第3話 刺客

自身の容姿に動揺を隠せず、俺はその場に立ちすくんだ。

まじまじと自分の体を見つめる。


「うーむ…。体の動きには全く違和感がないんだよな、間違いなく俺の体だ。筋力とか身長とかは変わっていないっぽいな」


どうやら、容姿や肌の色が変わっただけらしい。整形したみたいなもんか、と納得した。


どうせなら身長も伸びててくれたら良かったのにな。

ま、イケメンになれただけでも嬉しいんだけど。


とにかく先に進もう。そう思って、とりあえず右の道に進んでいくことにする。


しかし、踏み出したとたん、ものすごい勢いで走ってきた水色の髪の美少女と目があって。


あわてて避けようとするが、少女はもう目と鼻の先。


「やばい、ぶつかる……!」


しかしその直前、ふわりと少女の体が浮いた。


まるで舞をしているかのようにきれいな、人間離れした動きだ。


着物のような長い袖がひらひらと揺れ、俺の頭上を越していった。


サッと後ろを向いて、少女と向かい合う。

にしても、近くで見ると本当にきれいな顔立ちをしている。


凛とした中性的な顔と、可愛い服や髪型は意外とよく合うらしい。


「ご、ごめん……」


少女にじーっと見つめられ、俺は慌てて謝った。


というかこの子、どっかで見たような気があるような……。

悩んでいると、ふいに少女の姿が見えなくなった。


「っておい!?何すんだよ!?」


直後、腕が引かれて後ろに回され、自由を奪われる。

どうやら、消えたと思った少女は背後に回っていたらしい。


一瞬の出来事で、抵抗すらできなかった。


慌ててバタバタと暴れ、逃げ出そうとするが、少女はびくとも動かず。


それどころか、リボンのようなものを巻いて拘束された。

──これ、本格的にまずいんじゃないか?


背丈はあまり変わらないが、それでも華奢な少女だ。


仮にも男対女であるはずなのに全く歯が立たないのは、先手を取られたからだろうか。


いや、これは……、純粋な力も、彼女の方が圧倒的に強いような気がする。


ひや汗が背中を伝うのを感じた。こんなことなら、ちょっとは運動しておくんだった。


手が拘束されたので全力で蹴ろうとしたが、左足を曲げた時にぱっと抱え込まれ、太ももの辺りまで縛られてしまった。


「おい、離せって!何する気だ!!ってか誰だよお前!!」

「あなたを無力化する気。……答えたから暴れないで。わたしは疑わしいって理由だけで人を殺したくないの」


ああそれと。そう付け加えて、少女は俺にこう言った。


「わたしはエマ」











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る