第25話 ライアー・ライアー

     ライアー・ライアー


「キミが人族に恨みをもっていることは分かった。でも、理由を聞いていいかい?」

「お姉ちゃんが……殺された」

「人族に?」

「誘拐され、この町の外れに捨てられていた……。私たちはそれを知り、誘拐した人物に復讐しようと……」

 話し過ぎたと感じたのか、エルフの少女は口ごもる。でも、魔力の流れをコントロールされているので、口を閉ざすことはできない。

「その人物に心当たりが?」

「議員の、バクー・コドノプス」

 エルフの少女は、はっきりとそう言った。

「証拠はあるの?」

「彼は裏で誘拐組織をあやつっていて、お姉ちゃんも誘拐された……」

「でも、お姉さんもエルフ族なら、魔法で何とかなっただろう?」

「魔王が……お姉ちゃんを攫ったんです。バクーと結託し、誘拐を事業として行っている……」

 エルフの少女はそこまで語り、ハッと気づく。

「もしかして……あなたは魔王?」

「オレが魔王だったら、君はもう死んでいるよ」

 キョウは肩から手を放した。

「話は分かった。別に、君をどうするつもりもない。もし本当に、そうした犯罪が行われているとしたら、それは復讐しても仕方ないだろう。ただ気になるのは、魔王が関与した、という点だ」

「嘘を言っている、と!」

 凄むように少女はそう言って詰め寄ってくる。

「確かに今、魔王は行方不明だ。でも、だからこそ魔王の身分を明かすようなことをするかな? もし魔王が関わったとしても、身分を隠してそれをするだろう。それだけの実力も、理由もあるのだから」


 エルフの少女も、眉を顰めたけれど、上手く言い返せないようだ。

「むしろ、魔王を騙る何者かが、権威付けのためにそうしているのかもしれない。そして、そんなことができるのは魔族だけだろう。エルフを攫って、殺すなんてことができるのは」

 魔王は人族への介入を極力嫌った、という点もその推測を補強する。スーベラが伝えてくれたように、反魔王派が動いているとすれば、魔王が関わっていないと確信できる。

「問題は、本当に誘拐組織なるものがあるのか? だ」

「どういうこと?」

「魔王の話が嘘だったとすれば、誘拐という話も疑ってみるべきだ。つまり、君たちは騙されているのかもしれない」

「そんな……、お父さんは今日……」

「実行に移す日だって? しょうがないなぁ……」

 キョウは軽々とエルフの少女を肩に担ぎ上げると「これ、自分に魔法をあてるから嫌なんだよな……」と、ぶつぶつ文句をいいつつ、まるで何かにはじかれたように、ぎゅんッ! と凄まじい加速で空気を切るように、空を飛んで行った。


 そのころ、ハラはマントの人物をみつけて、尾行しているところだった。議会の近くまでくると、そこでユリファと合流する。エリック・アドミス議員に会いに来たユリファは、議場の近くにいたからだ。

 いつもと変わらず、マントの人物は議場からでてくる人物rらをじっと見つめる。

 そんな二人の近くに、不意にエルフの少女を肩にかついだキョウが現れた。

「キョウさん、その方は?」

「あのマントのエルフの娘だよ。あずかっておいてくれ」

 驚いている二人にエルフの少女を任せると、動きだしたマントの男に、キョウも遅れないよう飛びだす。

 議場からは、高齢の人物がでてくるのがみえ、どうやらエルフの男はそれを対象と見定めたようだ。

 エルフの男は、少女とちがって全方位で魔力探知をかけていたらしく、キョウの接近に気づき、攻撃対象を変えてきた。

「精霊の御名により命じる、風よ、祓いたまえ!」

 強烈な突風がキョウを襲う。キョウは後退りするけれど、吹き飛ばされることも、怯むこともなく、小さく「やっぱり……」と呟く。

 エルフの男は畳みかけるように、風の刃を放ってくるが、キョウはひらり、ひらりとかわす。


 議場の近くでおきた戦闘に、兵士たちが飛びだしてきて、議員たちは議場へと逃げ隠れた。

 キョウはそれを確認すると「さて……」とつぶやき、手を打った。

 それは波紋のように広がり、風の刃すら歪ませる。そして飛び出してきた兵士たちも思わず耳をふさぐ。

 大した音が響いたわけではないけれど、耳を覆いたくなる不快感を与える。そしてそれは、耳のよいエルフなら尚更だった。

 エルフの男が、マントの上から耳をふさぐのと同時に、背後をとられたことを彼は知った。

「エルフの魔法は風……、それがいくら魔力が強くても、エルフの限界だよね」

 キョウはそう呟くと、その背中に手をおく。強くてきれいな魔力の流れは、逆にいうとコントロールしやすい。エルフの男はすぐに気を失って、力が抜けてしまった。それを抱えて、キョウはその場を後にする。

 兵士たちも何がおきたかも分からないまま、その場で戦っていた二人が消えた形となっていた。


 ユリファたちはイリミアが滞在するはずだった、学園の寮の部屋に来ていた。イリミアが寮をでたため、そこは空き部屋となっており、そこにエルフの二人を運びこんだのだ。これは、学園の生徒が地元にもどって寮生が減っているため、忍びこみやすかったことも影響する。

「私はパーナ。お父さんはイド。お姉ちゃんはカーサ。二週間前にお姉ちゃんが行方不明になり、探していたら、この町で亡くなっていた、と……」

 エルフの少女、パーナがそう説明する。

「どこでバクー・コドノプスが関わっていることを?」

「情報屋です。私も今回、初めて知ったのですが、エルフは没交渉を貫きます。でも人族の動きをつかんでおく必要もあって、外界の情報を、情報屋という人物に頼っているのだそうです」

「でも、おかしいんです」

 このとき発言したのは、ユリファだ。

「バクー議員は穏健派で知られています。だから勇猛で知られた父とも敵対し、父がラプサーナ国のシュリカに攻めこむときも、反対の先頭に立ったほどです。そんな人が誘拐組織なんて……」

「魔王のことも虚偽だったなら、バクーの件も虚偽である可能性が高い。でも、嘘をつくとき少しでも本当を混ぜることが、信ぴょう性を増す上でも重要だと情報屋なら気づいているだろう。どこまでが真実なのか……?」

 キョウがそう呟くと、エルフの男、イドが目を覚ました。

「私は騙されていたかもしれないのか……」

「アナタの娘さんのことは残念でした。でも、バクー議員は本当に荒事が嫌いな穏健派。臆病という評判もあるほどの人物です」

「情報屋もグルだろう。そいつを発見することで、すべて解明できるさ」

 キョウはいつにも似ない積極性で、そう語ってみせた。




















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