第4話 蒼雷



「やっぱり、わたしが間違ってたのかな。たった1時間、目を離しただけで逃げ出すなんて思わなかった。わたしと“紫操しそう”が鍵をしたのに……。」


俺が大人しくなったのに安心したのか、エマはため息をついて、俺を縛ったリボンを握る手を離してくれた。


ほどいてはくれなかったが、仮に解かれていたとしても逃げるのは無理だっただろうな。

エマの身体能力が圧倒的すぎる。


どうやら、エマが俺を保護し、あの部屋で看病していた張本人らしい。ちょうど俺の様子を見に行くところだったそうだ。


無断で出てきてさまよっていたわけだし、確かに逃げ出したと思われたとしても仕方ないだろう。


「逃げ出したって、全然そんなつもりじゃないんだよ。世話してくれてたヤツがいるっぽいし、知らせないといけないと思っただけなんだ。あと鍵はかかってなかった!」


「……っ、嘘をつかないで。わざわざ取り替えたんだもん。あのドアに近づいたら時の流れが限りなく遅くなって、触れると電流が流れて気絶させる。あなたはそれを何かしらの魔術で解除した。違う?」


俺の正面にまわり、厳しい目を向けてくるエマ。動きがいちいち優雅だ。


どうやらこの世界には魔法という概念があるらしいな。

これは生まれかわりは生まれかわりでも、ゲームやラノベでおなじみの異世界転生、ってやつなのか。今更のように気づき、密かに興奮する俺。


それにしても、明らかに扉だけが真っ白で浮いていたのは、鍵をかけたものに取り替えたからだったのか。

しかし……


「いや、本当になんの話だ?あのドアは普通に開いたぞ?」


そう、俺が扉に近づいても時の流れはいつも通りであったし、触れても電流なんて流れなかったのだ。

エマの目がますます鋭くなる。


「いい加減に嘘をつくのはやめてよ。素直に話してくれないと本当に……この件は内密に処理したいの」


「だから嘘ついてねーって!魔法なんて仕掛けられてなかった。あー……不発だったんじゃないか?」


「そんなわけない。けど……」


エマの目が揺れた。すこし困ったような顔だ。


そして、こう言った。


「……ねえ、リンネ。わたし、やっぱりこの人は違うと思う」

「そうやねぇ、自分にもそう見えるよ」


どこからか、のんびりとした声が聞こえた。

直後、両腕から木の棒のようなガラクタを生やした不気味な女が、俺の前に現れる。


そして、こう言った。


「この子、カミサマなんと違うかなぁ」







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