第6話
胸の内から直系5センチほどの円形の銀貨を取り出し、男に見せた。
「こう見えても私は、地方保安員という身分を持っていてね。ここで起こったことを地方保安会に通報すれば、お前たちをこの街から追放することもできる」
「レプトンさん、地方保安員だったんですか!?」
マルクは驚いた様子で目を見開きながら、呆然としていた。
「ああ、そうだ」
この事態に至るまで、このことを隠していたなんて本当に許せない。最初から言ってくれれば、こんなに緊張することもなかっただろう。
「なんで、最初から言ってくれなかったんですか。僕、本当にドキドキしてどうなるかと思ったんですからね」
胸の内の張りつめた緊迫感が一気に解消されるとともに、安堵したとたん急にトイレに行きたくなってくる。
「すまない、別に驚かせようとしたわけではないんだ。言う必要がある場面になると思わなくてね」
地方保安員は国が認めた国家的保障身分であり、この身分の者に手を出したことが判明した場合、国家保全法14条に従って、10年以上の禁固刑となることが確定する。禁固刑を逃れるためには地方都市や町から離れて暮らす必要があるが、町での宿泊や飲食、労働は難しくなる。
つまり、実質的に時給自足で暮らすか、10年間の禁固刑を受けるかのどちらかしか選択肢がなくなるということだ。
「ちょっと待ってくれ。牢で年を取るのだけは嫌なんだ。どうにかならないか」
男は見るからに動揺を隠せない表情だ。必死の思いで懇願したいだろう。
「さきほど、酒場でこの辺りで船員を取り仕切るグループがあると聞いた。そのグループのリーダーはどこにいるのか教えてくれないか。実は、船員が不足していて困っているんだ」
男は一瞬の間、目を見開いて固まった。しかし、その目には安堵の色が宿っているように見えた。しばらく、呆然とした後、男はゆっくりと口を開いた。
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