第9話 "いめほれ"
少し話したあと、芽衣たちは服を買いに行くと言っていたので、解散ということにした。
「さて、俺らはどーする?」
「蒼汰はなんかしたいことあんの?」
「ん-、そうだな……俺は本屋とかグッズ専門店辺りを見てみたいな。冬馬は?」
「僕も本屋かな……」
「じゃあ、三階か。また戻ることになんのはめんどくさいけどまあいっか」
俺たちはまたエレベーターに乗り、三階へ上がる。
レストラン系が一階にしかないのは少し不便かもしれない。
エレベーターを降りてすぐに本屋があったため、先に本屋に寄ることに。
「あ、あったあった。このミステリー作家さんの本、面白いんだよね」
「名前なら聞いたことあるな。読んだことないし、今度読んでみるか」
俺と冬馬がミステリーコーナーで話していると、蒼汰が満面の笑みで帰ってきた。
確か、こいつは新作漫画コーナーに行っていたはずだが……
胸元ではこの前出たばっかりの"いめほれ"5巻が大切そうに抱かれている。
「いやぁ~、限定ポスカがついてるやつ、まだ残っててよかったぜ」
「結構品切れ状態らしいしね~」
「そうらしいな」
なんというか、罪悪感が湧き上がってくる。
コミカライズ版は勿論漫画を描いてくださっている漫画家さんに収入が入るのだが、"いめほれ"を担当してくださっている方が「こんな最高の作品のコミカライズを描かせていただいたお礼です」なんて言って漫画家さんの収入の半分をいただいている。
だから、目の前で親友が使おうとしているその金の一部は俺の財布の中に入るのだ。
蒼汰が必死でアルバイトをして稼いだ金が……
「どうした?真人、なんか顔色悪そうだぞ」
「あぁいや、なんでもない。あんまり金使えないなぁ、って思っただけだ」
「?お前金欠だったっけ?」
「まあ、な。最近ちょいと使いすぎてて」
当然嘘だ。もとからあまり金を使わなかったのに、毎月の出費を大きく超える収入が入ってきて逆に使いきれないぐらいである。
「ま、真人が体調悪くないならいいか。そいじゃ、買うか」
「そうだね~、今ちょうどレジ空いてるみたいだし」
俺たちは各々選んだ本を買って、本屋を出た。
一旦フロアマップを確認し、グッズ専門店へと向かった。
入口にはわかりやすく"いめほれ"のグッズが配列されている。
中学生の頃の気の迷いから書き始めた妄想小説がここまで有名になるとは……嬉しいには嬉しいが、手放しで喜べないというか、恥ずかしいというか……
まあ、恥ずかしいは恥ずかしいが、書き始めたことは全く後悔していない。
……そういえば師匠、元気にしてるかな。最近電話すらできてないけど……
「これ、俺の持ってねぇやつじゃん。買うか」
「そういや、このグッズ昨日出たんだっけ……これは買わないと……」
俺がぼーっと店内を眺めながら考えていると、グッズを見て即買いしてる2人の声が聞こえてきた。
この2人、いつもこの調子だけどマジで金大丈夫なのか……?
とか思っている内に、2人が会計を済まして戻ってきた。
「なぁ、真人はなんにも買わねぇのか?」
「特に買いたいものはないしなぁ……強いて言うなら高性能デスクトップパソコンとトリプルモニター用にもう一個モニターが欲しい」
「お前……そういうたけぇもんばっか買ってるから金欠になるんじゃねぇの……?」
周りから見るとそう見えるよな……ちょくちょく高いものは買ってるし。なんならこの前は陽菜にも俺と同じ機材を買ってあげた。
「そういえばなんだけどさ、真人って頑なに"いめほれ"に興味示さないよね。どうしてかとか教えてくれる?」
「本当にそこは不思議だよな~。別に小説を読むのが苦手ってわけでもないだろ?」
「うーん、なんでだろうな……なんとなく、あんまり興味が湧かないというか、気にならないというか」
「なんだそりゃ」
そりゃ興味も湧かないだろう。だって俺が興味あるのは本編よりも読者さんたちの反応だ。もちろん、金になるから……なんて理由ではなく、毎回応援をもらえるだけで本当にありがたい。
「まあ、ゆっくりハマってきゃいいだろ。もしかしたら来年には受験なんか忘れて全力でハマってたりな」
「ははっ、そんなことがあればいいな」
「俺と滅茶苦茶語り合っている未来が見える見える」
「どんな幻覚だ……」
恐らくそんな未来は一生訪れないだろうな。流石に自分の作品に溺れるなんて滑稽にもほどがある。
その後は蒼汰から怒涛の"いめほれ"語りを聞かされるという拷問を受けながら帰路に着いた。
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