第13話 異人達の夜②

 大通り沿いにある商店で旅に必要な物や保存食を買い揃えた俺達はポドギアの北側の出口へ向かった。

 ポドギアの大通りには馬車と人が多く行き交っていた。その中には王国軍人の姿も多く見られる。

 幸い人も馬車も多く、出来るだけ軍人達の視界に入らないように門へと近付いて行った。

 他の旅人に混ざり、不審な動きに見られないように注意しつつ、ラミーシャとポドギアの門をくぐって街道へ入り北に向かって歩き出した。


 ◇


 フォートン王国軍本部にある厩舎で、ポドギアに向かう為の騎馬の準備をしていたオリベルトの元に息を切らした軍人が駆けてきた。


「た、大佐!報告です」

「どうした?」

「十字傷の男を見たという者が……」

「何だと!何処でだ?」

「ポドギアへの定期便の馬車の御者が十字傷の男を乗せたと……」


 若い軍人は息を必死に整えながら、オリベルトに伝える。


「馬車に乗せただと……?乗合い場はかなり警戒していたはずだ。奴はどうやって乗り込んだんだ?」


 オリベルトに問われた軍人が唾を飲み込み、息を整えると、


「それが…乗せる時にはその男には十字傷が無かったと……。ですが、ポドギアに着く直前に荷台を覗いた時には額に十字傷があったとの事です!」


 オリベルトの眉間に皺が寄る。ぐぅと唸ったオリベルトに更に男が続ける。


「十字傷の男は女連れだったそうです。小柄な長い髪の女で濃灰色の髪だったと」


 オリベルトがその若い軍人を睨みつけると、若い軍人はビクリと体を震わせた。

 オリベルトはその男から視線を外し、すぐ隣にいる騎馬に跳び乗った。そして周りを見回し、部下のダンツを見つけると、


「ダンツ!私は今すぐにポドギアに向かう。準備が出来た者はすぐにポドギアに向かわせろ!」

「はっ!」


 反射的に返事をしたダンツだったが、すぐに厩舎の窓を見ると、既に真っ暗になっている。戸惑う彼に更にオリベルトの激しい声がぶつけられる。

 

「ポドギアとログロンドに連絡しろ!男は十字傷を隠せる!そして女を連れている!怪しい奴は片っ端から捕らえて構わんと!」


 オリベルトはそう言うと馬の腹を蹴って、騎馬が駆け出した。同じように騎馬の準備をしていた数人の軍人達が慌てて自分の装備を手に取り、自分の騎馬に跳び乗る。

 厩舎からオリベルトの騎馬が飛び出した。

 既に辺りは夜の帳が下りて、月明かりが町を照らしていた。


 フォートンの町の大通りをオリベルトの乗った騎馬が疾走し、その後ろに数頭の騎馬が続く。うっすらと笑みを浮かべたオリベルトの顔を月明かりが照らし出す。


 あの男……やはり北に向かっていたか!国外などには絶対に行かせんぞ!

 必ずこの手でケリをつける!


 オリベルトの騎馬が更に速度を上げていった。 


 ◇


 ポドギアを出て三日目。

 俺達は山道を歩いていた。もうかなり陽も傾いてきていて、木々に囲まれた山道はかなり暗くなっていた。


「ラミーシャ。そろそろ今日の寝床を探すぞ」

「了解じゃ」


 山道を少し外れ、拓けた場所を見つけて簡易テントを二つ設営する。

 ラミーシャもだいぶ手慣れてきて、二人で素早く組み立て終えた。


「うむ。今宵の愛の巣の完成じゃな」

「愛の巣じゃねえ」


 今日、道すがらに捕えた鳥を俺が調理している間にラミーシャはテントの真ん中にロウソクをセットして詠唱を始める。

 魔獣探知結界を張るためだ。二人での旅だから夜は交代で見張りをすればいいと思っていたが、ラミーシャが初日の夜に提案してきた。


 特殊なロウソクに魔法をかけ、それを中心に周りに結界を張るというものだ。探知目的の結界だから魔獣を退けるわけじゃないが、魔獣や人間が結界に近付くとロウソクに灯った魔法の炎の色が変わる。

 これのおかげで外に出て周囲に常に注意を払わなくても、テントの中にいながら周辺を警戒することが出来る。

 実際に昨日の夜はこれのおかげでいち早く魔獣の接近に気付き、先手を打つ事が出来た。

 結界を張り終えたラミーシャがテントから出て来る。


「おっ!今日はさっき捕った鳥の串焼きか」

「ああ。味付けはシンプルだからな。ちょっと物足りねえかもしれねえが」

「余はリグスが作った物なら文句は言わんぞ」


 捌いた鳥肉を一口大に切って串焼きにして、胡椒で味付けしただけの簡単な夕食。保存食も持っては来ているが、食料は現地調達できたなら保存の出来ない物から消費していく。旅の基本だな。


 俺のすぐ隣に腰を下ろしたラミーシャが串焼きを一本手に取ると、いつものようにめちゃくちゃ美味しそうにその串焼きを口に入れていく。


「やはり新鮮な食材は美味いの」

「満足いただけたようで何よりだ」

「うむ。余は満足じゃ」


 焼き上がった串焼きを頬張りながら、広げた地図を確認する。

 ログロンドまでの道のりはまだまだ遠い。しかもこれから魔獣が活性化しているという地域に入って行くことになる。

 こんなにゆっくり食事が出来るのも難しくなるだろうな。

 そんな俺の気を知ってか知らずか、ラミーシャは次の串焼きに手を伸ばしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る