第16話 コラボ配信

「凰真よ。最近其方は我を蔑ろにしてないか?」


 澪葉とコラボの約束をした日のこと、家に帰った俺に向かい、翼は突然そんなことを言った。


「急になんだよ」


「ダンジョンに連れて行け、ということだ。このままでは身体が鈍ってしょうがない」


「三日後でもいいか?澪葉……この前フレイムドラゴンから助けた子とダンジョンに行く予定があるんだ」


 3日後では流石に先のことすぎるかもな、それなら今日か明日にでも一度行くか、と思っていたら。


「わかった、それまでは我慢しておこう」


 翼は案外簡単にそれを受け入れてくれた。


「なんだ、その顔は」


 予想外の返答に驚いていたのだが、どうやらそれが顔に出てしまっていたらしい。


「いや、もっと急かされるかと思って」


「確かに少し長いな。だがあの少女がいるなら別だ」


「澪葉が?どうして?」


「彼女は何かを隠しておる。明らかに只者ではない何かを感じるのだ」


 俺にはよくわからない何かがあるのだろうか。

 少なくとも学校で共に過ごす上では特に何も感じたことはない。

 まあ翼が納得してくれたのならそれでいいか。


「それじゃあ三日後に頼むな」


「任せろ、その代わり思う存分戦わせてもらうぞ」


「モンスターが出たらな」


 スマホを開くと澪葉がチャンネル用のアカウントを利用し、Zで俺とのコラボを行うことを告知していた。

 俺はチャンネル用のアカウントなんてものは作っていなかったのだが、ある程度登録者も増えたことだし検討しても良いかもしれない。


 まあ今回に関しては澪葉に任せるとしよう。


「お兄ちゃん、ご飯できたよ!」


「りょーかい!」


 美沙に呼ばれたため、俺はスマホをその辺に放り投げて食卓へと向かった。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 そして迎えたコラボ当日、俺たちは事前に挑むと告知していたダンジョンの入り口で集合していた。


「澪葉……じゃなかった、今はレイだよな」


「はい、慣れないとは思いますが、そうしていただけると幸いです」


 うっかり配信中に本名で呼んでしまえば身バレに繋がるかもしれない。

 ちゃんと気をつけよう。


「それと翼さん、ですよね?本日はよろしくお願いします」


「我のことはあまり気にせずとも良い、体を動かしに来ただけだ」


 ここに来る途中で話をしたのだが、翼は本当にジョギング程度の感覚でここに来たらしい。

 今回の配信に映るつもりはあまりなく、画角の外で適当に戦いながらついてきてくれるそうだ。


 それなら一人でダンジョンに行けば良いのでは?と聞いてみたのだが、一人で行くのもつまらないらしい。

 なのでこうして俺たちと一緒に来ている。


 完全に別行動をしないのは、俺たちに何かあった時にすぐ翼の力を使えるようにするためだ。

 ちなみに江莉香もかなり来たがっていたのだが、この前のこともあって美沙を一人にするのは心配なので残ってもらっている。


「それじゃあ準備はいいですか?」


「大丈夫」


「わかりました、始めます!」


 告知通り18時を迎えたと同時に配信開始のボタンを押す、すると瞬く間に視聴者の数が増えていく。


「みなさん、今日も来てくれてありがとうございます、レイです!そして今日はゲストの」


「初めまして、凰真です!本日はよろしくお願いします!」


「事前に告知していたとおり、今日はコラボ配信です!二人でダンジョン攻略に挑戦します!」


〈楽しみ!〉

〈攻略まで行ってください、応援してます〉

〈普通に強いコンビだな〉

〈あれ、今日は星剣なし?〉


 視聴者数もコメント数も多い、告知の効果もあってか滑り出しは上々だ。


「それじゃあ早速行きましょう!」


 今回俺たちが挑むのはCランクダンジョン。

 それだけ聞くと簡単に思えるかもしれないが、体力や魔力の関係からダンジョンを少人数で攻略するのは非常に難しいとされている。

 たった二人で臨むとなるとかなり至難の業だ。


「ここは私に任せてください!」


 ただ戦闘においてはAランク冒険者である澪葉にとって、こんなの朝飯前。

 雷魔法で現れた敵をことごとく焼き払っている。

 それじゃあ逆にDランク冒険者の俺にとっては荷が重いのではないか、と思われるかもしれないが。


「ハァッ!」

 

「凄い、腕力でオークに勝てるんですね」


 翼と江莉香、二振りの星剣と契約を交わした影響から基礎的な能力が向上している。

 なのでCランクのモンスターなら俺一人で勝てるくらいには強くなってきたのだ。


 加えて背後から襲われる心配はほとんどしなくていい。

 カメラに映らないよう少し離れた位置で、翼がストレス発散がわりにモンスターを蹂躙している。


 実質三人、しかもうち二人はAランク冒険者と星剣。

 配信的には少し盛り上がりに欠けるかもしれないが、これは案外簡単に攻略ができて──


「走れ!凰真!」


 その時だった。突然背後にいた翼が俺に向かってそう叫んだ。

 普段あんなにも余裕のある翼が声を張り上げるなんてただ事ではない、俺は半ば無意識のうちにそれに従い、澪葉の手を引いて走り出す。


 直後、どこからか飛んできた魔法によって天井が崩落し、俺が先ほどまで立っていた場所が岩で埋め尽くされてしまった。

 配信に使っていたカメラもそこに巻き込まれてしまったらしい。


「あ、ありがとうございます……」


「なんだったんだ、今のは」


「凰真、無事か?」


「ありがとう、翼のおかげだ」


「礼など要らぬ。問題は其方に明確な敵意を持った者たちだ」


 翼に言われて顔を上げると、気がつけば俺たちの前に複数人の男が立っていた。


「だ、誰ですか?」


「今の、お前らがやったのか?」


「そうだ。雨宮凰真、よくも俺たちのレイちゃんに手を出してくれたな!」


「は?」


 なんだコイツら、会ったこともないのに何故俺の名前を知っているんだ。


「なんなんだよお前ら」


「俺たちはレイちゃんのファンだ。それも人気が出てきた最近になってついたニワカではない、昔からずっと応援してきた古参の……真のファンだ!」


「レイちゃんの健気さ、強さ、魅力……それをずっと前から知っていたのは俺たちだけ……なのに急に現れたお前如きがコラボだと?そんなの許せるはずがないだろうが!」


 呆れて何も言えない。

 コイツらはいわゆる古参オタク、というやつだろうか、勝手に真のファンを名乗って面倒な奴らだ。

 どいつもなら流すことができたのだろうが。


「だから邪魔な俺を消そうとしたのか?どうかしてんじゃないのか?」


 コイツらは明らかに俺を狙ってきた。

 もしあれの下敷きになっていたら重傷を負っていたのは間違いない、最悪死んでいた可能性だってある。

 話し合いもなしにそんな攻撃を仕掛けてきたのだ、コイツらは紛れもなく敵だ。


「其方はまた面妖なものに目をつけられたな、まさか我を退屈させまいと努力しておるのか?」


「そんなわけないだろ、てかそっちにもいるのか?」


「うむ、一応聞くが殺してはならぬのだろう?」


「相手は人だからな、さすがにそれはダメだ」


「となると加減が難しい、そちらに向かうには少々時間を要する」


「わかった、なんとか時間を稼ぐ。できるだけ早くきてくれ」


 さて、明らかにこちらを殺す気で仕掛けてきた奴らを相手に、どこまで時間を稼げるだろうか。

 だがすでに退路は塞がれている、やるしかない。


「レイはできるだけ下がっててくれ、アイツらの狙いは俺だか──」


「私のファン?凰真さんを殺そうとしたあなた達が?」


 俺は思わず敵に背中を向けてしまった。

 口調はいつもと変わらず丁寧なものだが、纏う雰囲気は明らかに変わった。


「私の大切な……大切な凰真さんに手を出した貴方達は最も憎むべき敵です。私は貴方達を断じて許しません」


  だがこの感覚は初めてではない、今までに二度感じたことがある。

 一度目は翼と出会ったとき、そして二度目は江莉香とともに学校を守るために戦ったとき。

 そこから導き出される答えはただ一つ。


「澪葉、まさか君も⁉︎」


「やはり我の感覚は正しかったようだな。其方も星剣か、名は何という?」


「私は崩剣レーヴァテイン、“破壊をもたらすもの”」

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