青い鳥
hororo
1/2 最初は何でも1番だけど
幸せの青い鳥は誰の近くにもいる。
誰の近くにもいるが誰もが気づけないでいる。
そうして大抵は過ぎてから理解する。
「ああ、あれが幸せの青い鳥だったんだ……」って。
小学4年生まで学級委員をしていた。
3年の前期から4年の後期までなので、3年前期、3年後期、4年前期、4年後期の全4期。アニメならなかなかの人気作だろう。
私が学級委員をやっていた理由はただ一つ。
学級委員の肩書きで偉くなった気になれたから。
実際に偉くなっていないのは当時の私にもわかっていた。
現に校長はいつまで経ってもその地位を私に譲らないのだし、教師はいかんせん私にも他の生徒と同じように掃除を命じるのだからまるで偉くなどなっていなかった。
むしろ掃除においては「学級委員なんだから他の生徒のお手本になるよう頑張れ」と、『学級委員』を都合良く使われていたのを覚えてる。
そんな小言を言われる度に私は、
「何がお手本だ。私は部屋をブタ小屋同然に散らかしているんだぞ。そんな私を手本にしたらクラス丸ごとブタ小屋じゃないか」
と内心でよく毒づいていた。
しかし、それを差し引いてもなお学級委員の肩書きは特別で、持っているだけで自分という存在が誇らしかった。
今思えばあれは一種の自己肯定感だったのだろうか。
学級委員であることを誰かに名乗ることなんて一度もなかったが、クラスのみんなが知っている。
そんな影のリーダー的な感じが気に入っていたのだ。
前置きが長くなったがあれは小学5年生の時のこと。
クラス替え後の新しいクラスになって数日が経った4月。
私の地元では春になり暖かくなると決まって変質者が出るのだが、それと同じくらいにこの時期は学級委員決めを行う。
例に漏れずその日のホームルームでは学級委員を決めることになった。
教師の立候補者を問う言葉に毎期恒例私だけが手を挙げた。そうして即刻私は学級委員になる……はずだった。
しかし実際には私以外にもう一人、別のクラスメイトが手を挙げたのだ。
その人……以下Aは4年生の前期に隣のクラスで学級委員をしていた、私と同じ元学級委員。
Aとは1、2年生の時こそ同じクラスだったがそれ以外の接点はなく、場所変わってどこかで会おうものならお互いが「初めまして」で通る関係だ。
そしてその時の私は少なからず驚いていた。
何せ学級委員は雑用係という共通認識のせいか立候補者はまずいない。
それも本来は1期ごとでの交代だがあまりに立候補者がおらず、3年生の時も4年生の時も、続投を望む私に教師は「生徒の自主性の尊重」という言葉で特例を作り、『雑用の押し付け合い』もとい『学級委員決め』に終止符を打ったほどなのだ。
そんな誰もが嫌がる学級委員を自ら希望するなんてAはとんだドMに違いないと私は人知れず理解した。
(どうでもいいが私はAが1年生の時に「鉛筆は2Bが1番美味い」と言っていたのを覚えてる)
私とAの立候補によりクラスでは多数決を取ることになった。
あいにくクラスはクラス替えをしてまだ日が浅い。
互いにクラスの半数程が元クラスメイトで残りの半数はほぼ初対面。
これは五分の戦いになるだろう……。
と、私が僅差の戦いを覚悟した矢先のこと。
クラスメイトの誰かが言った。
「でもhororoさん、4年生の後期も学級委員やったよ」
おそらくこの発言は近くの席の誰かへの情報の提供だったのだろう。しかし、それがどのような意図で言われたのかはわからない。
「4年生の後期も学級委員やったよ。だから実績あるよ」なのか。
「4年生の後期も学級委員やったよ。だからもう良いんじゃない?」なのか。
真相は不明だ。どちらにしろその奇怪な話し方からこいつが宮沢賢治の『やまなし』よろしくクラムボン推しなことだけはわかった。
そしてその発言が他のクラスメイトにどう聞こえたかは知らないが、結果的に私は多数決に破れ、5期連続の当選は叶わぬ夢となった。
その日の放課後。
私は家臣の謀反により散った織田信長と同じ気持ちで、ぶつくさと1人愚痴りながら帰り道を歩いていた。
「信じられない。こちとら丸2年も学級委員をやったのに」
「薄情にもほどがあるだろ。親の顔が見てみたい」
「あーあ、うちのクラスはもうおしまいだー。明日には学級崩壊が始まるなー」
初めはそんな恨み節こと悪口を垂れ流す害悪以外の何者でもない公害ラジオと化していた私だったが、いつしか冷静な頭で敗因を考えていた。
でも、どうして?
クラスには元クラスメイトが半分もいた。
それなのに学級委員に選ばれなかった。
つまり私って……。
慕われてない?
その結論に辿り着いた途端、私は今までの自分の一挙手一投足含むすべてが、なんだかとても恥ずかしく思えてきた。
意気揚々と一人学級委員に立候補したこと。
一人調子に乗って学級委員を続投したこと。
しかしながら誰からも推薦されたことはないこと。
考えるまでもなく痛いの度を越えている。
もし今の私がこの時の私に会ったなら、仮にまだ少しくらい息をしていたとしても、「ああ、死んでますね」の言葉で片付けて棺桶にダンクシュートを決めるだろう。
(今でもたまにだが、本当はあの時のクラスメイトは誰一人として私を痛いなんて思っておらず、むしろみんな私のことが大好きだった……という妄想をして、それが事実だと思い込むようにしている。じゃないとお風呂の度に熱いシャワーが止まらないから)
学級委員というアイデンティティーを失い、元学級委員になり下がった私。
明日学校に行ったらなんて言われるのだろうか。
なんて笑われるのだろうか。
負け犬とでも言われるのか……。
いや、絶対に、そんなの嫌だ!
そして、すべてはここから始まった。
ここからが私の黒歴史だ。
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