幕間 北条さんと大久保さん

 小田原からの帰り道、二宮さんについての疑問を工藤君に尋ねてみる。

「工藤君、二宮さんはちょんまげの時代の人なんだよね?」

「そうだね。」

「でも、北条家とは関係がないの?」

「うん、二宮尊徳は江戸時代の終わりの頃の人物だから、そのころの小田原を治めていたのは大久保家だね。さっきの神社でも、二宮尊徳の進言で飢饉のときに大久保家の蔵を開いたって話が書いてあったよ。」

「そっか。言われてみると、北条は戦国時代だものね。」

 小田原といえば北条家を連想してしまう。実際のところ、お城はもちろん、街中の色んなところに北条家に由来するキャラクターのイラストがあしらってあったりするので勘違いしてしまうけれど、北条家が小田原を治めていたのは戦国時代までの話なのだ。

「江戸時代は大久保さんがお殿様だったのに、どうして北条さんの方がメジャーな感じなんだろう?蔵まで開いたのに、なんだか大久保さんかわいそうじゃない?」

「どうしてなんだろうね。北条家の治世は他所よりも税金の負担が軽かったから領民に慕われてたなんて話もあるけど。」

「大久保さんのときは増税したってこと?」

「いや、そこまでは分からないけど。大久保家以外が治めていた時期もあるからかな。あと、江戸時代よりも、戦国時代の方がドラマとかで取り上げられやすいから、知名度が高いってこともあるかもしれないね。武田信玄や上杉謙信は知っていても、江戸時代の甲斐や越後の領主の名前なんてあんまり知られていないよね?」

「確かに!」

 本当は大久保さんも北条さんに勝るとも劣らない政治をしていたかもしれない。……していなかったかもしれないけど。

 過去の事実は、真実が何かではなく、未来の人たちがたまたま手にした情報が何かによって決められてしまうものなのかもしれない。

 なんてね。


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