第21話 二択の溝

     二択の溝


 背の高い金色の長髪男と、小柄な少女とが剣を手に戦っている。

 腕力、剣技に長けた男は幅広の長剣をもち、少女は両手にもったダガーのような短剣で、素早くうごきまわって戦う。

 ユリファはどうして戦いが起こったのか? 訳もわからないまま、ただおろおろするばかりだ。隣にいるキョウは興味深そうに二人の戦いを眺めており、止めようともしない。

「止めないと……」

「大丈夫、すぐ終わるよ」

 キョウがそう断言してみせると、その言葉を待っていたかのように、少女が剣に魔力をこめて「ソードスラッシュ!」を放った。

 魔法により剣の威力を増したもので、短剣でも大きな威力をだすことができる。金髪の男もそれを受け止めきれず、大きく吹き飛んで、壁に叩きつけられて意識を失ってしまった。

「女の子は魔法剣士さ。人族にしては大きな魔力を感じる。男の方は、剣の腕は確かだけれど、魔法剣士相手では分が悪い」

 キョウはそう冷静に分析してみせる。そんな彼女たちのところに、勝利した少女がつかつかと歩み寄ってきた。

 その瞳は爛々と輝き、敵意に充ちており、赤い髪が燃えるような闘志を示し、キョウに向かって剣を突き付けてきた。

「勝負しなさい!」


 キョウと戦うつもりらしい。ユリファも驚いたけれど、キョウは相変わらず緊張感もなく「何で?」

 あまりに力感がない答えに、少女の方が拍子抜けしたようだ。でも、すぐに思い直したのか「アンタ、魔族を倒したんでしょう? その実力、正体を確かめさせてもらうわ!」

「こんな街中で? 住民を危機に晒すような真似までして、腕試しをするの?」

 ド正論に、少女もハッとして剣を下げた。

「べ……別に、ちょっと気がまわらなかっただけよ! 町外れに行きましょう。そこで……」

「君は誰なの? そこに倒れている彼は?」

 自己紹介もまだで、少女もそれは失礼にあたる、とやっと気づいたらしい。

「私は勇者、アーラン。そっちの倒れている彼は勇者、ルドル。彼はあなたのことをスカウトに来たみたいだけれど、私はちがう! 魔族とたった一人で戦った上、倒すようなヤツは、魔族ではないかと疑っている。もしそうであるなら、その芽を摘みに来たのよ!」

 どうやら昨日、カラント家に来たのは男のルドルの方だったらしい。そして彼女はそれを知り、止めに来たばかりか、魔族の疑いがあるキョウを殺すつもりだった、とのことだ。


「カルペディエムだね」

 キョウは相変わらず、そんな訳の分からないことをいう。アーランも「……え? 何?」

「花を摘め、という意味の言葉だよ。命の短さ、儚さを嘆く。花という一瞬しか咲かないものを摘んで終わらせる」

 ぽか~ん、とアーランもするけれど、それはユリファも同じだ。モリナは戦いに巻きこまれないよう、ユリファの袖を引くけれど、キョウのみせる余裕が彼女を留まらせている。

「そ……、そんなことはどうでもいいのよ! 私と戦いなさい‼」

「戦わない」

 あっさりと、あまりに感情もこもらずキョウが否定するので、逆にアーランも怒るのを忘れて「な、何で⁈」

「理由がない」

「アンタにはなくとも、私にはある!」

「勇者って、自分の都合をおしつけてしまうのかい? そんな自分勝手で、傲慢なやり方でいいのかな?」

「…………え? えぇっと……」

 どうやら、アーランはあまり頭がよい子ではなさそうだ。ユリファより少し上、といった感じで、十代後半といったところか?

 アーランも調子が狂って、あたふたするけれど、逆にパニックとなったことで、完全に開き直った。

「どうでもいい! とにかく戦えッ‼」

 そのとき、二人の間にとびだしたのはユリファだ。

「ここはカラント家の領地、勝手な決闘はゆるしません! それにキョウさんは私の婚約者。その相手に剣を向ける……ということはカラント家に弓をひくことと同じ。その覚悟はお有りですか?」

 静かだけれど、ユリファの迫力と正論に、アーランもすでに反論する力をなくしていた。


 その日から、二人の勇者……正確にいうと、勇者候補がカラント家の領地に居候することとなった。

 キョウのことをパーティーに誘うルドルと、戦おうとするアーランと。そんな二人とキョウは食事をとっていた。

 アーランにあっさりと倒されたけれど、ルドルも強い剣士である。元々、彼はパーティ―を組んでおり、妙齢の女性で、濃いめの紫の大きなハットと、マントという魔法使いそのままの姿をした女性が、彼の隣にいる。

「私、フェリムーン。白魔法士よ」

「白魔法? 回復系?」

 キョウが訊ねると、フェリムーンも頷く。

「基本は回復。それと支援、後は攻撃系も少々……」

 力も強く、剣技にも長けているけれど、それだけで魔族と戦うのは難しい。それこそアーランにあっさりと倒されたように……。でも、それを補うのがフェリムーンの仕事のようだ。

「彼女と戦ったときは、不本意ながら無様な姿をみせてしまったが、フェリの協力があれば……」

 彼は貴族で、寛容にして鷹揚なところがあり、自分の敗北した話をするときも豪快に笑ってみせる。また身なりにも気をつかうタイプで、鎧も金をつかった豪勢なもので、色男ぶりを際立たせる。

 逆に、アーランは平民の出で、粗野な剣技を魔法によってカバーしながら戦うタイプであり、彼女はパーティーをつくることなく、ここまで来たらしい。

 勇者はあくまで候補であり、互いに面識がある者もいて、互いに切磋琢磨する間柄だそうだ。

 その日、この町に到着したアーランが、ルドルの誘う男をすぐにキョウだと気づいたのだそうだ。


「これまでは魔族が大人しかったこともあって、我らも鍛錬に明け暮れる日々であったが、ここ最近の魔族の動きにより、本来の使命を取りもどし、魔王討伐に向かおうと思うのだ」

「でも、魔王は行方不明だろ?」

「その通り! だが、魔王討伐という崇高な目的に邁進すれば、多くの魔族とも対峙することになろう。それは目的とも合致するはずだ」

 ルドルはそのため、強いパーティーを組みたいのだという。

「だからといって、魔族かもしれない者をパーティーに入れていいの?」

 アーランはそういうタイプだ。疑り深いともいえるけれど、力……特に魔力に関してそうである場合、魔族に近いと考えている。

「魔族と戦い、倒した者だぞ」

「魔王の座を争っているのかもしれないじゃない」

 同じ勇者だけれど、まったく意見がちがう。キョウは面白そうにそれを眺めつつ

「じゃあ、二人と戦ってみるかい?」

 ルドルもアーランも驚いたようだ。

「どうせ、力を試したいとかいうんだろ? 二人同時に相手をしてやるよ。それでオレの実力を知るがいい」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る