第27話 魔王発見

     魔王発見


 キョウが眠っているところに、窓から侵入してくる者がいた。

「魔族か……」

「魔力を封じているのに、さすがだね」

 聞こえてきたのは女性の声、香水なのか、軽く華やかな香りも漂ってくる。

「染みついた匂い、みたいなものだよ。魔力を消そうとしても消しきれないこともあるってね」

「ふ~ん。さすが魔王を倒した、と噂のある人ね」

「倒したわけじゃないよ。キミは誰?」

「私、反魔王派のチェリス」

「反魔王派? 戦いに来たの?」

「反魔王派といっても色々よ。私は人族にちょっかいをかけ、適合者を増やすことには賛成。でも、そうしなくてもよくなったら、わざわざ人族に関わらなくてもよくない?」

 そういうと、チェリスはにじり寄ってきた。

「噂で聞いていたけれど、すごいね。もう魔王派とか、反魔王派とか、関係なくなっちゃうじゃない……」

「なるほど、反魔王派の女性がからんでこないな……とは思っていたけれど、そういうことか」

「そういうこと?」

「反魔王派からすると、女性の魔族をオレに当てると、とりこまれると思って控えさせているんだろ?」

「正解! でも多分、とりこまれるだけじゃなく、あなたと会うと、魔族の女性ならみんな惹かれる。そうなると、魔族がアナタの子供ばかりとなって、それを警戒しているのよ」

「その禁を破って会いにきた?」

「そういうこと。てへ♥」


 チェリスは舌をだしてみせる。どうやらスーベラといい、若い魔族の女性は度胸がよく、行動力もありそうだ。

「だって、今後ますます締め付けは厳しくなるだろうし、早いもの勝ちじゃない?」

「子供をつくってしまえば、文句はいえないってことか……」

 スーベラもそんなことを言っていたが、こういうところが女性は強い、と言える点かもしれない。

 彼女はもう乗り気で、服を脱ぎだしている。魔族は比較的、露出の多い服であることが多いけれど、これは魔法をつかう上でも重要だ。例えば、炎の魔法をあつかう場合は、燃えにくい素材であったり、水の魔法をつかう魔族は、濡れても影響の少ない服にしたり。

 魔力の流れも、服を着ていると感じにくくなり、そういう意味もあって露出が多いのだ。

 だから、彼女たちは肌の手入れにも気をつかう。

 まだ二十前後、潤いのある肌をさらけだし、舌なめずりをしてチェリスは覆いかぶさってきた。


「反魔王派について、少し聞いていいかな?」

 何ラウンドもこなした後、ピロートークでキョウが訊ねた。

「反魔王派って、リーダーがいるの?」

「いない。というか、人族にちょかいをだすといっても、様々な意見があるからね。別にまとまる必要もないって感じ。でも、魔力の強さでイダス、グレスラント、ホルセウムの三人が抜けていて、この三人がリードする感じかな」

「次期魔王候補も、その三人?」

「そうだね。名乗り出ると思うよ」

 まだ次期魔王を決める動きがないのは、ひょっこりと魔王がもどってきたとき、否応なく対決となるからだ。

 だからキョウに、魔王の所在を聞きだそうとしてくるのだが……。

「あなた、本当に魔王の行方を知らないの?」

「知らないよ。オレに話すわけないだろ」

「ま、そうか……。不愛想で、付き合いも悪かったからね。私としては、今さら魔王がもどってくるのは嫌だけど、魔王がいないことで、魔族がギスギスするのも嫌なんだよね」

「魔王派と、反魔王派の分裂とか?」

「分裂しているつもりはないんだよ。魔族の間だって、昔から色々とあったけれど、魔王がいることで一本、スジが通った……というか、魔王がいうなら仕方ない……という諦めがついた。でも今は、その諦め、踏ん切りがつかないから、争いとなってしまっているの」

 ため息交じりに、チェリスはそう告げた。


「ウィロウ・タリリスが?」

 ヴァイオラ国で、魔法第一に称えられる彼が、ふたたびカラント家の領地に現れていた。モリナからそう報告を受け、ユリファも慌てて出迎える。

「魔王の行方が分かった!」

 興奮するウィロウに、ユリファの方がびっくりして「どういうことですか?」

「この国に潜伏していたのだ! 魔王を討ちとれれば、これは好機! ぜひキョウ殿にも討伐に参加して欲しい!」

 敵対していた彼が、キョウにそう依頼するぐらいこれは大きなことで、成し遂げられたら名を上げられる。そればかりか、勇者をからめずにこの国だけの力で討ち取ったら、それは他国への大きなアドバンテージとなるはずで、ウィロウの興奮もそこにありそうだ。

 ウィロウが帰った後、モリナが「お嬢様、うけるのですか?」と訊ねる。

「大きな仕事だけど、キョウさんはどう思うのかしら?」

「あんな男のこと、気にする必要ないのでは? お嬢様がうけるとおっしゃれば、あの男も嫌とは言わないでしょう」

「キョウさんは、魔族とは戦ってくれるけれど、決して戦いたいわけではなさそうだと気づいた……。そんな人を、戦いに巻きこんでいいのかな?」

 ユリファの中で、そうした疑問が渦巻いていた。結果的に、エルフとの全面戦争を回避してみせたキョウの姿勢は、戦いたいを求めるものではなかった。人族を守りたい……ということでもなさそうだ。何かもっと、別の理由がある。だからユリファも迷っていた。


「魔王が発見されたそうです」

 ユリファも思い切って、キョウに伝えてみることにした。存外あっさり「へぇ~」と応じる。

「ヴァイオラ国では、討伐隊を組んで戦うそうです。そこに、キョウさんも参加して欲しい、と……」

「何で戦うの?」

 惚ける風もなく、キョウは不思議そうに訊ねる。

「だって……、魔王だから……」

「人を襲っているの? 迷惑をかけているの?」

「そういうわけでは……」

 そうか……。ユリファも気付く。キョウの戦う理由は、いつもそうだった。

 最初に私たちが襲われていたときも、あっさりと賊を倒してしまった。シュリカの町を襲った魔族もそうだ。コリダリスの首都を襲った魔族もそう。誰かに迷惑をかける者を赦さない、そんな理由があった。

 魔族すら凌駕する力がありながら、どこかユリファも安心できたのは、彼のそうした態度だと改めて気づいた。

「では、魔王とは……?」

「隠れ住んでいるだけなら、戦わないよ」

「分かりました。私はそんなキョウさんの意思を尊重します」

「悪いね。迷惑をかける」

「いいえ。私はそんなキョウさんが……いえ、何でもありません」

 ユリファも思わず口をすべらせそうになり、慌てて口をつぐむ。自分の中にある感情を、まだ言葉にするのは早い。ユリファはそう感じていた。







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