17-1話、異性間の友情が成立する確率を求めよ①

「明日の休みだけど、二人でどこか行かないか?」

もう夕方になるというのに、朝の暴走車以外の因果が発生していない現状があまりにも不気味だった。


明日は土曜で学校もないため、いつものように果彌と自然と会う方法はない。

もしこのまま今日は何も起きず、土日を挟んでしまえばどこまで因果が溜まってしまうかは考えたくはなかった。


二人でと言ったのも他の人を巻き込むわけにも行かないからという理由もあった。


「行く!!!

行く行く!!」

判断が早い。

どこかの天狗面をした師匠もびっくりの即答である。


「返事早いな」

思わず少し引いてしまうほどの食いつきぶりである。


「当たり前だよ!

しゅうくんから誘ってくれたの初めてじゃん!

そんなの行くに決まってるじゃん!

断るとかありえんし!」


「そうだっけ?」

記憶にはないが、自分から休みの日に外出を誘ったことはないらしい。

果彌がいうからには本当なのだろうが、全然記憶になかった。

たしかに、言われてみればこんな状況でもなければ誘うことはなかったかもしれない。


「中学の頃に勉強するからって図書館誘ったことあるような気がするけど……」

「それは勉強目的であって、遊びじゃないから別!」


「そうか、別なのか」

基準はわからないが、どうやら別らしい。


「そうだよ。

いつも誘うのは私からだし、こっちはいつでもばっちこいなのに!」


「なんかごめん。

土日まで俺のことに気を遣わせたくないし、やることもあるだろうから邪魔したくなかったからさ」

因果含め、色んな意味で邪魔にしかならない現実である。


「はぁー、しゅうくんはわかってないよ……。

しゅうくんに誘われて邪魔に思うわけないってことを全然理解できてない!

むしろ、もっと誘え!」

フンスと、鼻息荒くこちらを指差して大袈裟なジェスチャーをする。



「そうだな。

俺たちの仲だもんな」

親友同士に遠慮は無用か。

いつも果彌には教えられてばかりだ。


「うん、私たちの仲だもんね。

うぇへへへ」

いつも思うけど、すごい笑い方をしている。

可愛いとは思うけど、とても特徴的でもある。


「どこか行きたいところはあるか?」

「一応あるけど、もししゅうくんが行ってみたいところがあれば優先するよ」

いつも優先してもらってるからねと、果彌は笑顔を浮かべる。

それならば、お言葉に甘えさせてもらおう。


「水族館に行ってみないか?

一度行ってみたかったんだ」

子供の頃からずっと行ってみたかった場所だった。

親には結果も出さないお前に使う時間はないと否定され、いつしか行きたかった理由も忘れてしまった。


「水族館いいね!

私も行きたい!」


「ありがとう、楽しみだな」

楽しみだな。

自然と笑みがこぼれる。


「あかん……ギャップ萌えキュンした」

突然変なことを言い出し、抱きついてくる果彌に面食らってしまう。


「急にどうした」

「あんな顔されたら胸キュン尊みMAXになってまうやんかー」

なぜ急に関西風の喋り方。

それに胸キュンとか尊みとかもたまに果彌が使っているがよくわからない。

自分も少しは現代の女子高生が使う単語を学ぶべきなのだろうか。


今度、有達にでも聞いてみてもいいかもしれない。


「しゅうくんのたまに見せる今みたいな笑顔めっちゃ好き!」

抱きついたまま輝くようにすら見える笑顔を見せる果彌の頭を優しく撫でる。


「俺も果彌の笑顔が好きだよ」

キミにはいつまでも笑っていてほしい。

それだけが俺の生きる理由だから。


瞬間、視界の端で何かの影が動くのを察知する。


「あ、ちょっとごめん」

抱きついている果彌を抱きしめ返し、その体を持ち上げるようにして一歩分後ろに下がれば、ペチャっという音とともに元いた場所には鳥のフンが落ちていた。


「ありがと。

でも、よく気付けたね」


「たまたまだよ」

普段から可能な限り視界を広く使えるように常に点ではなく、目線を動かすことなく全体を見て動線を考えるようにして動いている。

それが因果の予兆、その察知に繋げることができている。


スポーツ選手がよく使う技術らしいが、なんとなくやっていたことが役に立てる技術だったのは運が良かったともいえる。


それにしても、最近はふとした時に感じることがある。

なんとなく死の因果も関係なく自分か果彌のどちらかの運が悪くなってきているように思えてならないのだ。

今の鳥のフンも些細なことではあるが予兆に思えてしまうのは少々気にしすぎているだけなのか。


「明日だけど、⚪︎△水族館に行ってみたいんだけどそこでもいい?」


「俺はそれで問題ないよ」

特にどこか特定の場所に行きたいというものはないため了承する。

むしろ、調べたりする手間が省けたとも言える。


「やった!

いつかデートスポットとしてそこ行ってみたかったんだよねー」

いつもよりうれしそうにはしゃいでいる姿を見てこちらも嬉しくなってしまう。


デートスポットか。

たしかに男女二人で出かけたらデートなのかと思う。


「なら、初デートだな」

だからこそかもしれない。

つい、果彌の陽気な雰囲気につられていつもなら言うことはなかったであろう言葉を漏らす。


「初デート……うん、初デート楽しみ!」

パァッと笑顔が咲き、果彌の機嫌がさらに良くなる。

本当に見ていて飽きない。

いつまでこの笑顔を一番そばで見ていることができるのだろうか。


上機嫌に鼻歌を歌い出すその姿に切なくなる自分もいるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る