訳ないくらいである。
「ただ持って帰るのも大変なので、適当に詰めて郵送とかしてもらえますか?」
「もちろんそれくらいはさせていただきます、本当にありがとうございます!」
よほど忙しいのだろうな、思ったより感謝されてしまった。
ところで何故俺はこんなにも快く引き受けたのか。
もちろん忙しそうで可哀想、というのも理由の一つでもある。
だが最大の理由は『そもそもギルドに入るつも
りなんてこれっぽっちもない』である。
自分たちが生活できるだけの金を稼げればいいのだ、それ以外のことに時間を費やす余裕はない。
少し手間はかかるが、帰ってからまとめて処分してしまえばいいだけの話だ。
もっと悪い想像をしていたが、大した話じゃなくて良かった。
「さて、帰るかな」
「あれ、もしかして!」
晩御飯には間に合うな、なんて考えて歩いていたら、突然人影が目の前に立ちはだかった。
金色の髪をポニーテールにして一つにまとめているその少女は、白いノースリーブのシャツにホットパンツとかなり目のやり場に困る格好をしている。
「キミ、噂の凰真クンでしょ⁉︎」
「えっと、確かにそうですけど……」
「こんなとこで会えるなんてラッキー!ウチってついてる!あ、もしかして今からダンジョン?」
「いや、帰るつもりでした」
「そうなんだ!じゃあじゃあちょっと話そうよ、ちょっとだけでいいから!」
そう言いながら彼女はもう俺の手首を掴んでいる。
かなり勢いがすごくてどうにも断りづらい。
「まあ少しだけなら……?」
「オッケー!あ、あそこちょうど空いてる!」
高いテンションと勢いに負けた俺は、手を引かれてどこかへと連れて行かれてしまった。
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