第22話 去就

     去就


 町外れにある広場――。

 かつて大きな魔族との戦闘があったそうで、それ以来、大きな木が生えず、草も疎らにしか生えていない。

 人々はそこに入ると呪いがある……と噂して、近寄ろうともしない。そこで二人の勇者とキョウが戦うことになった。

「一応、オレの方でエリア制限の魔法をかけておくけれど、周りに被害を出すような魔法は禁止にする」

 エリア制限の魔法……? フェリムーンだけが、その意味に気づいて驚いているけれど、ルドルもアーランも気づかず、スルーした。

「オレはそれ以外の魔法をつかうつもりはない。基本、そっちは無制限でいいよ」

 キョウがそういうのも驚きだ。なぜなら、強力な魔法をつかう魔族と対抗できる、ということは彼も魔法がつかえる、ということであって、しかもルドルも、アーランも剣をもつけれど、彼は素手だ。それで魔法もつかわず戦うなんて、無謀というほかない。

「なめているの!」

 アーランがそう詰め寄るけれど、キョウは肩をすくめて「なめてない。人族に魔法なんてつかったら、悪いかなって思っただけさ」

「それが舐めているっていうのよ!」

 アーランはぐっと力を溜めると「その鼻っ柱、すぐに折ってやる!」とツーハンドの短剣で突っこむ。

 勿論、彼女は自らに支援魔法をかけ、動きを加速させている。

 それなのに、キョウはひょい、ひょいっと軽くかわしてみせる。アーランは怒りに任せて、剣の風圧を増幅させたスラッシュを放った。でも、それもキョウは難なくかわす。


「何をしている! 次は私だ‼」

 ルドルは白魔法士、フェリムーンの支援をうけて突っこむ。彼が手にするのは長剣であり、また体格もいい彼がそれを振ると、間合いも広くなる。アーランと対戦したときより、何倍も威力があるけれど、それもキョウは軽くかわした。

「ファイアーボルト!」

 フェリムーンの攻撃が横から飛んでくる。ただの白魔法士ではなく、攻撃系もつかえる魔法士だ。

 しかしキョウは飛んできた火の玉も、ひょいっと避けた。

 別に、彼が支援魔法を自らにかけている気配はない。動きだって決して速いわけではない。むしろふつうのそれだ。なのに、攻撃がまったく当たらない。

「何で……、ただ避けているだけなのに……」

 しばらくして、アーランもルドルも疲れてすわりこんでしまった。

「魔法をつかえば疲れるし、支援魔法で動いていても同じだ。自分の能力以上の動きをするからね。でも、無理をしない範囲で動いていると、疲れもゆっくりだし、逆に色々と見えてくることもある」

 キョウがそう説明すると、フェリムーンが首を横にふった。

「エリア制限の魔法……といって、何か仕掛けたでしょう?」

 キョウはニヤリと笑って「何もしていないよ。むしろ、何もしていないから、キミたちには何かしているように感じられる」

 なぞなぞのような言葉を発し、その日の戦闘を終えた。


 アーランとルドルは、度々キョウに挑み、返り討ちに遭う、ということをくり返していた。

「マジ、むかつく!」

 アーランはそういって地団駄を踏む。「フェリムーンは、この前みたいに、他に何か気づかない?」

「そうね……。私は前面にでて戦わないから、何となくあの言葉の意味が分かるのだけれど、彼は別に早く動いているわけでも、何か魔法をつかっているわけでもない、というのは正しいと思う」

「じゃあ、何で……?」

「恐らく、彼は魔力の流れが見えているのよ」

「……? どういうこと?」

「支援にしろ、魔力には流れがあって、必ずパスが通っている。力のやりとりをするとき、物質を交換し合うのと同じように。彼にはそれが分かっている。だから、先んじて動くことができる」

「じゃあ、魔法をつかわなかったら?」

「彼に勝てそう?」

「……無理」

「私が不意打ちで攻撃魔法をつかっても、彼はあっさりかわしてみせる。それと同じように、物理的攻撃であっても彼は見通しているのでしょう。魔法でないとしたら、何なの……?」

「これはもしかして……なのだが……」

 その時発言したのは、ルドルだ。

「動体視力は、鍛えれば鍛えるほど、素早く動くものを目で追いかけられるようになるらしい。鳥が高所からでも獲物を見定められるし、高所から獲物に飛び掛かれるように……」


「半分正解、かな」

 キョウはそう軽く応じてみせた。

「高速で動く相手をみるだけじゃなく、自分が大きく吹き飛んで、周りをみているときでもそうさ。目で追えないと受け身もとれないからね。何度もそういう状況に陥って、身につけた技だ」

「魔法の流れはどうなの?」

「見えるよ。これも大きな魔法を、身をもって受けつづけることで身につけた。逆にいうと、どんな魔法がくるかを予め意識し、それに体を備えさせようとして、勝手に身についたものさ」

 それを身につけるために、一体どれぐらいのことがあったのか? アーランには分からないけれど、キョウが飄々と語るので、何となくそう大変なこととは感じさせない。

「あとの半分、とは?」

 ルドルがそう訊ねると、キョウは笑って「それは自分たちで考えないと。教えたら面白くないだろ?」

 恐らく彼は、それが知られても真似できない、と思っているから、余裕でいられるのだ。そして、彼に勝つことでパーティーに招き入れたいルドルと、魔族かもしれないから倒そうと考えるアーランにとって、それが分かったところで彼には1ミリも勝てる見込みがない、と理解した。


「アナタに勝てないのに、魔族退治なんて十年早いって思い知ったわ。私はもっと修行を積んでくる!」

 アーランはそういうと、カラント家の領地からでていった。

 ルドルも「君がパーティーに入ってくれれば最強だと思うが、私がその器に達していないようだ」

 そういってフェリムーンとともに去っていった。

「やっと静かになりましたね」

 ユリファはそう安堵するけれど、キョウは首を横にふった。

「勇者候補がいる、ということで魔族がしばらく大人しかった。いなくなったらまた活発化するかもしれないよ」

「そうなんですか?」

「勇者は魔族殺しのスペシャリストさ。彼らはまだ未熟で、候補だけれどね」

「やはり、魔族はキョウさんを狙って?」

「魔族の中で、有名人になるらしいからね。もし迷惑なら、すぐにでも出ていくけれど……」

「そんな、迷惑なんて……」

 魔族にも匹敵する強さをもつ……ということは、否応なく魔族の注目も集める、ということ。

 それが分かっているから、彼は強さを誇らないのかしら……? でも、否応なく戦いに巻きこまれることもある……と、すぐにユリファも知ることとなる。














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