第17話 魔王派と反魔王派

     魔王派と反魔王派


 領地へと帰る道すがら、ユリファはドッと疲れがでた

 領地に近づけば、きっと母親に対して、首都に行ったイイワケに頭を悩ますことになるだろう。今はゆっくり……。ユリファはモリナにもたれかかり、そのまま眠ってしまう。

 モリナが操る馬に、ユリファがまたがっており、キョウの乗った馬は先をいく馬に曳かれる形でつづく。

 馬を操るには技術がいる。モリナはその技術に長けており、侍女として身につけたらしい。

「お嬢様との婚約……、どうお考えですか?」

 モリナが、寝ているユリファを起こさないよう、それでいてしっかりとした声音でキョウに訊ねてきた。

「方便だろ? 歳も離れているし……」

「分かっていればよいのです。お嬢様は聡明で、貴族としての素養もおもちです。臣籍降下など、断じてあってはなりません」

「でも、お姉さんが跡を継げば、トラブルになることを怖れて、臣籍降下するつもりだ、と自分で話していたよ」

「それはユリファお嬢様の決意です。でも、いざとなればユリファお嬢様がカラント家を継ぐ準備をしておかないといけない。そのために、よい家柄の男子を迎え入れないといけません」

 ユリファのことを想うあまり、モリナはキョウを敵視するようだ。キョウは軽く肩をすくめただけで、反論はしなかった。


「はぁ~……、アナタという人は、本当に父親にそっくりね」

 カラント家に到着し、母親、オスリーの前に報告に立った第一声が、それだった。でも、ユリファとしては、自分は母親似だと思っているので、意外な反応だ。母親は深くため息をつきつつ、言葉をつづけた。

「無事だったからよかったものの、無茶は止めてね」

 そういうと、オスリーはキョウを向いた。

「一応、娘を助けてくれたことはお礼をいいます。でも、婚約は赦しません。あくまで一時的、形式的なもの、とうけとっておいてください」

 キョウも頷く。

「分かっているよ。当面、居候させるってことだろ?」

「ハラからも連絡をうけていました。カラント家が移封されるかも……と。それを食い止めようとしたのね?」

 これはユリファに訊ねた。ユリファは母親の前にたって緊張しているが、それでもよどみなく応じた。

「彼は国にもその強さをみとめられました。ここにいていただければ、しばらく領地は安泰かと……」

「そちらの方は、それでよいですか?」

 オスリーは紋切り型で、そう訊ねる。キョウも「別に構わないよ」と応じ、彼はしばらくこの領地に滞在することとなった。


 カラント家の屋敷は庶民のそれより広く、それは貴族の社交としてパーティーをしたり、泊まっていったりするので、そのスペースが必要だからだ。キョウもそのゲストルームを宛がわれた。

 夜、キョウの部屋の窓を叩く音がする。

「やっと一つところに留まってくれた……。もう! ずっと追いかけてきたんだからね!」

 ぷりぷりと一人で怒っているけれど、ベランダもない二階の窓から入ってくるような者は、魔族にちがいない。女性の魔族で、頭には三本の角がある。

「私、スーベラ。よろしくね」

「戦うつもり?」

「私は魔王派。基本、人族とは争わない。それに、あなたとは争うどころか、ちがうことをしたい……♥」

 色目をつかってくるけれど、キョウは冷静に「どうして?」

「レラミアにもしたのでしょう? あなたはとっても魔力がキレイなのよ。多分それは、色々な魔族の女性とも適合しちゃうぐらい……。つまり、魔族の女性からモテモテ、ということ」

「それは光栄なことだけど、君はまだ若いだろ?」

「私はもう十四よ。結婚できる年齢だし、それにちゃんと子供を産める体になっているわ」

「十四はまだ子供だろ? 胸もまだ……」

 そういって、キョウは服の上からその微かな膨らみをさする。ユリファは嫌がって手を払うことはなかったけれど、少し怒りつつ「大きくなるわよ! それに、魔族は適合する相手をみつけるのが大変なのよ。あなたのような相手を逃すと、次にいつ出会えるか……」

 魔族は魔力が適合する相手でないと、性欲も湧かない。それこそ、魔王派が人族と戦わないのも、人族との適合者を増やす目的があるからだ。こういう出会いは貴重、逃したくないという思いが、ひしひしと伝わってくる。

「仕方ないか……」

 キョウは彼女を抱き寄せ、唇を重ねた。


 スーベラは大の字になって、キョウの隣で横たわっている。

 まだ若く、元気なこともあって、何ラウンドもこなした後で息を弾ませるけれど、疲れた様子はない。

「一日で子供ができるのかい?」

「女性の方が、子を生みやすいらしいよ。男性の魔族だと、女性に身ごもってもらわないといけないし、その間の女性の安全や、生活の面倒をみて、経過を見守らないといけないしね」

 スーベラは体を起こしつつ、

「それに、私たちは魔力によって自分の体内のことも、ある程度はコントロールできるし……」

「そんなことができるんだ?」

「魔力の流れを意識するのと同じだよ。気、血、水をコントロールすれば、自然と今がいいタイミングか? ちゃんと着床してくれるのか? ……とか、色々と分かるわけね。

 ダメだったら、また来るから、そのときまで死なないでね」


「物騒なことをいうね」

「だって、反魔法派から狙われているのよ。魔王を追いだしてくれたから、恩人でもあるはずなのにね」

「恩人……といわれると、ちがう気もするけど……」

「でも、魔王様がいなくなって、彼らは羽根を伸ばすようになった。でも、あなたが人族につくと、間違いなく彼らの敵となるわ」

「反魔王派も、人族がいなくなると困るんじゃ……」

「逆、逆。反魔王派は、人族を変化……進化させようとしているのよ。人族を窮地に追いこむことで、魔力を覚醒させようとしているの」

「魔力の覚醒?」

「私たちは、魔王様のいう人族を増やすことで、適合する者を殖やす方向。反魔王派は人に介入することで、魔力の高い者を覚醒させ、適合する者を殖やす方向。両者は方法論のちがい」

「オレがいると、その覚醒が促せない……と?」

「そうね。ちょっぴり、彼らの趣味もまじっているけれど、反魔王派も結局は、子孫をのこす方法の一つなの」

「だから、オレを殺しにくるのか……」

「三人の反魔王派を撃退して、今やあなたは危険人物。魔王派からも、そう見られ始めている」

「だから、接触禁止になる前に来たんだ?」

「へ、へぇ~ん」

 照れたような笑いを浮かべつつ、スーベラはもう一度唇をかわしてきた。

「魔王派にとっては、今のところはあなたを応援したいのも間違いない。無茶をしないように頑張ってね♥」






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