義妹と二人暮らししている底辺配信者の俺、魔剣(美女)と契約してしまい大バズりする〜なんか伝説の剣が周りにいっぱいいるのですが〜
上洲燈
第一章
第1話 魔剣との出会い
「雨宮くん、大丈夫?」
昼休みの時間。
疲労困憊のあまり机に突っ伏していた俺は、声をかけられて顔を上げる。
そこには品行方正で才色兼備、学校のアイドル兼学級委員長の
「大丈夫、眠かっただけだから」
「それならいいけど、しんどかったら保健室まで一緒に行くよ?」
「本当に大丈夫、心配してくれてありがとう」
その容姿のあまり芸能界から何度もスカウトを受けたなんて噂もあり、男女問わず学校の大半は彼女に恋をしていると聞くが、確かにそれも納得だ。
クラスの誰とも関わりのない俺にもこうして声をかけてくれるとは性格まで良いらしい、まさに完璧超人と言ったところか。
ちなみに俺は彼女のことをどう思っているのかと聞かれたら、『そんな余裕はない』とだけ答えておく。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「今日の稼ぎが8000、孤児院の仕送りと家賃とか生活費を引いたら4000、あとは明日の……」
そんなことがあった高校からの帰り道。
俺はさっき稼いだばかりのなけなしの金を手に、そのお金がどこに消えていくのかを指折り数える。
「よし、今日は少しくらい豪華な晩飯にするかな」
そして帰りに近くのスーパーに寄り、それから家に帰った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま」
「おかえり、おにいちゃん!」
築30年近いボロいアパートの一室に入ると、可愛い義妹の
17歳の俺、
なぜ子どもだけで過ごしているのか、それはすべて星域のせいである。
今から50年前、突如としてこの世界に無数の隕石が降り注いだ。
それは過去のどんな災害よりも甚大な被害をもたらし、多くの人が命を落とし、人類の生活は一変した。
だが流星の被害はそれだけにとどまらなかった。
地上に降り注いだ星の幾つかはその内部に『星域』と呼ばれる異空間、いわゆるダンジョンを形成したのだ。
星域の中には危険な罠が多数存在し、魔物や魔族と呼ばれる人類の敵も生息している。
それどころか時には星域から魔物が外に現れ、周囲に二次被害をもたらしていく。
俺と美沙は元々星域の影響で両親を失い、とある孤児院にいた。
だが2年前にその孤児院もダンジョンから這い出た魔物に襲われたのだ。
幸いにも犠牲者は出なかったが被害は大きく、当時最年長だった俺と美沙は迷惑はかけられないから、と孤児院を出て自力で生きていくことを選んだ。
そうして今はお互いに学校に通いつつ、空いた時間で家事をしたりお金を稼いだりして日々を凌いでいる。
子どもたちだけでもなんとか生きていけるのは、皮肉にも俺たちをこんな生活に追いやった星域のおかげである。
星域には危険も多い一方で、様々な貴重な資源や魔石と呼ばれる現在のエネルギー源を始めとした地球には存在しない様々な物質が眠っている。
そして星域が現れると同時に、人類は魔法と呼ばれる不思議な力に覚醒した。
そのため今では魔法を武器に星域に潜り、魔物を倒したり資源を採取する『冒険者』というものが一般的になっている。
俺も合間を見つけては生活費のために星域に潜っており、昨日は夜通し星域で魔物を倒して素材を集めていた。
そのせいで今日はひどく疲れており、高校ではほとんど寝て過ごしていた。
ついでに最近では星域内を進む様子を配信する、星域配信者というものも増えた。
中には1000万登録に到達する人もいるほどの大人気コンテンツである。
俺も一応やってはいるのだが、結果は散々で1人2人視聴者がいればいい方だ。
まあ結局そんなこんなで、貧乏ながらどうにか生きているのが俺たちである。
「今日は奮発してカツを買って来たぞ」
「ホント!それじゃあ早く食べよ!」
美沙が先ほどまで机に並べていた勉強道具を片付け、俺は半額シールのついた惣菜のパックを並べる。
「美味しそう……って、こんな贅沢して大丈夫なの?」
「ああ、明日も星域行ってくるからな」
俺はそう言って美沙の頭を撫でる。
今日は6時間ダンジョンに潜って、8000円稼いだ。
明日は休日だからもっと長時間潜り、たくさん魔物を狩るとしよう。
本当はもっとお金を稼いで裕福な暮らしをさせてやりたい、美沙は受験生なのだから尚更だ。
だがいい素材を買い取ってもらうには、上のランクに達する必要がある。
そのための試験を受けるには最低でも10万円が必要なのだが、当然俺たちにそんなお金を支払う余裕などない。
だから時間をかけてたくさんEランクの素材を集め、端金を稼ぐしかないのだ。
「美沙、美味しいか?」
「うん!すっごく美味しい!ありがとう、お兄ちゃん!」
この満面の笑顔だけで俺は頑張れる。
もう二度とこの笑顔を曇らせはしない、俺はそのために明日も星域に潜る。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃあ今日も星域探索兼配信でも始めるか。」
例の如く視聴者はいないが、今更気にすることでもない。
これで1円でも多く手に入るのならそれで十分、まして探索者協会から支給された無料のスマホでもできるというのだから、例え底辺配信者だとしてもやらない手はないのだ。
「さーて、奥まで進むかな」
この星域は毎日のように来ている、そのため勝手知ったる我が家の如く、先へ先へと進んでいく。
だが星域には昨日はなかった何かが今日には生まれることもあるので、常に目は光らせる。
運良く希少な鉱石でも落ちてないかな、なんて考えていると突然スライムが現れた。
「1匹だけか、ほっ!」
火炎魔法を放つと爆発によってスライムは跡形もなく消える。
一応お金にはなるから魔石は拾っておこう、そう思って近づくと、何かがキラリと光った。
「なんだ、これ」
爆発によって砕けた岩の隙間から覗くのは、見たことがないほどボロボロになった剣の柄であった。
「こんなところに剣?」
もしかしたら貴重なものかも、そう思って引き抜いたその時だった。
突然洞窟が激しく揺れ動き出す。
「な、なんだ⁉︎」
揺れは収まるどころか激しくなっていき、遂にはあたりにヒビが入ったかと思うと、そのまま崩れていった。
「いってて、何が起きたんだ」
今まで1年以上このダンジョンに来ているが、こんな事態は初めてだった。
〈大丈夫ですか?〉
「あ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます、あと見に来てくれてありがとうございます!」
見るとたまたまリスナーが2,3人いた。
さらに心配してくれてるからだろうか、さっきのコメントには500円の投げ銭がついている。
これで俺の朝食と昼食は確保された、これだけでも落ちた甲斐があったな、なんて考えつつ顔を上げると、そこには大きな剣が突き刺さっていた。
「また、剣?」
今俺が手にしているボロボロの剣とは違い、すごく綺麗な見た目をしていた。
まるで新品同様、ついさっき誰かがここに刺していったと言われても納得できる。
さらによく見ていると、それは数秒おきに紫の怪しい光を淡く放っている。
それには思わず惹き寄せられる謎の魅力があった。
俺は自分の衝動に抗えずに手を伸ばす、そして触れた瞬間──
「うぉっ!」
その剣はより一層強い光を放つ。
あまりの眩しさに目を開けていられず、俺は思わず目を逸らしてしまう。
次に目を開けた時には、もうそこに剣はなくなっていた。
「なんだったんだ、今の」
「少年」
「はっ!」
突然後ろから声が聞こえた。
さっきまで誰もいなかったはずなのに、俺はそう思いながら振り返る。
「我を目覚めさせたのは、其方か」
そこにいたのは白く長い髪と血のように紅い瞳が特徴的な、褐色の肌をした長身の美女であった。
「だ、誰……?」
「ほう、知らずに我に触れたか」
美女はおもしろそうに笑い、それから言った。
「我は魔剣、改め魔王・ティルヴィング。其方たちが星剣と呼ぶものの一振りよ」
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第一話をお読みいただきありがとうございます!
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