第2話 魔剣との契約
「ティルヴィング……?」
それは聞いたことのない名前であった。
だが彼女の発した『星剣』という言葉には聞き覚えがある。
それは地球に落ちた星が生み出したダンジョンに眠る、地球には存在しない武器の一つ。
人の姿と心を持ち、手にしたものに人智を超えた力を与えるとされる、伝説の武器の総称。
「随分と間抜けな顔だのう、本当に其方が我を目覚めさせたのか?」
星剣に関する噂はそこらでまことしやかに囁かれる一方で、実際の目撃情報は一つもない。
所詮はただの都市伝説だと言い張る人も多いし、事実俺だってその存在を信じていなかった。
それでも今は『星剣は実在する』と断言できる。
根拠はどこにもない。
だが、目の前にいる彼女からはこれまで一度も経験したことのない、形容し難い何かを感じるのだ。
そしてその“何か”によって、彼女が普通ではないと嫌でも理解させられる。
「質問に答えんか。それとも立ったまま寝ているのか?」
「あ、いや……その……」
「その反応、我を目覚めさせたのは偶然か」
しどろもどろになっている俺を見ながら、目の前に立つ美女、ティルヴィングはつまらなそうにため息をつく。
「まあこの際なんでも良い。我の手を取れ」
ティルヴィングは俺に向けて右手を差し出した。
まだ事態の全容を把握できたわけではないが、どうやら俺は意図せずしてティルヴィングを眠りとやらから目覚めさせてしまったらしい。
もしかしてここで彼女の手を取れば、俺は世界で初の星剣の所有者になれるのだろうか。
本当にそんな美味しい話があるのか?
そう懐疑的になりつつも、言われるがままに差し出された手を取る。
「さあ、願いを言え。我が叶えてやろう」
御伽話じゃあるまいし、急にそんなことを言われても答えられない。
今よりもっと強くなりたい、配信ももっと人気が出れば稼げるようになる。
というかそもそもお金が欲しい、そのためにこうして毎日頑張っているのだ。
あれも欲しい、これも欲しい、色んな願い事が頭の中に思い浮かぶ。
でもそれらの原点にあるものは全て同じ、俺の願いも目的も最初からただ一つ。
「美沙にもっと楽や生活をさせてやりたい」
それだけだった。
「なんだと?」
「もし本当に願いを叶えられるなら、妹に今よりずっと楽や生活をさせて、勉強や遊びに集中させてあげたい。俺の願いはそれだけだ」
「本気で言っているのか?其方が望むのものは富でも名声でも力でもなく、妹の幸福だというのか?」
「ああ、そうだ」
そう答えた瞬間、体の奥底から力が湧き上がるのを感じた。
それと同時に俺たちの周囲から禍々しい魔力が噴き出し、ティルヴィングの身体は淡い光に包まれる。
そしてゆっくりとその姿を変え、やがて俺の手の中には一振りの剣があった。
『信じられん、まさか我を操るものが現れるとは』
手を通してティルヴィングの声が頭に響く。
『我は人間の欲望を増幅させて力に変える。これまで我を手にしてきた者は皆、莫大な力と引き換えに理性を失ってきた、故に“魔剣”と呼ばれていたのだ』
「え、でも今の俺は……」
『ああ、其方は真に妹の幸せを願っていた。故に己の欲に負けることなく、理性を保っていられるのだ。だが感じるであろう?我を通して得られるこの力』
「わかるよ、これが伝説と呼ばれる“星剣”の力……」
今ならなんだってできる気がする、それだけの力を感じる。
なんて思っていたら手の中の剣は眩い光を放ち、再び人間の姿に戻っていく。
「まさか我に手にするに相応しい人間が現れるとはな、面白い。いいだろう、契約だ、其方を我が所有者として認めてやろう」
ティルヴィングは心底満足そうな笑みを浮かべながらそう告げる。
だが俺の方はよくわかっていない、契約って何のことなんだ?
「おい、何だその反応は。まさか我と契約を結ぶのは不満だと言うのか?」
「そうじゃないけど……契約って?」
「決まっておろう、正式に我の所有者となるのだ。我らもまた人間と契約を交わすことで、真の力を十全に発揮できるようになる」
正直なところ展開が急すぎて頭が追いつかない。
ボロボロの剣が落ちてるかと思えば突然洞窟が崩落して、その中にもう一振りの綺麗な剣があった。
かと思えばそれは伝説の武器と呼ばれる星剣の一つで、俺は今そのティルヴィングに契約を迫られている。
一度これまでの流れを整理してみたが、やっぱり理解できない。
それなのによく見たら地面から浮いている、なんてどうでもいいことには気づいてしまう。
何もかもわからないことだらけだ。
だけど一つだけはっきりしていることがある。
「もしも契約を結べば……ここよりずっと難しいダンジョンだって攻略できるのか?」
「当たり前だ、我を何と心得る。其方らが伝説と呼ぶ星剣が一つ、魔剣・ティルヴィングであるぞ」
俺は願いは美沙の笑顔を守る、それだけだ。
そのために今日まで頑張ってきたんだ、この思いはこれからもずっと変わらない。
だからこの奇跡の出会いを、千載一遇の好機を逃すわけにはいかない。
「契約する。ティルヴィングの力を俺に貸してくれ」
「契約成立だ。我が
「俺は凰真、雨宮凰真。これからよろしく、ティルヴィング」
「雨宮凰真、良い名だ。それとこれから先、我が人の姿でいる間はこう呼ぶがいい。
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