第16話 明日のムコう側

     明日のムコう側


 ユリファたちの前にいる十一人の議員、ユリファも大体そのメンバーに検討をつけていた。貴族院は三十名近く、国務院も三十名ほど。国として大きくないヴァイオラ国では、これでも多いほど。要するに、六十人の中から十一人を推測すればいいのだから、難しい話ではない。

 問題は、覆面をする十一人が保守系で占められていることだ。

 国内の変化を嫌い、それでいて対外強硬的な姿勢をとる。敵をつくることで、危機感を高めて支持を集める政治的な手法だが、貴族にしろ、選挙で選ばれる国務院の議員にしろ、住民の支持を集めないと統治もままならないため、こうした主義、主張をする連中だ。

 でも、魔族の脅威は無視する。なぜなら、対抗するのも難しく、敵視したところでどうしようもないから。どうしても防衛線になるけれど、そこに言及すると、失敗したときに責任論になる。だから手厚い政策をとることはない。これも政治的な手法である。

 父であるロイドも、この保守系に後押しされてシュリカを攻めとったけれど、その後で後方支援を怠ったのも彼らだ。内政の混乱にかこつけて、ソバルの町から支援させなかった。

 ユリファには分かっている。きっと父のロイドが武功を上げ、地位を高めていくのを彼らは快しとしなかったのだ、と……。シュリカの町に縛り付けておく上でもちょうどいい、と考えたのだ。

 彼らに、どれほどユリファの声がとどくか……。

「私はシュリカの町で、魔族の脅威を目の当たりにしました。魔族はたった一人で、町一つをそっくり消し去った……。その魔族と対抗できるだけの力を彼は有しているのです。

 彼を味方にすることは、この国にとって多大な利益となるでしょう。魔族への防衛というだけでなく、他国の脅威からも……」


 ただ、その主張は逆効果だった。

「むしろ、他国からの介入が増えるだろう。我が国だけが多大な力を手に入れるわけだから……」

 端から声がする。それで堰を切ったように、不満が噴出した。

「そんな力がありながら、君の父親は死んだではないか! 我々はシュリカの町を失った」

「今回とて、もっと被害が少ないうちに対応してくれていれば……」

 ないものねだり、無理強いだ……。ユリファはそう気づくけれど、彼らにそう主張したところで、焼け石に水。彼らにとって自分たちに利のある行為こそ至上で、そうでないものは何の価値もない。

 魔族の脅威が迫っても、彼らはそろばん勘定に必死で、国を守ろうという考えすら抱かないだろう。

「魔族と仲良くしよう、などという者は信用ならん! 国外退去か、処刑か……」

 真ん中にすわる男が、ウィロウに指示をだす素振りをみせた。

 魔法陣を発動させ、処刑するつもりだ。

 ユリファは一歩前にでた。

「彼とは話し合える。今、こうして指示に従ってついてきてくれたこの者を、首都を守ってくれたこの人を殺そうというのですか? それではヴァイオラ国が信を失う。もう二度と、この国に助力しようとする者はいなくなるでしょう。それは国にとって大きな損失です」


 損得、利害をチラつかせたことで、議員たちもザワつく。

 利益がある、と主張しても通じなかった。それは彼らにとって、メリットが見えなかったから。でも損失、という言葉には敏感となる。なぜなら国にとっての損は、彼らにとってもデメリットだから。

「しかも、魔族は魔王がいなくなり、その基盤がグラつき、今回もそうですが、好戦的にとなっています。今このとき、対応を考えておかなければ国すら失うことになるでしょう」

「だが……」

 まだ二の足を踏む議員たちに、ユリファも腹をくくった。

「彼は、この私……カラント家の次女、ユリファ・カラントが責任をもって面倒をみます。彼にこの国にとって有益となるような仕事をしてもらえるよう、私が説得をします」

「説得だけで、信用に足るとは……」

「ならば、私の夫としましょう。彼に私を守る、という動機が生まれれば、この国をも守ってもらえるでしょう。

 カラント家の領地にいれば、今回のように首都防衛にも機能することは間違いありません。

 シュリカの町から、永く旅をしてきて、気心も知れています。私にお任せ下さい」


 議事塔をでたユリファは、がっくりとヒザをついた。

「いいの?」

 キョウが変な気をつかわないのが、逆にありがたかった。

「私があそこであぁ言わなければ、どうなっていたか分かりません。逆に、迷惑でしたか?」

「むしろ、君の方こそ大丈夫? 一応、婚約者ってことにしたけど、君が本当に好きな人と結婚するとき……」

「大丈夫ですよ。貴族はそれこそ婚約なども、色々な事情で結んだり、破棄したりしますから」

「家の名に瑕は?」

「私は次女ですから、それこそ臣籍降下という道もあります。簡単にいうと、貴族の立場を捨てて、家臣に下がるということです。兄弟姉妹が同じ立場だと争いが起こることもあって、それを避けるために上下の区別をつけるのです。私はそうしようと思っていたので、臣籍降下して家臣や、それこそ町民の方と結婚しても、何ら問題ありません」

「なるほど、問題になりそうなことはないってことか……。ま、本当に結婚するわけじゃないんだし、時間稼ぎには都合いいんだね」

 そういわれたとき、ユリファは少しチクッと心にとげが刺さった気がした。


 イリミアのところにもどると、モリナがすぐにユリファに抱き着いてきた。

「よかった、ご無事で……」

 安堵するモリナは、生きて帰って来られない……と心配していたようだ。

 ユリファが事情を説明すると、イリミアは驚いたようだ。

「あなたはそれでいいの?」

「ええ。でも、これでお姉様がしっかりとした跡継ぎを迎えてもらわないと困ることになりました」

 イリミアも困った表情を浮かべる。ユリファが畳みかけるように言った。

「私とキョウさんが結婚したら、ますますカラント家の血が薄くなり、問題となることでしょう。今は領地を安堵され、しばらく安寧を得られましたが、お姉様が血筋のしっかりした方をお婿として迎えてもらわないと……」

 イリミアはそんなユリファの圧に対抗するように

「そのことで、ハラとも話したのだけれど、ハラにお婿さんをみつけてきてもらおうかなって……」

「お姉様!」

 怖いぐらいのユリファの瞳に出会って、怯んだ様子でイリミアも後ずさる。

「な……、何かしら?」

「お家のことです。ハラさんに助言を求めるのは結構ですが、選択権を委ねるのは間違いです。お姉様がしっかりと婿を択んでくださいませ!」

 ユリファに迫られ、イリミアも小さくなっていた。

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