第25話 二回目の裁判の期日

 そんなやり取りをしていると、三条弁護士が法廷に入ってきた。

 目に痛いほどに真っ赤で金糸で刺繍の入ったパンツスーツに金色の弁護士バッジ。バッグも金色でデコボコとした表面が金属的な光沢を放っている。トゲトゲのついたヒールをカツカツと響かせてこちらに近づいてくる。

 前回の真っ白のスーツも派手だと思ったけど、今回の真っ赤なスーツはさらにすごい。派手派手だ。テレビに出てくる芸人さんとか、ドラマなどのフィクションとか、ファッションショーのランウェイとかそういうの以外でも、こういう格好の人がいるんだということに圧倒される。

「こんにちは、岩渕先生、大崎さん、工藤さん、今日もよろしくお願いします。」

 長いまつ毛をキラキラさせながら、笑顔を向けてくる。

「こ、こちらこそよろしくお願いします。」

 前回も思ったけど、年齡不詳のこの弁護士さん、なんというか、すごく強そう。いや、立ち振舞はすごく友好的だし、親切な感じだし、きっといい人のはずなんだけど、絶対に敵に回してはいけない気がする。

 KBZ作戦でついていく限り、敵になることはないはずだけど。

 最後に原告側の盛山弁護士が法廷に入ってくる。ストライプのダークスーツ、整髪料で固めたツーブロック、筋肉質なシルエット。うん、やっぱり悪い不動産屋さんっぽい。

 盛山弁護士は、被告席の私たちに軽く会釈をして原告席に座る。

 書記官さんが、三条弁護士と盛山弁護士にも加保茶さんの陳述書を渡す。二人とも、特に驚く様子もなく、サインをして受け取り、パラパラとページを繰って目を通していく。こんな感じの証拠書類の受け渡しは普通のことらしい。


 ガチャリ。

 法廷の奥の裁判所関係者用の扉が開き、長い黒髪のまるで女優さんのような裁判官が法廷に入ってくる。

 ガタン。

 書記官の人、弁護士さんたち、工藤君が立ち上がる。今回は、私も遅れずに立ち上がる。

 裁判官が一礼してから座り、続いて、私たちも一礼して座る。

「令和四年、ワ、第百十*号」

 書記官の人が番号を読み上げる。

 前回と同じ流れだ。ここまでは毎回やることなのだろう。裁判官が話を始める。

「それでは、開廷します。被告額神武雄さんは期日間に提出した準備書面を陳述しますね。」

 岩渕弁護士が立ち上がって答える。

「はい、陳述します。」

 そして、岩渕弁護士が着席する。

 これ、なんでいったん立つんだろう?前回も岩渕弁護士だけが立ち上がってたけど、なんか意味があるのかな?

 海外ドラマで、弁護士が「オブジェクション!」とか言って立ち上がるのは格好いいんだけど。そういえば、ドラマだと、裁判官は木のハンマーを持ってたような。

 裁判官の人が話を続ける。手元にハンマーはない。

「少し特殊な進行になってすみませんが、筆跡についての論点もあるので、書証については次回以降にまとめて取調べを行いたいと思います。」

「分かりました。」

 岩渕弁護士が同意する。盛山弁護士もうんうんと頷いている。

「では、前回の予定どおり、次回までに被告鈴木智子さんと被告大崎あかりさんには、請求原因についての認否をお願いします。」

 ふむ、何も分からないままだけど、もう次回の話になってる。でも、前回もそんな感じだったし、今回はこれで終了なのかな、認否って大変そうだな、工藤君に相談しよう、などと思っていると、三条弁護士が立ち上がる。

「すみません、裁判所、ご指示の通り、請求原因についての認否は次回までにいたしますが、それはそれとして、一つよろしいですか。」

「どうぞ。」

「今回の額神武雄さんの準備書面では、相続について話し合いにより決めたいとの考えが記載されています。一方で、武雄さんからは遺産の分割案についての提案がありません。これでは、私たちとしても武雄さんの主張について評価できかねます。ついては、額神武雄さんに対して、遺産の分割案について説明するよう求めたいと思いますが、いかがでしょうか?」

「岩渕先生、いかがですか?」

 裁判官が岩渕弁護士に話を振るのを見届けて、三条弁護士がゆっくりと着席する。入れ替わりに岩渕弁護士が立ち上がる。

「詳細なところは現在検討中なので、まとまってから改めて提案する予定でしたが、三条先生のおっしゃることもごもっともだと思いますので、骨子についてはこの場で説明することといたします。」

 岩渕弁護士が手元のファイルのページをパラパラと繰る。

 言われてみれば気になっていたことではある。

 私の受け取る金額は、清志さんの主張だと五千万円、武雄さんの主張だとゼロ。これだけだと清志さんが勝つ方が私にとって有利なんだけど、武雄さんは遺言書はあくまで仮の定めで、相続は話し合いで決めるというのだから、五千万円よりもっと大きい数字になることもありうる。

 実際のところどうなんだろう。私は、岩渕弁護士の次の言葉を待った。

 

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