第30話 最強伝説

     最強伝説


 魔王との邂逅の後のこと、少し話しておきますね。

 魔王に敵意がない、むしろ静かに暮らしたいだけ……と知って、勇者たちも帰っていきました。

「私たち、失業じゃない! だって、魔王を倒すことが仕事なんだよ」

 アーランはそう文句をいっていたけれど、ルドルが

「冒険者としての道もあろう」

「魔王が戦う相手ではなくなっても、魔族はいるしね」

 フェリムーンもそう応じ、彼らは去って行きました。

 魔王が法律をつくり、魔族を統率しようとしたところで絶対にそれを破る者がでてきます。

 法律なんて、絶対にそれを遵守させることはできません。幸福の形が、人それぞれちがうのだから……。

 でも、それが規律となって、それを守ることが幸福を約束する、と考える者が多いのなら、それは力となり得るものです。

 魔王は今でも、あの山がちの家で、エリーナさんと幸せに暮らしているそうです。時おり、魔族に睨みを利かせながら……。


 そうそう、魔王とエリーナさんの間に子供も生まれたそうですが、やはり魔力はなかったそうです。

「魔力は、異世界との絆」

 であって、エリーナさんはこの世界の人なのでしょう。

 ちなみに、私たちのようなヴァイオラ国の貴族は、国を創建した四人の勇者の末裔なのですが、その四人の勇者というのも異世界の人だったようです。だから、貴族が血筋を大切にするのも、私に少しばかりの魔力があるのも、その血を継いでいるからだそうです。

 庶民の間にも、時おり魔力のある者が生まれるのは、それだけ異世界人が多く来ていて、人々の中にも血が雑じっているからと、キョウさんは推測していました。

 そうなることが分かって、それでもエリーナさんと結婚した。そんな魔王夫婦を私も応援しています。


 ヴァイオラ国は、軍が壊滅したこともあり、焦った貴族、議会はとある方法を思いつきました。

 それは、キョウさんを貴族にしたのです。

 要するに貴族として責任をもってもらおう、との算段です。私の婚約者で、いずれ貴族になるとしても、臣籍降下してしまう可能性もあって、そうなるぐらいなら身分を与えておこう、というのでしょう。

 キョウさんはそれをあっさり「いいよ」と受諾。

 貴族が、異世界人の末裔としてその血筋を大切にするのなら、同じ異世界人であるキョウさんが貴族になっても、何ら問題ない、というところでもあります。

 それを知っているのは私たち、ごく一部で、他の貴族の人はそんなこと知りもしませんが……。


 私と、キョウさんがシュリカの町の近くで出会ったのは、キョウさんが魔王の居所をさがしていたから、だったそうです。自分に「魔王をゆずる」といって、勝手にいなくなってしまった魔王に、一言いいたかったから探していたそうですが、色々と事情を知り、どうでもよくなったそうです。

 だから魔王が発見、と聞いたときも興味をなさそうにしていましたよね。

 ちなみに、父の親衛隊で、私たちに随行してくれたエイグが、最初に彼が私たちを助けてくれたとき「彼が人を食った」と言っていましたが、正確には魔法でどこかに吹き飛ばしたそうです。

 キョウさんが最初に「ペテン師で、口先でどうにかした」と言っていたのは、まさに「人を食った」を婉曲にいった、と思っていたのですが、それこそ一息で吹き飛ばしたからだそうです。

 兵士がその任を放棄し、裏切って私たちに襲い掛かったのを、見ていられなかったので、そうしたそうです。

 ちなみに、あのときもお腹を空かしていましたが、今でも大食漢です。


 イリミアお姉様は、学校に通えるようになりました。それは、私の婚約者が貴族になったので、完全に結婚相手をさがす、というプレッシャーから解放されたから、だそうです。

 確かに、キョウさんが貴族になったからには身分的に申し分なく、私と結婚したら跡継ぎになれるのです。

 計算高いお母様は、一騎当千の強さをもつキョウさんが、カラント家に入ってくれたら……と、もう算盤をはじいています。

 お姉様が元のように理知的で、明るい様子にもどってくれたら、それはそれで嬉しいですが、私に今度は大きなプレッシャーがかかっています。大切なことをはっきりさせないといけません。


「これまで、利用するようなことばかりしてごめんなさい。私はずっと、キョウさんの優しさに甘えていました」

 ユリファはそう言って頭を下げる。

「こっちこそ、どこの馬の骨とも分からない男を引き受けてくれたんだ。それだけでありがたいよ」

「改めて、私の方から言わせて下さい。 私と……結婚して……もらえませんか?」

 キョウは微妙な表情をした。

「オレは、魔族の女性との適合がいいらしい。そしてオレは、今後もその期待には応えてあげたい、と思っている」

 このとき、ユリファの背後にいたモリナがため息をついた。

「こうなると思ったから、ユリファお嬢様から遠ざけようと思っていたのに……」

 そう、モリナは気づいていたのだ。キョウの部屋に、魔族の女性が出入りしていることに……。

「わ……、私は気にしません。貴族は妾をもつことも多いですから、多少の女性との浮名など……」

「ダメですよ、お嬢様。この男は浮名どころか、魔族を自分の子供たちで埋め尽くすつもりなのです」

「埋め……」ユリファもショックをうけたらしい。でも「それ以上に、私たちの子供で埋め尽くしますから!」と、何と対抗しているのか分からないけれど、決意を籠めた目で言った。


 そう、これは魔王と遭遇したから、ラスボスからはじまったわけではない。キョウさんが、魔王を継ぐ……そのシステムを破壊した、拒絶して魔王城を出たところからはじまった物語だ。

 そして、キョウはんは自分がつらい目に遭っても、苦しくとも、自分を失わずにいたからこそ、誰より強くなった今でも決して威張ることなく、また天下をとろうなどともせず、平穏な暮らしをのぞみ、私たちとともにカラント家の領地で過ごしてくれています。

 自分が提唱したお酒づくりに、今は邁進して毎日汗を流しています。

 ただ、私と結婚することが決まっても、私は安心することはできません。だって、キョウさんは女性関係でも〝最強〟だから。私も負けないよう、キョウさんにいっぱい愛されるようにしないと……。

 これから子づくりという、新たな戦いがはじまりますが、ここで筆をおきます。

 だって、夜の営みを中心にしていくわけにはいきませんから。私的にも、それはナイショです♥

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ラスボスからはじまる最強伝説 巨豆腐心 @kyodoufsin

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