第12話 作戦会議
ぬこ神家の相続人だよと言われて四ヶ月。よく分からないうちに気づけば被告になってるし、なんか釈然としない。けど、それはそれとして、裁判になってる以上は対応を考えなくてはいけない。
「工藤君、訴えられちゃったことは分かったけど、私はどうしたらいいの?」
「まずやらなくてはいけないことは、答弁書を書いて提出する、ってことだよ。ほら、ここに書いてあるよ。」
工藤君は裁判所から来たわら半紙の二枚目「お読みください」のところを見せてくる。確かに「答弁書を二通作成し、裁判所に提出してください。」と書いてある。
「と、言われましても。答弁書って何?」
「用紙がついてる。これだよ。」
わら半紙の四枚目を工藤君が示す。確かに「答弁書」というタイトルが書いてある。
「これに必要事項を書いて送ればいいわけね。」
ふむふむ。タイトルの下に宛先として「横浜地方裁判所小田原支部 御中」と印刷されていて、右の方に日付と署名欄、印と書いてあるところには印鑑を押せばいいのだろう。余裕余裕。
で、それから、
「1 『請求の趣旨』に対する答弁
『原告の請求を棄却する』との判決を求める」
と印刷されている。よゆうよゆ……、なんだこれ?
「助けて、工藤えもん。なんか変なの出てきた。請求の趣旨とかって何?」
「ああ、それね。これだよ。」
工藤君は訴状を取り出して、該当箇所を示す。確かに「請求の趣旨」って書いてある。その下には、箇条書きでこんな事が書いてある。ちなみに特定されないように数字のところは*で。
「1 横浜家庭裁判所小田原支部令和4年(家)第*号遺言書検認申立事件において検認された令和3年3月3日付自筆証書遺言による亡額神十蔵(最後の住所:神奈川県小田原市城南町*丁目**番地*号)にかかる遺言は無効であることを確認する
2 被告額神武雄は亡額神十蔵の遺産につき、相続権を有しないことを確認する
3 訴訟費用は被告らの負担とする
との判決を求める。」
漢字が多くて目が痛い。
「なるほど。」
「大崎さん、それって本当は分かってないけど、分かってるふりをするときの口癖だよね?」
うわあ、気付かれてた。名探偵め。面と向かって指摘されたら恥ずかしいじゃないか。
「分かってるんなら、教えてよ。」
「ごめんごめん。請求の趣旨は原告がこの裁判で求める内容だよ。一番目は、こないだの遺言書が無効だ、ってことらしい。公正証書の遺言書よりもこないだ検認した遺言書の方が後に作られた遺言書だったから、清志さんとしては、無効でないと困るのだろうね。」
「あとの二つは?」
「二番目のは、武雄さんを相続人から外す、ってこと。遺言書を偽造したら、相続人の資格を失うってルールがあるから、それを主張してる。」
「三番目は?訴訟費用を負担、つまり、払え、ってことみたいだけど。弁護士の報酬とかって、お高いんでしょ?」
「そういうことなんだけど、この訴訟費用っていうのは弁護士の報酬とかは含まないらしくて、金額はそんなに大きくならないんだって。」
ふーん、そういうものなのか。
「分かったような、分からないような。まあ、それはいいとして、これをどうしたらいいの?」
「いや、何もしない。」
「へ?」
ここまで長々説明して、結論は何もしないってどういうことよ?
「印刷されてるそのままで大丈夫ってこと。」
「なるほど。」
「あはは、ちゃんと説明するね。答弁書のさっきのところを見てみてよ。」
言われたとおり、もう一度見てみる。
「1『請求の趣旨』に対する答弁
『原告の請求を棄却する』との判決を求める」
と書いてある。
「ここのところは、要するに、原告が訴えてきたことについて争うのか、最初から全面的に認めて降伏するのかを書くところなんだよ。降伏なら、そもそも答弁書を出す必要がないから、争う場合の内容が印刷されてるわけだね。」
「おおー、そういうことだったのか。って、私、清志さんと争うの?」
「争う、っていっても形式的なことだよ。降伏しないってことは、イコール、争う、ってことになるんだ。何も本気で戦わなくちゃいけないわけじゃないし、後で話し合って和解することもできる。少なくとも不利にはならないはず。事情が分からない現時点では、とりあえずこういう対応にしておくのがいいんじゃないかな。」
うーん、武雄さんと清志さんのどちらが正しいのかよく分からない以上、どっちの味方をするってわけにもいかないような気がする。
なんだかよく分からないまま降伏ってのもなんだか変だし、工藤君の言う通りだと思う。
「分かった。そうする。」
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