第18話 魔法第一の到来
魔法第一の到来
「慌ただしく首都に向かってしまったので、領地を案内しますね」
ユリファはそういって、モリナと一緒にカラント家の領地を、キョウに案内をしてくれることになった。
「ここは海が近く、海産物などもとれますが、潮の流れが速くて沖合に出ることができません。なので、沿岸での操業になりますから、それほど活発とはいえません」
港も決して大きくなく、船も三、四人乗りぐらいの小型のものだ。
「農作物も、潮風が強くて育てることができませんでした」
「豊かな土地……だよね?」
「お母様が、色々と工夫をしてそうなったのです。小魚を加工したり、海藻やフジツボといった磯で採取できるものを売り物にしたり。
農地では沿岸沿いに潮風に強い、イネ科で背の高い植物を育て、海風にあたりくくくして、作物を育てています。そのイネ科の植物は、家畜の飼料になっているので、無駄がありません」
「そういえば、お母さんが領地経営に熱心、といっていたね」
「首都には近いけれど、それほど恵まれた土地ではなかった。血筋のよくないカラント家の限界です。だからこそ、母親は頑張ってここを豊かな土地にしました。だから領民にも愛されています」
「血筋って、そんなに大切なの?」
「ヴァイオラ国は、四人の勇者によって建国されました。貴族は、その四人に連なる家柄です。だから貴族同士で結婚することが、その血を濃くする近道で、それ以外の血が雑じると『よくない血筋』と判断されてしまうのです」
ちょうど、百メートルもない小山に立って、海を眺められるところにきた。夕暮れで水面がオレンジ色にきらきらと輝く。そんな光に目を細めつつ、ユリファは語りだした。
「お母様は父……、私からみると祖父にあたりますが、祖父の配下にいた兵士と結婚したのです」
「それが、ロイドさん?」
ユリファは頷く。
「元々、お母様には兄がいました。でも私が生まれるずっと前、戦場で命を落としたそうです。
それで、結婚するとき臣籍降下したお母様が、それを直してカラント家を継ぐことになった……。でも、そのとき祖父からはお父様と別れ、血筋のよい貴族と結婚するよう再三、奨められたそうです。でもお母様はそうせず、だから私たちが生まれてきました」
ユリファは遠くをみた。恐らく、カラント家がここに来たときは小さな港町ぐらいだったのだろう。それが今や、立派な町へと育っていた。
「私はここで生まれ育ちました。お父様は各地を転戦し、あまりここにもどってこられませんでしたが、お母様とお姉様と、ハラやモリナと、ずっとここで暮らしてきたのです」
ここから移封されるのを厭う気持ちは、どうやらユリファも同じだったようだ。
「それでも、三年前にシュリカの町に行ったんだろ?」
「お父様の年齢になると、そろそろ前線からは引退し、首都で貴族院の政治家となって、政治に専念するのが一般的です。でも、愛妾をもたなかったお父様は男児に恵まれず、跡継ぎがいなかったので、最前線に立ち続けました。そんなお父様をお手伝いしようと志願したのです」
ユリファがお姉さんに対し、強く婿探しをせまった理由も理解した。
母親は領地経営、姉は早く跡継ぎをみつける。ユリファはそんな姉がみつけてきた婿が跡取りになって、父親の代わりに戦ってくれるまで、父親をサポートする……。家族内で、そんな役割分担をしていたのだろう。
カラント家の複雑な家庭事情が、キョウにも理解できた。
カラント家に、ウィロウ・タリリスが訪れた。
「私と戦っていただきたい!」
高齢の彼が、眼を爛々と輝かせてキョウにそう迫る。
首都、コリダリスで魔族の防衛戦を行ったが、ヴァイオラ国の魔術部隊がほとんど機能しなかった。
そんな魔族を、キョウはたった一人で一蹴してみせたのだ。魔術部隊を率いる彼にとって、屈辱以外の何ものでもなかったろう。
父との因縁の相手であり、ユリファも戦ってくれるのかと思ったら、キョウはまったく興味なさそうに「戦わない」と告げた。
ウィロウも拍子抜けしたように「な……、ナゼだ⁉」
「戦う理由がないから」
「我にはある! 名誉をかけて……」
「名誉とか、どうでもいいよ。オレが怖くて逃げた、とでも言っておけば、名誉欲も満たされるだろ? そうすれば?」
キョウはこういう点、まったく興味なさそうだ。
「我は魔術部隊を率いる長として、キサマに負けたままは赦されんのだ!」
「別に、直接対決の結果だけが実力じゃないだろ? 体調とか、運とか、色々な要素があって勝ち負けは決まるもんだ。そんなどうでもいいこと、オレはまったく興味はない」
戦いを挑むウィロウと、うざいので逃げ回るキョウと……。
「お嬢様、また今日も領内で追いかけっこを……」
モリナに伝えられ、ユリファも頭を抱える。
「領民の笑い話になっているので、今はよいですが……。それに、国としてもよいのかしら? 魔術部隊の長がこれだけ首都を離れていて……」
「それなんですけど、どうやらキョウさんを倒さないと、長を解任される……と噂されていまして」
「それで必死なのね……。でも……」
ユリファも不思議だった。魔法第一を謳われたウィロウも貴族である。同じ貴族として、貴族院で力をもつのだから、そう簡単に解任はできないはず。
父親が亡くなり、力の衰えたカラント家とちがい、タリリス家は中堅で、それなりに発言権もあるはずだった。
父親と不仲だったこともあり、あまり話したくない相手ではあるけれど、ユリファも話を聞いてみることにした。
「タリリス卿は、どうして戦いを望むのですか?}
「私は力を示し続けなければいけないからだ」
「力を?」
「私はタリリス家のものではない。タリリス家に籍をおくが、元は平民なのだ」
ユリファもその事情は初めて聞いた。
代理人制度――。恐らく彼はタリリス家の娘と結婚した。それで貴族の一員として籍を置くようになったが、タリリス家を継ぐ立場にない。代理人として従軍するけれど、引退しても貴族院の政治家になるわけではなく、後継者として正当な血筋の者がその地位につく。
だから高齢になった今でも、軍事についているのだ、と……。
そんな選択肢すらなかったカラント家だが、もし本当にキョウと結婚すれば、軍事面だけでも国に貢献することになり、家を安寧に導くことができるのでは……?
でも、キョウはどうなのだろう? 風来坊の彼は、結婚にしばられるのか? でもキョウのことを考えると、少しどころでなく気が重くなっていた。
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