3-2話、逃げ道なしのピ〇ゴラスイッチ②

『三つ、少女の不幸は貴方といると起こりやすくなります』

なんだそれは……。

これまでの話と矛盾したような取ってつけたようなルールの開示に眉を顰める。

それなら自分が距離を取ればいいだけでは……。


『ただし、貴方と少女が離れている時間が長いほど少女の因果は弱り、死ぬ確率が上昇します。

世界は因果の矛盾を嫌い、あの少女を排斥しようと死の因果を用意しますが、因果を共有する貴方だけがそれを覆す可能性を有しているためです』

思考を遮るように先回りされるが、随分と底意地の悪いルールを考えるものである。


防がなければ花瓶が頭部に当たって死んでいたと言っていたように、先ほどの不自然な落ちたノートの跳ね方などもその因果とやらが促した結果であることは間違いないのだろう。

突発的な死のピタゴラスイッチとかシャレにならなすぎる。

アレも俺だからこそ防げたのだということだろう。


『貴方にも分かりやすく表現するのであれば、ファイナルディスティネーションという映画の生き残った人の状態だと思ってください』

世界なのか、神様なのかはわからないがあの映画知ってるのかよ。


『適切な表現を貴方の知識から抜き出しました』

口に出さずとも、当然のように思考は筒抜けのようだ。


しかし、表現は的確でしかなく、たまたま落としたノートの角がナースコールの角に当たって飛び跳ねて花瓶の方に向かい、当たった花瓶はノートが飛んできた方向に倒れ、しかもピンポイントにあいつの頭に当たっていたなんて宝くじが当たるより希少な確率だろう。


あの映画でも些細な切欠が死へと繋がっていたように今後はわずかな兆候から危機を察しなければ即座にゲームオーバーになるというわけだ。


それが嘘ではないことは目の前の時が止まった空間こそが全てを証明している。

神だか、世界の意志だかよくわからない存在と会話をしている時点で信じるしか選択肢はなく、今後もそんなあり得ない事象が重なっていくのは確定しているのだろう。


「マジでクソゲーじゃねぇか……」


『以上が現時点で開示可能な情報となります。

貴方の健闘を楽しみにしております』

最後の最後でさらっと楽しみにしていますと言っている時点であの意思にとって娯楽でしかないのだと確信する。

上位次元の存在にとって、自分などゲームキャラクター程度に過ぎないのだと思うと胸糞が悪くなる気分であった。


完全に声の存在がいなくなると同時に世界が再び動き出し、蘇ってくる強烈な痛みに顔をしかめてしまう。

物理的な時間が止まっていたとしても、意識は継続していたからこそ、思わず痛みを忘れてしまっていたところに再び痛覚が戻ってくるのは嫌がらせ以外の何物でもないだろう。


それよりも、今はこの状況をどう誤魔化すべきか。

視線を下に向ければ、そこには突然抱き寄せられたことで顔を真っ赤にして俺を見上げる果彌がいる。


「悪いな。お前が可愛すぎてつい抱き寄せちまったわ」

復活した痛みを我慢して、脳裏に浮かんだ適当なことを言って誤魔化す。

普段こんなことをいうキャラではないため、違和感はすさまじいだろうが、多分何かの映画か漫画辺りの影響であろう。

とっさにこんな言葉しか出てこない時点で対人経験の乏しさが表れているといえる。


それにしても痛い。

因果がなんだろうと、所詮はただの人間でしかないのだ。

このような状況でなければ、さっさと気を失ってしまいたいところであったが、彼女がいる手前そうはいかない。

ただの意地と見栄でしかないが、気を失わない自分を褒めてあげたい程である。


じわりと傷口から血が滲んだ感覚。

多分これ……傷が少し開いたな。


ランナーズハイのような感覚だが、脳が痛みに慣れてきた気がする。

もうちょい気の利いたことでも言えたらいいのにな……と、考える余裕すら出てきたが、多分その余裕も気のせいだろう。


気を付けなくてはいけないのは、なぜ今このような状況になってしまっているかがバレてしまうことだ。

激痛に苛まれていることを知られて、さらにそれが花瓶が頭に当たりそうだったから庇ったからなどと言えばまた泣き出すのが簡単に予想できるので我慢の一択である。


「んな……うん」

何も言わずに胸に顔を埋めてくるのは表情を見られたくないからなのだろうが、怪我人ってことを忘れんでくれ。

そこめっちゃ痛い。

抱きつく前にモルヒネが打ってくれ。


まあでも、この痛みも生きてる証拠かと、大切な少女が与えてくれる痛みを受け入れておこう。


ちなみに、そのあと医者にめちゃくちゃ怒られた。

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