第7話 因縁
放課後になるや否や、夏目秀太はすぐ俺の元にやってきた。
「1時間後にお前が昨日いたEランクダンジョンに来い。怖気付いて逃げるんじゃねぇぞ?」
「わかったよ」
1時間後か、となると16時半くらいに会うことになるな。
手短に、できれば30分くらいで要件を終えてくれればそこからでも十分に稼ぐ時間はある。
こうなったら因縁をつけられたとかどうでもいい、早く終わってくれることを願うばかりだ。
「雨宮くん、本当にいいの?」
楠葉さんは心配そうに尋ねてくる。
どうしてそこまで俺のことを気にかけてくれるのだろうか、きっとそういう性分なのだろう。
困ってそうな人がいたら見過ごすことはできず、誰にも手を差し伸べて笑顔を振り撒く学園のアイドル、それが楠葉江莉香なのだ。
「心配してくれてありがとう、でも本当に大丈夫だから」
さて、それじゃあ一旦帰るとしようか。
普段なら学校から直接ダンジョンに向かうのだが、もし行くのならその前に声をかけるようにと翼に言われている。
なので家に寄って翼を連れていく必要があるのだ。
ただどうしても連絡手段がないと不便だな。
いっそのこと翼にも冒険者にもなってもらおうか、そしたら支給されるデバイスで連絡が取れるようになる。
そんなことを考えながら家路を急いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それで我に冒険者とやらになってほしいと」
「別に試験があるわけでもないし、色々と便利になると思うんだよな」
「なるほど、考えておこう」
「話しながら来るとは随分余裕みてぇだなぁ?」
ダンジョンに到着すると既に夏目秀太が待ち構えていた。
「凰真よ、なんだこの男は」
「えーっと……」
しまった、10分前に着けばまだいないだろうと思って何の説明もしていなかった。
予定ではこのあと適当に理由をつけて翼には先で待ってもらって、さっさと夏目秀太の要件を済ませてもらうつもりだったのに。
「星剣を手に入れたのなんて嘘だろ?テメェみたいな冴えない奴が手にできるはずがねぇからな、あれは俺が手にするべきものだ」
「清々しいまでに欲に塗れた男だな。見ていて反吐が出る、人間の愚かな部分を煮詰めてできたかのような存在だ」
「んだと⁉︎」
コレばかりは夏目秀太がキレるのも良くわかる、さすがにそこまで言わなくていいだろうに。
発言した当の本人は凄まれようが涼しい表情のまま、明らかに夏目秀太を見下していた。
「まあいい、用があるのはお前だ、雨宮凰真」
「なんだよ」
「前からお前は気に食わなかった、でも今まではどうでも良かったんだ。俺が上にいくにはお前のような踏み台になる存在も必要だからな」
何が踏み台になる存在、だ。
どうしても俺は放課後誰かと過ごす機会なんてなく、誰とも関係性は薄い。
だから俺を擁護してくれる人はいなかった、それこそ楠葉さんくらいだ。
それを受けてコイツは『誰も自分には言い返せないのだ』と勘違いしてより増長していった。
今ではすっかり王様気取りだ。
でも結局のところは無理矢理俺にマウントをとって勝ち誇った気になっただけにすぎない。
それを口にすれば余計面倒なことになるので言わないが。
「なのによ、嘘をついて俺より先に10万人を達成しやがって……お前、まさか俺に勝った気でいるんじゃないだろうな」
ようやくわかった、コイツは下に見てた俺に配信の登録者で先を越されたことが悔しいのだ。
こっちとしてはただの偶然なのに、それを逆恨みされるなんてたまったもんじゃない。
「肥大化した自尊心と傲慢で飾られただけの愚物だな」
そんな夏目秀太を見て翼は吐き捨てるように言った。
「相手をする価値もない、行くぞ」
「待てよ」
「我に命ずるな。その資格を持つのは凰真だけだ」
「俺はお前も気にいらねぇんだよ。本物の星剣がコイツなんか選ぶはずがねぇ、テメェはただの偽物なんだろ?」
「ほぅ……」
その瞬間、明らかに翼の空気が変わった。
「我と凰真、その両方を愚弄するとは。身の程をわきまえぬ三下には現実を教えてやらねばな。凰真よ、配信とやらを始めるのだ」
「配信?なんで?」
「大勢の前でこの男を叩きのめす、そうしてプライドをへし折ってやれ」
「自分から恥を全世界に晒そうってか?俺は構わないぜ。何なら俺の方でも配信をしてやるよ」
「だそうだ」
なんか話がエスカレートしてきた、というかいつの間にか戦う流れになってないか?
とはいえ俺が言ってももう何も聞いてくれそうにはない。
とりあえず配信は始めるか、どうせこの後やるつもりだったし。
「うわっ」
何も告知なんてしてないはずなのに、始めたすぐそばから視聴者がついた。
そしてその数は止まることなく増え続ける。
〈配信始まった!〉
〈今日もやるんだ〉
〈なんか奥のやつ見たことあるな〉
〈あれじゃね?迷惑系とかでちょっと有名な奴、名前忘れたけど〉
人気があるとは聞いていたけど迷惑系の配信者だったのか、納得できるけど。
「配信に来てくれた方、ありがとうございます!今日もダンジョン攻略とか色々?やっていきたいと思います。よろしければ──」
「凰真、後ろだ!」
声がしたと思ったら翼に腕を引かれた。
その直後、俺が先ほどまでいた場所には夏目秀太の拳が振り下ろされていた。
「チッ、外したか」
「おいおい、マジか」
さすがにドン引きだ、まさか背後から騙し討ちするほど性根が腐ったやつだとは思わなかった。
しかも今の一撃、間違いなく身体強化の魔法を使っていた、でなければ拳が地面を割るはずがない。
元々性格が良くないことは理解していたが、迷惑系配信者として名を馳せていたことといい、実際は俺が思う以上にヤバいやつなのかもしれない。
さっきまで乗り気ではなかったが、今はやる気が出てきた。
「翼、頼む」
「わかっている。あんなクズ、さっさと片付けるのだ」
俺と翼の手が繋がる。
次の瞬間、俺の右手にはティルヴィングが握られていた。
『力加減には気をつけるのだ、本気でやればあの程度の男、一瞬で絶命させてしまう』
「わかってる」
昨日のフレイムドラゴンとの戦闘でわかった。
ティルヴィングの力は俺が思うよりもずっと凄い、身体強化魔法を使っているとはいえ相手は人間、気を抜けば簡単に胴体を真っ二つにしてしまう。
殺人はまずいので慎重に、慎重に、斬らないように剣の腹を当てて振り抜く。
「ガハァッ!」
かなり力を抜いたつもりだったが、それでも完璧には制御できていなかったらしい。
一振りしただけで断末魔をあげながら夏目秀太の身体は宙を舞う。
そして落ちてきた頃には気を失っており、それから動くことはなかった。
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