第15話 その罪名ってなんて言うの?
『そんな訳ないでしょう? れっきとした男ですよ』
腰に手を当てながら、ヘンリーが呆れたように深いため息をつく。流石にこれは愚問だと思ったのか、イワン団長も素直に「すまん」と一言謝罪した。
だが、イワン団長がそう疑ったのもわかる。なんせヘンリーは女の子に見えるくらい可愛い顔をしている。しかし、喉元には喉仏がはっきりと出ているし、華奢ではあるが骨格もしっかりしているから、彼は間違いなく男だ。
そんな彼より男に見られる私。正直、泣いてもよかったと思う。
だが、ひっそりと肩を落とす私の横で、私はこの国のとんでもない法を知ることとなった。
『そもそも男尊女卑なこの国で女が性別を偽るのは死罪じゃないですか。いくらなんでも、そんな馬鹿なことする人なんていないでしょ』
『そうなの!?』
思わず声が出たくらいの衝撃だった。だがイワン団長も「それもそうだ」と納得したように頷いていた。そんな馬鹿なことをこれからやろうとしている輩が隣にいることなんて疑いもせずに。
いつの間にか「女だとバレたら死刑」みたいになっており、私はひとり頭を抱えた。だが、私の心境などこれっぽっちも知らないヘンリーには「な?」と肩を叩かれた。もうどうにでもなればいい。そう思わせてくれたのは、まさしくこのタイミングだった。
そんな行き先が不安になる展開になる中、イワン団長は自分のあごに手を当てながら、値踏みするように私たちのことを見ていた。
『しかし、騎士志望は言っていたが……そんななよなよした体で大丈夫か?』
どうやら私たちのことを心配しているみたいだ。しかし、私にとってはこっちのほうが愚問だった。
『ご安心を……腕っぷしなら自信がありますので』
にやりとしながら、イワン団長の目をしかと見つめると、その不敵な表情が逆に気に入られたのか、イワン団長は「ほう」と笑った。
『ついてこい。会場に案内してやる』
そう言って、イワン団長は騎士の試験会場まで私たちを連れて行ってくれた。そのあからさまに変わった態度に私もヘンリーもキョトンとしたが、思えばこの時から私たちはイワン団長に気に入られていたのかもしれない。
──このように転移から七転八倒があった流れで私は騎士の試験を受け、見事合格した。
幸いこれまでも女性だと気づかれることなく騎士の仕事をまっとうできているが、あの時下手なことを言って女性だとバレていたらと思うとゾッとする。
「それにしても、あの時のセナってば凄かったよね。襲ってくる相手をばったばったと切り捨ててさ。あの時は圧巻だったなー」
ヘンリーがしみじみと言う。私からしてみれば「私が強い」というよりかは「相手が弱い」という認識だった。おそらく「城内勤務」という優遇さに惹かれてきたのだろう。どいつもこいつも体ばかり大きくて、ただ力任せに剣を振り回しているだけ。
これでも日本で一番剣道が強い女子高生だったのだ。「
ちなみに試験は総当たり戦でもなく、トーナメント戦でもなく、まさかの乱戦だった。
しかも私が一番体が小さかったので、ヘンリーを除いた参加者全員に狙われた。その結果、襲ってきた全員を返り討ちにできたという訳だ。あれが木でできた剣でなかったら血祭りだっただろう。本当、実戦でなくてよかったと思う。
おそらくだが、その時の大暴れ具合が悪目立ちしてしまい、部屋に引きこもっているセレニア様にまで私のことが知れてしまったのだろう。これは今後の反省点でもある。
「でも、私からしてみればヘンリーも凄かったと思うけど」
「そう?」
ヘンリー本人は惚けているが、受験者六人とはいえあの乱戦で勝ち残ったヘンリーも十分実力がある。その強さはちゃんとイワン団長たちもわかっていた。だから彼も一緒に騎士試験に合格できたのだ。なお、その時の合格者は私らふたりだけだ。
「試験で思い出したんだけどさ。最近、イワン団長に変なこと聞かれなかった?」
不意な問いに、私の息がとまった。多分、ヘンリーが言っているのは昨日イワン団長に聞かれたあの問いだ。
「──先日の侵入者が、その試験の受験者だったんじゃないか……って?」
おそるおそるイワン団長に聞かれたことを尋ね返すと、ヘンリーは「そうそう」と頷いた。
「袋で顔を隠していたし、俺も無我夢中だったから全然覚えてないんだけどさー。セナはなんて答えたの?」
「……『存じ上げません』って言ったよ」
「だよなー。でも、イワン団長はあいつらの顔に覚えがあるんだって」
と、ヘンリーは腕を組んで唸る。
なるほど。だからイワン団長はあの場にいた私にも聞いた訳か。
『知らないのならいいのだ。変なことを聞いて悪かった。忘れてくれ』
イワン団長にはそう言われたが、忘れることなんてできなかった。
侵入者と騎士試験の受験者が同一人物……。これが本当なら、動機はなんなのだろう。仕事に支障をきたしそうだから勤務中はあまり考えないようにしていたが、ぶり返されるとやはり考えてしまう。
「なあ……このことについて、ヘンリーはどう思──」
そうヘンリーに話しかけようとしたところで、突然ヘンリーは「あ!」と大きな声をあげた。
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