第15話 約束

「凰真さん、今度一緒にコラボ配信をいたしませんか?」


 それは突然のことだった。

 いつも通り授業を受けていたある日の昼休み、俺の元に来た澪葉はそう言ったのだ。


「いいけど、急にどうして?」


「タイミングを探ってたんです。ちょうど今は近くに誰もいないので」


「わざわざ直接言いにこなくても……ってアカウント交換してなかったか」


「はい、なのでそちらもお願いできれば」


「もちろん、全然いいよ」


 初めて会った時は色々大変でそれどころじゃなかったもんな。

 これでもういつでもスマホで連絡できる。


「ありがとうございます、それでは詳しい話は後ほどしますね」


 深くお辞儀をしてから澪葉は自分の席に戻っていった。

 一つ一つの丁寧な態度や美しい所作も相まって、彼女ほど“清楚”という言葉が似合う人はいないのではないかと感じる。


「ん?今澪葉と話してたのか?」


「まあちょっとな」


「やるねぇ、凰真は澪葉と楠葉さん、どっち派なんだ?」


 龍斗はトイレから戻ってくるなりそんなことを尋ねてきた。

 なんとも答えにくい質問だ、どっちを選んでも余計な誤解を招く気がする。


「選べないだろ、どっちもレベル高いし」


「バカやろ、だから選ぶんだよ。ほら、カモン!」


 満面の笑み、といってもニヤけながら俺の答えを期待している。

 これは答えるまで逃してくれなさそうだ。


「それなら江莉香、かな。付き合いも長いしな」


「ふーん、付き合いの長さが理由なんだ」


「うわぁっ、びっくりした!」


 知らないうちに背後に江莉香が立っていた。

 に江莉香を選んでおいて良かった、ここでもし澪葉と答えていたら帰ってから間違いなく不機嫌になってたからな。

 まあ今も微妙に不機嫌そうではあるが。

 

「それとこれ、先生から私たちに。また今度提出して欲しいって」


「え、また?」


「しょうがないよ、私たちは転校してきたんだから」


 俺たちの授業の進捗がわからないため、たびたびテストというほどではないが宿題で確認されるのだ。

 必要なのはわかるが、単純に労力が増えるのでめんどくさい。


 まあ帰って一緒にやればいいか、江莉香は頭いいし。

 今話している感じなんだかんだ怒ってはなさそうなので、手伝ってくれるだろう。


 一旦プリントはカバンにしまう、ついでにスマホを確認すると既に澪葉から連絡が来ていた。

 メッセージを返そうと思ったのだがちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムがなってしまった。


 向こうからの連絡には放課後の待ち合わせの時刻と場所も書いてある、詳しい話はそこで聞くとしよう。

 俺は簡単にメッセージを返し、満腹からくる眠気と闘いながら午後の授業に臨んだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ごめん、遅くなった」


「大丈夫です、私もついさっき来たところですから」


 放課後、俺と澪葉は一度お互い別々に学校を出た後に近くの公園で合流していた。

 そんな面倒な真似をしたのは余計な噂が立つのを防ぐためだ、澪葉には配信についているファンがたくさんいるし、後は龍斗もそういったことに目ざとい気がする。

 もし見つかったら、なんて時のことは想像したくない。


「それで話ってのはコラボのことだよな?」


「はい、私と凰真さんで一緒に配信をしたいな、と思いまして」


「俺としては全然いいんだけど、いいの?澪葉にはあんまりメリット無さそうだけど」


 澪葉はここ最近で急激に人気が上昇しており、この前は登録者数が60万人を超えた。

 元々いた根強いファンに加えてこの流れも合わさり、今後さらにチャンネルが大きくなると予想されている。


 そんな澪葉とコラボできれば俺の方にも幾らか視聴者が流れるのは期待できる。

 ただ澪葉からすれば俺と配信してもあまり視聴者の増加には期待できない、それどころか一部のファンはむしろ嫌がりそうな気がする。


「そんなことはありません。私は今後配信活動をしていく上でコラボというのは不可欠だと思っております、現に最近はお誘いもよくいただきますし」


「まあ人気だもんな」


 それだけじゃなくて可愛いしな、という文言は心の中で付け加える。


「ですが、実は私はコラボというものをしたことがなくて……特に男性が相手だとどうしたら良いのか、イメージすらつかないんです」


「あー、なるほど。それで俺とやって慣れておきたい、ってこと?」


「はい、凰真さんとならこうしてリラックスしてお話しできるので、お手伝いいただきたいのです!もちろん勝手なわがままだとは理解しておりますが」


「全然いいよ、それくらい。俺としても澪葉とコラボできたらいいことづくめだしな」


「本当ですか⁉︎」


 パァッと花を咲かせたような笑顔を浮かべ、俺の手を取る。

 澪葉があの教室で人気な理由がわかった。

 無自覚に他人を恋に落とさせるタイプだ、いつも明るく誰にでも分け隔てなく接する江莉香とはまた違う、いわゆる『高嶺の花』というやつだ。


「うん、それじゃあ日程を決めよっか。俺としてはいつでもいいけど」


「それでは、三日後の金曜日はいかがでしょうか」


「三日後ね、オッケー」


「ありがとうございます、それではよろしくお願いします!」


「うん、こちらこそよろしく」


 こうして三日後、俺たちはお互いにとって初めてとなるコラボ配信を行うことになった。

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