第9話 救出作戦

「ハァッ!」


 ティルヴィングの一振りでドラゴンの胴体を両断する。

 

「ありがとう!もうダメかと思ったよ!」


「帰り道は安全です、今のうちに逃げてください」


「本当に恩に着るよ、それじゃあ!」


 これで救出した冒険者は10人目、倒したモンスターは何体目だろうか。

 30を超えたあたりから数えられていない。


「さっきからどうなってるんだ、これじゃまるで別のダンジョンだぞ」


「恐らくは星剣の影響だ」


 霧散していくモンスターを見つめながら、翼は冷静にそう答えた。


「星剣?それって翼のことだろ?」


「我はあくまで星剣の一振りに過ぎぬ。そして星剣の中には特に強力な力を持つ三つの剣があるのだ」


「特に強力な力を持つ星剣?」


「そうだ、それらは『神代三剣』と呼ばれる。このダンジョンの変容はその影響としか思えぬ、あくまで我の仮説に過ぎぬがな」


「神代三剣……それがこの奥にいるってことか」


「そうとも限らぬ。奴らの力ならば意図せずこの程度のことを引き起こす可能性もある、そもそも我の考えが間違っていることだってある」


〈星剣の中でもヤバいってどんだけなんだ……〉

〈誰かが手にした可能性もあるってことだよな?〉


 結局のところ原因は翼にもわからないらしい。

 だが話を聞く限りその『神代三剣』というのはかなり危険な気がする。

 今回の原因かどうかはさておき、その名前と存在くらいは覚えておいた方が良さそうだ。


「それじゃあここからはさらに気を引き締めたほうがいいな」


「油断はするな、我がいれば案ずることはないがな」


「わかった」


 原因のわからないのものに怯えていても仕方がない、それに翼でも勝てない相手、なんて考えたくないしな。


「……言った側から総大将のお出ましのようだな」


 地の底から響く唸り声、一歩進むごとに伝わる振動。

 ダンジョンを進み始めてから100分、俺たちの前にこれまでのモンスターともさらに一線を画す、恐ろしい気配を放つモンスターが姿を現した。


「ヘゲイルか、かようなモンスターまで現れるとは」


「知ってるのか?」


「フレイムドラゴンなどと言ったモンスターよりもさらに格が違う」


「SSランク⁉︎」


「そしてその特徴は……」


 俺と翼は一瞬放たれた殺気を察知し、素早く両手に散る。

 その直後、俺たちがいた場所に拳が突き刺さる、ヘゲイルの脇腹から生えた3本目の腕が。


「あのように、身体のどこからでも部位を生やすことができる」


「本当に生き物かよ」


 攻撃を避けつつ素早く背後を取ったのだが、ヘゲイルの背中にはまた別の目がついており、俺たちをギョロリと睨みつける。

 そして肩の辺りから新たに二本の腕を生やして叩き潰そうとしてきた。


「隙はどこにもないってことか」


「ならば真っ向から叩きのめすまでだ」


「ああ、いくぞ!」


 背後を取る、隙をつく、そんな小細工は通用しない。

 ならば真っ向勝負、正面から倒すのみ。


 迫り来るヘゲイルの腕をティルヴィングの一振りで切断する。

 それでようやく向こうはこちらを脅威と認識したのだろう。

 岩肌で覆われた仄暗い空間が、一瞬のうちに100を超える剛腕で埋め尽くされた。


『ここからが本番だ、構えよ』


「ウォォッ!」


〈早過ぎて見えないww〉

〈異次元の戦い……〉

〈星剣vsSSランクモンスターは熱い〉


 ティルヴィングの間合いに入った腕を片っ端から切り刻む。

 さすがはSSランクモンスター、これまで戦ったどんな相手よりも速いが、ティルヴィングの力があれば十分に対応できる。


 しかし守るだけでは勝てない。

 ならば攻撃の合間を縫い、逆にこちらからの一太刀を浴びせるまで。


「コイツを、くらえっ!」


 ティルヴィングの一撃は空を裂き、幾つもの腕を切り落としながらヘゲイルの胴も両断した。


〈マジで強すぎる!!〉

〈人類最強クラスだろ〉

〈俺も星剣欲しい……〉


 ヘゲイルを倒したことにコメント欄は賞賛の嵐となっていた。


「すいません、皆さんありがとうございます!」


 しかも見たことないレベルでお金が飛び交っている。

 多分すでに俺が1ヶ月で稼げる額を超えているだろう。


〈冒険者ランクはいくつなんですか?〉


「冒険者ランクですか?恥ずかしながら一番下のEランクなんですよ」


〈Eランクwwなんでww〉

〈余裕でSランクいけるでしょ〉

〈SSランクだよ、どう考えても〉

〈こんなの勿体無いから本気で頂点目指して欲しい!〉


 今まで冒険者のランクを上げようなんて考えてこなかった、だってそのためにはまず10万円が必要。

 そんなの俺たちに出せるわけがなかったから。


 でももしかしたら、配信の登録者が増えてすごく好調の今なら払えるかもしれない。

 そうしてランクが上がれば、そして翼の力があれば、もうこんな生活はしなくてよくなる。


「それじゃあ昇級試験を受けてみようかな」


〈その配信もして欲しい!〉


「配信をするかはともかく、上のランクは目指してみようと思います!」


「当たり前だ。我を振るう者が下のランクに甘んじていることなど許されぬ」


 翼と出会って強力な力を手に入れた、配信にもたくさんの人が来てくれるようになった。

 さらにランクも上げることができれば、冒険者活動でずっと稼げるようになる。


 頂点を目指すとかはまだ考えられない、今はとりあえず当たり前の生活を願うだけ。

 でもその希望はだいぶ見えてきた。


 これまでの全てが変わるかもしれない、ようやく努力が報われるかもしれない。

 そんなことを夢見ながら、俺は今日の配信を終了して家に戻った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それからしばらくして、凰真とヘゲイルが激闘を繰り広げた空間には一人の男が立っていた。


「クソッ、凰真の野郎……このままやられたままでいられるか!」


 その男、夏目秀太は拳を強く握りしめ、瞳には怒りの炎を宿していた。


「確か『神代三剣』とか言ってたな……そいつは俺が必ず手に入れる、そして今度こそ立場ってもんをわからせてやる。覚えてろよ、雨宮凰真!」

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