18

「私はきちんと歳をとっていきたい。永遠に十六歳にならないなんて可哀想だよ。十六歳になれば、もっと楽しいことはいっぱいあるのに」

「その代わり辛いことや悲しいこともたくさんあるかもしれないよ」

 そうかもしれない。でもそれでも歳をとることができないなんて可哀想だと思う。

「私の絵が完成したら、私も十六歳のままで永遠に歳を取らなくなる」

「そうだね。そうなると思う」秋は言う。

 でも、その絵の中には私のすべてがある。

「ねえ、ちょっとくらいはこっちも見てよ」

 秋の声が急にとても近くで聞こえた。(びっくりした)秋はいつの間にか、足音を立てないようにして私のすぐ後ろまで歩いてきたようだった。秋の声は耳元で聞こえた。ずっと『森秋』を見ていた顔を動かすと、すぐそこには不満そうな秋の顔があった。

 秋はそっと両手を私の腰のあたりに回すようにして(私のお腹のところで)組むと、私の背中にその体を甘えるようにぴったりとくっつけた。

「秋。急にどうしたの?」

「嫉妬してるの。絵の中の私にばかり夢中になるから。ここにいる私もちゃんと見てよ。そうしないと、もうご飯作ってあげないよ」と口を尖らせて秋は言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る