第8話 ラーメン
今回少し長めです。
流石に第1話ほどではないですが……
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「え、芽衣……?」
俺はそれだけ言って完全に硬直していた。
普通にここで出会うとは思っていなかったため、驚いてしまった。
「あれ、先輩じゃないですか」
芽衣は冷静に声をかけてくる。
そんな俺たち二人の反応を見て、蒼汰が言った。
「……真人、お前、こんなかわいい子と知り合いだったのかよ……」
「…………あ、あぁ、この前、偶然、な」
「俺たち三人の生涯独身同盟はどうしたんだよ?!」
「そんな同盟を組んだ記憶はないぞ。あと付き合ってねぇから」
「僕も聞いたことすらなかったかな」
「ヒドイ!!」
ちなみに本当にこんなふざけた同盟は組んでいない。
「ふふっ、先輩たち、面白いですね」
「ね、ねぇ、芽衣ちゃん……?この先輩たち?って……?」
「あ、そういえば
「こっちもこいつらのこと教えてなかったな。俺の右のちょっとチャラそうなのが朝江蒼汰。んで俺の左の優しそうなのが綾風冬馬だ」
「よろしくね」
「おい真人!俺の紹介だけなんか酷くないか?!」
冬馬は俺の言葉通り優しそうに微笑みながら手を振る。
この見た目通り優しいからずるいんだよな。
そして蒼汰は俺に食ってかかってきている。
あと、さらっと芽衣からディスられた気がするがそこは気にしないこととする。
「それで、芽衣。そっちの子は?」
「この子は
「えっと、よろしくお願いします……?」
宮野さんという子はおっとりした雰囲気で、髪の毛は肩辺りまで伸ばしている。
少し背が低く、若干自信なさげな様子も相まって庇護欲を搔き立てられるような子だ。
「先輩たちはここで買い物を……ってわけじゃなさそうですね」
「そうだな。三階のゲーセンで遊んでて、今から昼飯だ」
「へぇ~。ちょうどいいですね、私たちもこれからお昼にしようと思っていたんです。ご一緒にどうですか?」
「とのことだけど、2人は大丈夫か?」
「僕はいいよ。人数が多いほうが楽しめるしね」
「俺もいいぞ。男三人だけよりも女の子たちがいたほうが華があって……アダダダダ!!」
とりあえず蒼汰が変なことを言い出しそうだったので両頬を片手で締め上げる。
「ちなみに宮野さんも大丈夫かな?」
「わ、私も大丈夫です……」
「了解。それじゃ、行こうか」
「ちょ、
「ん-、去年測ったのだと56ぐらい?」
「ばへもんは!」
……あまりにも蒼汰がうるさいので手を放してやる。
軽く手をぶらぶらさせながら他三人のほうをちらりと見ると、冬馬は「ははは……」と乾いた笑いをこぼし、芽衣と宮野さんは引きつったような顔で愛想笑いをしていた。
なんとなくこの三人の言わんとすることが分かる気がするが、それには触れないことにした。
「それで、みんな何が食べたい?」
「うーん、僕はラーメンかな、さっきも言ったけど」
「私もラーメンの気分です」
「わ、私も……」
「俺もラーメンだな」
「全会一致でラーメンか……ま、俺もその気分だったしな」
フロアマップで確認し、ラーメン店に向かう。
昼時は少し過ぎてしまっているはずだが、店前のベンチには2人座っている。
「意外と混んでんな……」
「まあ、やっぱここが新しくできたから、なんだろうね」
「そうだな……ん、でも待ってるのはそこの2人だけみたいだぞ」
「6人席なんてありますかね……」
「どうかされましたか?」
入口付近で喋っていると、中から店員さんが出てきた。
流石に長めに話過ぎたかもしれない。
「あ、すみません。すぐどきますんで……」
「いえいえ、ちょうど今6人席が空いているんですが、いかがなさいますか?」
「え、でもそちらのお二方は……」
「あぁ、あの2人は休憩中の店員です」
「へ?」
その2人の方を向くと、少し申し訳なさそうな顔で頭を下げる。
マジかよ……全然気付かなかったわ………
とりあえず店員さんに案内を頼むと、かなり奥のほうに空席があり、その席に着いた。
「こちらメニューになります。ごゆっくりどうぞ~」
「ありがとうございます」
「この野菜ラーメンおいしそ~!香奈音ちゃんはどうする?」
「うーんと、私は……この味噌ラーメンにしようかな」
「お、特製濃厚醬油ラーメンなんてもんあんじゃん。俺はこれにするか」
「ん~、僕はこのピリ辛山椒ラーメンにしようかな……」
「あ、そうだ、水無月先輩は何にするんですか?」
芽衣が俺に振ってくる。
うーん、なんて唸りながらメニューを見ていると、期間限定メニューとして激辛ラーメンがあることに気が付いた。
俺は指をさしながら、
「俺はこれにするかな。激辛ハバネロラーメン」
と言うと、全員が若干引いた表情で俺を見つめてきた。
何か変なことを言ったか?と首を傾げると、蒼汰が呆れたように言った。
「なぁ、真人。そういうのは賞金目的で食うもんじゃない。やめとけ」
「確かに賞金あるけど……俺は本気だぞ」
「蒼汰の言う通りだよ。真人、流石にやめておこう?」
「なんでそんなに必死に止めるんだよ……」
「そりゃ決まってるだろ……」
「「ここに注意書きで食べるときは自己責任でって書いてあるからだよ!!」」
蒼汰と冬馬の声がハモる。
「ったく、2人とも心配性過ぎないか……?」
「先輩、ここはお二方の言う通りですよ」
芽衣までもが俺のことを止めようとしてくる。
流石に3対1は勝てない。結局俺は降参することにし、塩ラーメンを頼むことにした。
全員の注文が決まったということで、席に備え付けてある呼び鈴で店員を呼ぶ。
少し待つと、店員さんがやってきた。
「注文お決まりですか?」
「はい。えっと、塩ラーメンと野菜ラーメン、ピリ辛山椒ラーメンに味噌ラーメン。あ、あと特製濃厚醤油ラーメンで」
「承知いたしました。少々お待ちください」
店員さんが戻っていく。
その後、5人で談笑していると、先ほどの店員さんが料理をお盆に載せてやってきた。
机に並べてもらい、全員で食べ始める。
「……冬馬、一口もらっていいか?」
「いいよ。もちろん真人のも一口もらうけどね」
「それぐらいお安い御用だ」
「真人、お前マジで辛いもん好きだよな……」
「え、なんかよくない?上手く言い表せないけど」
「それは分かる。言葉に出来ないけどいいよね」
「やっぱ冬馬は分かってるな」
「先輩、その気持ち、なんとなくわかります」
「え、芽衣ちゃん……?私はちょっとよくわかんない……」
俺、冬馬、芽衣の三人で頷き合っていると、宮野さんと蒼汰が怪訝そうな顔をする。
どうやら宮野さんも蒼汰も辛い物が苦手なようだ。
「ようお前ら辛いもん食えるよな。俺一口でも食ったら吐く自信あるぞ」
「とは言いつつ蒼汰ってワサビとかからしは食えるよな」
「あれは風味付けじゃん。それに俺が言ってる"辛い"はタバスコとかそのあたりを言ってるんだよ」
「あー……ま、確かに人によっては食えんだろうな。……っと、全員食い終わったか。ちょっと休んでくか?」
俺がそう言うと、全員が頷いた。
冷水を飲んでいると、蒼汰が俺に耳打ちしてきた。
「なぁ、真人。どうやって芽衣ちゃんと知り合ったんだよ」
「普通だよ。雨の日に傘を貸した相手が偶然芽衣だっただけだ」
「それ、普通じゃねぇだろ……大抵は女子相手に傘貸せねぇよ、友達でもない限り」
「まあ、そんなもんなんかな……」
「とりあえずお前が特殊だってことが分かったわ」
「なんか失礼な言い方だなオイ」
軽く蒼汰のこめかみを小突き、立ち上がる。
そろそろ全員出る準備を始めていたからだ。
「あ、会計ってどうします?」
「ほい真人。頼んだ」
「蒼汰、お前なぁ……ま、いいけど。全員適当に払う分俺に渡してくれ」
「え、あ、はい……」
みんなから一旦お金を受け取り、誰が何円渡してきたのか把握する。
そして、いつものように計算し、
「ちょっくら会計してくるわ」
と言って会計に向かった。
「え、ちょっと……」
「安心して。真人はあれでもう全員分のお釣り把握してるから」
「えぇ……?」
後ろから芽衣の怪訝そうな声が聞こえる。
チラッと横目で見たが、宮野さんも同じように半信半疑のようで心配そうに俺を見ていた。
その間に会計を済ませた俺は、4人の下に戻って、各々に小銭を差し出した。
「お、いつも通りぴったりだな。すげぇよ、あとごめんな、いつも任せちまって」
「いいよいいよ。暗算は得意なんだから。あとたまにはやらないと体が鈍る」
「暗算が得意って……もしかしてそろばんでもやられてたんですか?」
「まあ、そうだな。小さい頃に親父に叩き込まれたんだ。何度も何度も叱られながらやったからか、体が覚えててな」
「なるほど……」
「そういえば真人は何桁まで計算できるんだっけか?」
「んー、三桁×三桁ぐらいならギリギリ、かな。それ以上は少し時間がかかる」
「それにしてもすごいような……」
なぜか店から出た後もそろばんの話は続いたのだった。
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蒼汰と真人の台詞が若干分かりづらいかもしれないです。
出来るだけわかりやすくしたつもりですがご了承ください。
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