第5話 人形

 電信柱の後ろに転がっていた人形と目が合った。ボロボロの日本人形だった。赤い着物の人形はじっと私を見ている。私は視線を逸らして歩き出す。曲がり角の向こうの道路の真ん中にまた人形が転がっていた。近づいてみる。人形の首が勝手に動いて私を見る。私はじっと人形を見る。人形のガラスの目と視線が合う。


「捨てられたの?」


 人形は答えない。


「貴女を家には返せれないし、貴女ももう捨てられたから家に帰れない。うちにくれば、せめて上に上がるお手伝いは出来るよ?」


 人形のそばに座り、問いかける。人形は動かない。夕日が傾いていく。影が伸びる。


「つかれた」


 小さく吐き出した人形の言葉を聞いて。私は人形を抱き上げた。少し休んだら、元の持ち主の所に帰ったらいい。今は休もう。自慢だった着物も黒髪もボロボロになるくらいいっぱい探したんだよね。

 私は愛おしげにその髪の毛を撫でた。人形を抱えて家路を急ぐ。帰ったら父さんに人形供養を頼もう。この子が休めるように。 

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