第17話 二刀流
「れ、レイちゃん⁉︎一体何を言って──」
「貴方たちのような人間がその名前で呼ばないでください、不快です……レイなんて名前で配信者をやるべきではありませんでした」
そう言いながら、澪葉は背後に向けて右手を振るう。
その直後、俺たちの退路を経っていた大量の岩は粉微塵になり、跡形もなく消えてしまった。
「今、何を⁉︎……」
「大したことはないですよ。ただ岩を分子レベルで切断しただけです」
さも当然かのように言うが、なんなんだその反則級の能力は。
「さあ、凰真さん。私の手を」
俺は言われるままに澪葉に近づく。
だがこの場にいる男たちはそれを許さなかった。
「このっ、レイちゃんに近づくな!」
「邪魔をしないでください」
再び澪葉が手を振るうと、男たちの放った魔法はたちどころに消えてしまう。
「その力、もしかして何にでも使えるのか?」
「はい、物体も魔法も切ることができます。だから全てを破壊に導くもの、とそう呼ばれているんです」
「なるほど、凄まじい能力だ。だが騒ぎに乗じて我の凰真に近づこうとするのは見過ごせんな」
いつの間にか翼が俺のすぐ後ろに立っていた。
振り返ると向こう側にいた男たちは全員伸びている、手加減しながらも叩きのめしたらしい。
「なあ、もしかして翼は気づいていたのか?」
「確信はなかった、警戒はしていたがな」
「そうですね、あの時の貴女は怖かったです」
確かに今思い返してみると、澪葉と初めてあった時はかなりの時間同行していたはずなのだが、二人の間に一つも会話はなかった。
当時は疑問に思わなかったが、なるほど、お互い警戒するあまり言葉を交わす余裕もなかったというわけだ。
「まあ良い、先に奴らを片付けるとしよう。話はそれからだ」
「そうですね、では改めて手を」
「まて、其方は下がっていろ。ここは我と凰真でやる」
「いえ、私がやります。先ほどのでカメラも壊れてしまいましたし、今なら正体がバレる心配もありませんので」
一応俺たちは大勢の敵に囲まれて命を狙われてるはずなのだが、二人はそんなことお構いなしに睨み合っている。
「仕方ありません、こうなっては凰真さんに決めていただきましょう」
「それが良い。凰真よ、もちろん我を選ぶのだろう」
「大丈夫ですよ、凰真さんの好きなように決めてください」
二人とも俺に向かって手を伸ばし、こちらの目をまっすぐに見つめてくる。
なんかつい最近もこんなことあった気がする、だが何回も言うのだが、選べるはずもない。
だから俺はダメで元々、同じ答えを口にする。
「えーっと、どっちもじゃダメ?」
その瞬間、空気がシンと冷え切った気がする。
二人が互いに顔を見合わせる、もしかして地雷を踏んでしまったか、と思っていたが。
「仕方ない、今はそれで良しとしよう」
「凰真さんの選択です、私も異論はありません」
思ったより簡単に納得してくれた。
よかった、これで一安心だ。
俺はホッと一息つきながら、差し出された二人の手を同時に取る。
『しかし凰真よ、其方も我を持つに相応しい度量が身についてきたではないか』
『私は一目見た時から頼れる方だと思ってましたよ』
「こ、コイツ……星剣を二本同時に⁉︎」
「俺も驚いてるよ、まさかこんなことになるなんてな」
お前はいずれ星剣の二刀流で戦うことになる。
1ヶ月前の俺がそんなことを聞いたら、鼻でバカにするどころか耳を傾けようともしなかっただろう。
だがこれは紛れもなく現実だ。
魔剣ティルヴィング、崩剣レーヴァテイン、伝説とまで呼ばれた星剣を両手に握りしめているのだ。
「とりあえず、アイツらぶちのめせばいいよな」
『お願いします。私の力を存分に振るってください』
『やはり其方に振るわれるのが一番だ。さあ、行くぞ』
「よくも俺たちのレイちゃんを……雨宮凰真、お前だけは!」
澪葉も星剣だったという衝撃のせいで頭から飛んでいたが、そういえば俺はコイツらに殺されかけたのだ。
思い出すとだんだん腹が立ってきた、自然と両手に力が入る。
そしてこの怒りをぶつけるかのように両手を思い切り振り抜く。
だがその直前、俺は冷静さを取り戻した。
「なあ、星剣二本って効果も二倍なのか?」
『無論そうに決まっておろう』
「ヤバい!お前ら全力で避けろ!」
もう止まることはできない、俺は目の前の男たちに向けて思い切りそう叫んだ。
ただでさえ手にしたものに人智の力を与えるというのに、それが二本も合わさればどうなるのか。
俺はそれを身をもって知ることとなる。
「な、なんだよこれ……」
俺の力は二振りの星剣によって極限まで強化されている。
しかもレーヴァテインはあらゆるものの分子の結合を切断し、無に帰してしまう。
故にそこから放たれた一撃はダンジョンそのものを作り変えてしまうほどの威力となっていた。
「こ、殺される……」
「化け物だ!」
「やめろ、死にたくない!許してくれぇ!」
ダンジョンに人為的に作られた巨大な穴を目撃した男たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
俺もその光景を前にして放心しており、先程まで抱えていたはずの怒りなど綺麗さっぱり忘れてしまった。
「ふむ、なかなかに爽快な一撃であった」
「凰真さん、やはり私を扱えるのは貴方しかいません」
「ふざけたことを申すでない、我は認めんぞ」
「貴方は関係ないです、これは凰真さんの気持ちの問題ですから」
戦いが終わった途端、二人はすぐに言い合いを再開した。
しかし本当にどうなってるんだ、伝説の存在と呼ばれているはずの星剣が周りにこんなにいっぱいいるなんて。
ここまで来ると本当は他にもいるのではないか、これからも出会うことになるのではないか、という気がしてくる。
まあこれからどうなるかわからないが、一つだけ言えることがあるとすれば。
二人だけ(?)でのCランクダンジョン攻略は、想像より遥かに簡単だった。
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