第30話 成功とは
加保茶さんの陳述書は、帰国後の十蔵さんたちの話へと続いている。
帰国後の十蔵さんは一年ほど家業に専念していたらしい。加保茶さんも帰国後に会員制の風俗事業を立ち上げて多忙になったので、会う頻度は大幅に減り、麻雀も週に一度に減ったくらいなんだとか。
それって十分多くないですかね?
本人の表現を借りれば、三度目の正直で、加保茶さんの事業は軌道に乗った。先に帰国していた同志たちもそれぞれ色んな事業を立ち上げてそれなりの成功を収め、十蔵さんの家業が安定してくると、彼らは土日平日の区別なく遊び回るようになった。
時間とお金に余裕ができて、麻雀にゴルフ、ときにはスキーや海外旅行など、好景気に湧く昭和の終わりをヘトヘトになるまで遊び暮らす彼らは、いつの頃からか額神家伝来の精力剤である豪心丸を常用するようになったんだとか。
豪心丸の噂は加保茶さんからお客さんたちへと口コミで広まり、十蔵さんは豪心丸を加保茶さんの経営する会員制のお店へ卸すようになった。そこの会員たちの中には名だたる大企業の役員や政治家などの社会の名士が数多くいたため、豪心丸は日本全国に知名度と販路が拡大していったのだとか。
ちょっと、この国、大丈夫かな?
加保茶さん視点だと、十蔵さんは出会った頃から変わらない。屈託のない性格で、思いついたことは言わずにはいられない、やってみたくて仕方がないというような、子どもっぽいけれど、一緒にいることで退屈しない人だったのだそうな。
あと、十蔵さんが遺産や会社をどうするつもりだったかは特に聞いていないのだそうな。遺言書の筆跡や、丸に十字の記号のようなサインは本人が書いたものに似てるとは思うけれど、本人が書いたものかどうかまでは分からないという。
加保茶さんの陳述書は、
「裁判の証人は初めての経験なので楽しみだ。何でも遠慮なく聞いてほしい。もしも、額神が私と同じ立場になったならば、きっと似たような感想を口にしていただろう。」
というコメントで締め括られていた。
「工藤君、この陳述書の内容、本当っぽいよね。」
「そうだね。突飛な内容ではあるけど、具体的だし、迫真性っていうのかな、リアリティーがあるように感じる。それに、形式も、弁護士が作文したわけじゃなくて、いかにも加保茶さんが自由に書いたという印象で、信用性は高いと思う。」
「じゃあ、武雄さん有利ってことになるのかな。」
「今のところはそうなるだろうね。」
私の立ち位置からすると、武雄さんが有利になった方がいいらしいけれど、特に私が何もしなくてもそういう流れで進んでいるっぽい。
十蔵さんの事業もそうだけど、何ごともうまくいくかどうかは、やっぱり運次第なんだろうか。
「工藤君、ありがとう。勝てる気がしてきたよ。」
「あはは、それじゃ帰ろっか。」
裁判所からの帰り、小田原まで来たのだから、どこかに立ち寄っていこうという話になったのだけれど、なんと裁判所から歩ける距離に二宮金次郎さんの神社があるのだとか。
二宮さん、神様になって祀られていたとは。
裁判所からの行き方を調べてみると、お城の中を通っていける道があるみたいだ。せっかくなので、二度目の小田原城訪問をしながら神社へ向かう。
お城を通って、というか、お城の中の一角に、というべきなのか、どちらが正しいのかよくわからないけれど、私たちは神社にたどり着いた。
神社の違いが分からない私にとって、ぱっと見は緑が豊かなきれいな神社といったところ。
とりあえず参拝してみる。
清志さんと武雄さんが仲直りできますように。
裁判が上手くいきますように。
さて、振り返って境内を散策してみると、薪を背負った二宮金次郎さんの銅像が建っていた。歩きながら本を読む定番のスタイルだ。
そうそう、これだよ。二宮さんはやっぱり立ってないと。
さらに境内を歩くと、もう一つ銅像を発見した。ちょんまげ姿の男性が立って帳面をつけている、といった感じ。大人になった二宮さんだそうな。
子どもの頃は歩きながら学び、大人になっても歩きながら働く。時間を惜しんでせっせと頑張った人なんだなあ。
二宮さんのモットーは「積小為大」というものだったらしい。小さなことからコツコツと、積み上げていけば大成功できるよ、ということなんだとか。実際、積み上げた結果として人々を飢饉から救ったというんだからすごい説得力だ。そりゃ、神様になって祀られるのも納得だよ。
なんか、何の努力もしてないのに、相続だ、お金が欲しい、っていう自分が恥ずかしくなってきた。
十蔵さんも、なんか努力というよりは運で成功しちゃった感じだけど、こんな気分になったりしたのだろうか。
大人バージョンの二宮さんは厳しそうな顔をしている。……なんかすみません。とりあえず、今日から歩きスマホは止めます。
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