旧校舎の少女 〜学校跡地を巡る旅〜

平中なごん

プロローグ

〈プロローグ〉

 天守が国宝指定されている五つの城の一つ、松本城を中心に発展した城下町──信州松本。


 この松本には国宝の建物がもう一つある……明治時代に地元の大工さんの手により、見様見真似で西洋建築風に建てられた擬洋風建築の小学校〝旧開智かいち学校〟だ。


 観光で旧開智学校を訪れると、大勢の来館者達の中に混じって、白い着物を着たおかっぱ頭の幼い少女を見かけた。


 その明らかに現代のファッションとは異なる格好をした女の子は、他の来館者達と比べれば違和感があるものの、旧開智の古い白壁の校舎には妙にしっくりきている。


 まるで明治時代の小学生が、時間を飛び越えて現代に現れたみたいである……。


 そんなことを考えながら、思わず少女の方へ視線を向けてしまっていると、少女もその視線に気づいたのか、つかつかと真っ直ぐこちらへ近づいてくる。


 だが、周囲を気にせず突進してくる少女の行動にも、他の来館者達は見向きもしない……まるで、彼女の姿が見えていないかのように。


 賑わう人混みの中、それなのに少女は誰にもぶつかることなく、平然とこちらへ向かってくる……いや、ぶつからないんじゃない。ぶつかった相手の身体を通り抜けているのだ!


 そして、すぐ近くまでやって来た少女は下から顔を覗き込むように、じっとこちらを見つめながら言った。


「あなた、あたしのこと見えてるよね?」

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