第6話 がらくたの中から
月宮殿へ戻ると、慧臣はすぐにがらくたの中から使えそうなものを探した。
(あれだ。多分、俺の目に見えているのが、本物なら————)
初めてこの月宮殿に入った時、乱雑に置かれていた収集品の中に、いくつか奇妙な輝きを放っているものを見てる。
それが一体なんだったのか、あの時は全くわからなかったが、それこそが不思議な力を宿しているものなのだと考えた。
令月が持っている幽霊探知達磨や清風扇子のような、使い物にならなそうな物とは違うだろうと……
乱雑に胃置かれていた収集品には、その多くが名前と使い方が書かれた説明書がついている。
だからこそ、どこに何をおいたのか慧臣はしっかり記憶できていた。
(良いものは、光を当てたわけでもないのに、なぜか輝いて見えた。気のせいかとも思っていたけど、きっと、それが本当に使えるものだって証拠だ……と、思う)
確実ではないが、見えない令月が選んだものよりはいいとその効果を信じ、いくつか懐にそれらを入れると、出入り口の前で退屈そうにしていた令月のところへ急いで駆け寄る。
「すみません、お待たせしました」
「まったく、一体何をしていたんだ? 早くしないと、昼の門番が帰ってしまうじゃないか」
後宮は基本的に、王と宦官以外の男の立ち入りは禁止されているため、中に入るには許可証が必要だ。
門番は朝、昼、晩の三交代制。
昼の門番は話がわかる宦官で簡単に中に入れてくれるが、晩の門番は相手が王弟だろうが関係なく、決して正式な手続きを踏んでいない男は誰一人として通さない融通がきかない人物らしい。
「あいつは頭が硬いからな。後宮の女人はみんな兄上のものであることくらいわかっている。私は兄上のものに手をつけるような不届きものではないし、そもそも女官に興味がないと何度言っているんだが……」
「ああ、それは多分、令月様にその気は無くとも、女官の方が寄ってくる可能性があるからではありませんか?」
「……それはあるかも知れんが————そうだとしても、そのようなふしだらな女人は好かん。そもそも、この私より美しい女人はこの国にはいないからな」
「そ、そうですね」
(ああ、この人、自分が一番好きなんだな。まぁ、この顔に生まれているなら仕方がないか……)
「そんな話より、早く行くぞ。慧臣」
「は、はい!!」
西陽を背に、二人は後宮へ急ぐ。
脚が長く歩くのが速い令月について行くのに、慧臣は必死だった。
*
「————あ、あれ……?」
再び後宮の事故物件・愛桜堂の中へ、恐る恐る入ってみると、先ほど見えた幽霊がどこにもいなくて、慧臣は首をかしげる。
沈みかけている夕陽に染まったその部屋は、より一層薄暗くなっているせいかも知れないと、慧臣は後宮の入り口で融通のきく方の門番から借りた手持ち提灯に明かりを灯す。
「どうした? いないのか?」
「はい。声も聞こえな……————」
令月の方を向くと、その背後に例の幽霊が立っていて、慧臣は腰を抜かしそうになった。
(あああ!! もう、びっくりした!!!)
「う、後ろ……令月様の後ろにいます」
「何? 本当か!?」
令月は嬉しそうに後ろを向いたが、やはりその目で幽霊を捉えることはできないらしい。
「……テ……タス…………ケテ」
慧臣は怖いのをぐっと我慢して、その女の首周りを確認する。
「やっぱり、首にはなんの痕も残っていません。口から血を流しているだけで……————ずっと、助けを求めています」
口から血を流し、髪は乱れ……
瞳の色は白く混濁しているようで、生きている人間とは明らかに違う。
足はあるが、足先の方はうっすらと透明になっている。
女の霊は令月の方を見つめていたが、令月には自分の姿が見えていないと悟ったのか、急に体は一切動かさず、顔だけ慧臣の方を向いた。
「ひっ!!」
生きている人間にはできないような速さと角度が恐ろしくて、慧臣は思わず短く悲鳴をあげてしまう。
「タスケテ……タスケテ…………タス……ケ……テ」
「なんだ!? どうした、慧臣!?」
何か進展があったのかと、嬉しそうに聞いてくる令月。
(くそぅ……見えないからって————……ん?)
慧臣は怒りを通り越して呆れていると、その女の幽霊がずっととある場所を指差していることに気が付いた。
その先にあるのは、桜の木が描かれた襖。
恐る恐る開けると、押入れになっていて古い布団が積み重なっている。
提灯の光を近づけてよく見ると、キラリと何かが光った。
「なんだ? 押入れに何かあるのか?」
「今、何か光りました……」
(なんだ……?)
何かが布団と布団の間に挟まっている。
恐る恐る手を突っ込んで引っ張りだす。
「
出てきたのは、先の方が黒く変色した銀製の簪。
令月はそれを見て、笑顔を消した。
「————どうしてこれが……こんなところに?」
「え、この簪、なんなんですか? 令月様」
「これは父上が————……先王の手つきになった証の簪だ」
その簪は、先王が気に入った女人にだけ贈っていた金魚の形を模した特別な簪。
銀細工職人に特別に作らせたもので、それを持っているだけで王の手つきの証となるもの。
「父上が次々と側室を増やしたせいで、一時期だが虚偽の申告が相次ぐことがあった。そこで、持っていれば本物である証拠になるように作らせたものだ」
「そんなことが……?」
「————慧臣、幽霊はこれを見つけろと言っていたのか?」
「い、いえ。ただ、ずっとここを指をさしていたので……」
慧臣が幽霊の方を見ると、やはり彼女はその簪を指差していた。
そして————
「ミンナ、殺サレル…………タスケテ…………」
そう言った。
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