第6話 翌日
翌日、いつものように何の気なしにスマホから自分のチャンネルを確認し、言葉を失った。
一晩でチャンネル登録者数が10万人を超えていたからだ。
SNSの『Z』を開いてみると、トレンドの上位は星剣に関する言葉で独占されている。
しかも俺の昨日の配信の切り抜きも出回っている。
試しに一つ再生してみると、それは俺と翼が契約を結ぶ時のものであった。
「なる、ほど……」
しばらくトレンドを追いかけて、ようやく何が起きているのかを理解してきた。
昨日配信をつけたままにしていたということは、澪葉を助けた瞬間はもちろんのこと、翼と出会った時のことも全部映っていたのだ。
それを見れば嫌でも翼が星剣、ティルヴィングであることがわかる。
遂に星剣は実在することが明らかになったせいで、これだけ各種SNSがお祭り状態になっているのだ。
どうやら昨日の夜の時点で多くの人が星剣を求めて各地のダンジョンを捜索しているらしい。
「何を今更騒いでいる、我らの存在など当に知っていたのではなかったのか?」
「うお、ビックリした」
いつの間にか翼が画面を覗き込んでいた。
いきなり背後から声が聞こえてきたものだから心臓が飛び跳ねるかと思った。
「この程度で驚くでない。それよりどうしてだと聞いておる」
「どうしてって言われてもな……単純にみんな信じてなかったんだよ、人の姿と心を持つ剣なんてあるわけないって」
「やはり人間は愚かだな、なぜこうは考えなかったのだ?『人の姿を持つのならばすぐ近くにいるのかもしれない』と」
「俺たちの周りにいるのが実は星剣だったってこと?そんなの考えるわけないだろ」
そんなこと言われるまで夢にも思わなかった。
確かにもしもそうとは知らずに翼と会ったとしても、実は星剣だった何で気づかないだろう。
そう考えると他の星剣が人として誰にも気づかれずにいる、というのはゼロではないのかもしれない。
「お兄ちゃん、ゴミ出しお願い!」
「あいよ!そのあと洗濯物も干しとくな」
「うん、ありがとう!」
「美沙こそいつもご飯作ってくれてありがとな」
実はあの子が星剣だった、なんて妄想するのも楽しいがまずは現実を見なければ。
結局のところ確率としてゼロではない、というだけで現実的に考えればあり得ない話。
誰かが星剣かもしれない、なんて考える暇があるなら学校が終わった後のことを考えるべきだ。
いつも通りダンジョンに行く、それは変わらない。
だが今はチャンネルにかなりの登録者がいる、このチャンスを活かせればかなり稼げるかもしれない。
恐らくは今日が勝負の日、俺は自分の頬を叩いて気合を入れてからゴミ出しへと向かった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
気合い十分のまま学校に着いた俺は、とりあえず筆箱を取り出そうと鞄を開く。
そこで予期せぬものが入っていたことに気づいた。
「あ、そういえばカバンに入れたんだっけ」
そこにあったのは刀身が錆び付いてボロボロになった小さい剣。
これをダンジョンで偶然見つけて手に取ったその時、地面が崩落してティルヴィングが眠っていたあの場所に落ちたのだ。
その時にカバンにしまったのを今の今まで忘れていた。
「どうしたもんかな」
持っていても仕方ないのだがここで捨てるわけにもいかない。
一旦はカバンに入れたままにして、またダンジョンのどこかで置いていこう。
さすがに売れそうには見えないしな。
「おはよう、雨宮くん」
「ん?ああ、おはよう」
顔を上げると楠葉江莉香がいた。
「すごいよね、雨宮くん。一気に人気者だよ!」
「配信のこと?あれはたまたまというか」
「たまたまじゃなくてヤラセだろ?お前みたいな奴が星剣なんて手にできるはずがないもんな」
突然そう話に割り込んできたのは
なんでも高校生にして既にかなりの実力を誇り、配信者としても人気が高く、既に10万人近い登録者がいるらしい。
そして普段から俺はよく目の敵にされている。
というのも生きていくのも精一杯なので誰かと遊ぶ余裕はない俺は、いつも時間がある限りダンジョンに行っていた。
そのせいでノリが悪いやつと認識されるようになり、気がつけば標的になっていたのだ。
「秀太くん、そんなこと言っちゃダメだよ」
その度に楠葉さんはこうして止めに入ってくれる。
いつもならそれで事なきを得るのだが。
「コレは俺とコイツの問題だ。お前、調子に乗ってるだろ」
「なんでそうなるんだよ、別に俺は」
「うるせぇ、お前今日の放課後空けとけよ。俺が現実を教えてやるよ」
夏目秀太はそれだけ言って去ってしまった。
今までこんなことはなかったというのに、何がアイツの気に食わなかったのだろう。
「大丈夫、雨宮くん。私が今から言ってくるよ」
「いや、いいよ。どうせその場しのぎにしかならないし、面倒だからさっさと終わらせた方がいい」
「本当に?雨宮くんがそう言うなら……でも何かあったらすぐに言ってね、絶対私は力になるから!」
楠葉さんは笑顔でそう言ってくれた。
こういうところが多くの男子を惚れさせてきたのだろうな、なんとなくわかった気がする。
しかし面倒なことになってしまったな。
どうなるのかはわからないが……まあ適当に済ませよう。
最悪理由はなくとも2,3発殴らせれば気が済むかもしれない。
ただ一つ問題があるとすれば、今日もダンジョンに行けなければそろそろ貯金が怪しくなることだ。
「はぁ……」
俺は憂鬱な気分になってため息をつきながら、1限目の始まりを告げるチャイムを聞いていた。
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