第13話 作戦名KBZ
「じゃ、次にいってみよう。」
と、いうことで答弁書の次の項目を見てみると、こんなことが書いてある。
「『請求の原因』に対する答弁(該当する□にレ点を付してください。)
□ 認めます。
□ 間違っている部分や知らない部分があります。(どこの部分かを箇条書きにして書いてください。)」
……。またなんか変なのが出てきた。
「工藤君、これ何?どうしたらいい?」
「『請求の原因』っていうのは、さっきの請求の趣旨の理由を説明する部分だよ。ほら、訴状のこの辺に書いてある。」
そう言って工藤君は訴状を示してくる。
さっきの請求の趣旨の次の項目として書いてあるんだけど、次のページも、その次のページもずっと続いている。
「えええ、これ全部読むの?さっきみたいに決まったフレーズを印刷してくれてればいいのに。」
「まあ、事件の個別の事実についての記載だから、裁判所としてもそういう形にするわけにはいかないんだろうね。」
「じゃあ、どうすればいいの?工藤えもん?」
「とりあえず、間違ってる部分やなんとか、の方にチェックをつけて。」
「はい、って、ちょっと待って、そっちにチェックしちゃうと、どこの部分か箇条書きにって書いてあるんだけど。」
「大丈夫。あとは、下に『おって主張する』と書けばいいよ。」
「『おって』、って何?」
「後で、って意味だよ。」
ふむ、よくわからないけど、工藤君のアドバイスどおりにしてみる。しかし、
「後になっても書ける気がしないんだけど、大丈夫かなあ?」
「普通なら困っちゃうかもしれないけど、大崎さんの場合、基本的に事情は知らないって言ってればいいはずだし、この裁判って大崎さんの他にも武雄さんと智子さんが被告になってるから、彼らのやることをを見てから対応すればいいと思う。特に、遺言書との関係だと、大崎さんと智子さんは同じ立場だから、困ったら、智子さんの弁護士と同じ主張です、って言ってたらとりあえずは大丈夫なんじゃないかな。」
おおお!それだ!弁護士を雇ってないのに弁護士と同じレベルの主張が出来ちゃう。
名付けてK(コ)B(バン)Z(ザメ)作戦!
「うんうん、それでいこう。工藤君、ナイスアイデアだよ!考えなくていいところが素晴らしい。」
「まあ、智子さんが弁護士に依頼しなかったらどうしよう、って話はあるけどね。」
「それは……、まあ、その時に考えよう。うん。」
それで、次は何かな、っと。
答弁書の用紙を見てみるとこんな感じ。
「3 私の言い分(該当する□にレ点を付してください。)
□ 私の言い分は次のとおりです。
□ 話し合いによる解決(和解)を希望します。」
ふむふむ。
「あー、これは分かる。話し合い希望だから、こっちにチェックすればいいよね。武雄さんと清志さんが仲直りしてくれるといいんだけど。」
「そうだね。」
そして、次はいよいよ最後の項目だ。
用紙に印刷されてるのは、
「4 送達場所の届出」
とあって、郵便番号や電話番号を書く欄がある。
「えっと、連絡先ってことでいいんだよね?」
「裁判関係の書類の送り先ってことだけど、連絡先って認識で問題ないと思うよ。」
住所と電話番号なんかを書き込む。
出来上がり?
出来上がりだあ!
「ありがとう、工藤君。おかげで答弁書が出来上がったよ。あとはこれを郵送すればいいのね。」
「二通提出するって書いてあったから、コピーしてからかな。裁判所用と原告用ってことだね。」
「えっと、武雄さんと智子さんの分は?」
「じゃあ、合計で四通作って提出しよう。多い分には問題ないはずだよ。」
ふう、長かったあ。私のアイスティーも、工藤君のアイスコーヒーも、氷が溶けて薄まってしまっている。
「こんなに長い時間付き合ってくれてありがとう。いやあ、ほんとに工藤えもん様々だよ。」
「こないだは名探偵だったけど、いつの間にかネコ型ロボットになってるし。」
「それくらい頼りになるってこと。私の顧問弁護士だね。」
「そう言われると困るなあ。弁護士志望で勉強してはいるけど、やっぱり僕は素人だからね。」
工藤君は本当に困ったように頭をかいている。真面目だなあ。
「これであとは裁判に行くだけだね。8月の終わりころだから夏休み中だけど、工藤君も一緒に来てくれる?」
「うん、大丈夫。お供しますよ。」
「よし、これでバッチリだ。この裁判、勝てる気がしてきた。」
「いや、この件は勝ち負けみたいな感じの話じゃないような気がするけど。」
このやり取り、検認のときもやったような気がする。裁判っていうと、「勝訴」とか書かれた紙を裁判所をバックにばばーんって広げてるのをイメージするんだけど、勝ち負けじゃないとしたら、あれになんて書けばいいんだろう。「不当判決」?いや、あれは負けたときの書き方じゃなかろうか。そんな弱気じゃだめだ。
「ああ、大崎さん、答弁書はあれでいいと思うんだけど、訴状は読んだ方がいいと思うよ。」
えー、勘弁してよ、工藤えもーん!
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