第六十九話:追加戦士は虎の勇者

 「問おう、貴殿が噂の勇者殿か?」

 「おう、俺が勇者達の筆頭をさせて貰っているマッカ・サンハートだ!」


 野性的な緑の瞳をした黒髪褐色の虎獣人のお嬢さんを相手に、のどかな牧場で剣を交える事になった俺。


 レジスタンスと話が付いていると言うのは、決闘の予約受付が完了ってことか?


 俺達が新たに訪れたのは、雪山の麓にあるマーパオと言う街。


 何と言うか、地球で言うならネパールとモンゴルの要素が混ざった所だ。


 こんな自然豊かな地方の小都市でも、レジスタンスと星魔教団は対立していた。


 「どうした? 手加減なら無用だと言っただろう!」

 「こっちは、どうやって勝つか考えながら戦ってるんだよ!」

 「ならば良し、貴殿の知恵も力も勇気も出し尽くせ!」


 相手は二本のサーベルを氷で包んで、刃を強化しての打ち込み。


 こっちは、炎の刀で受けては返しの斬り合いとなる。


 仲間達は離れて見守っている。


 空は良い天気で、のんびり昼寝がしたくなる芝生の上。


 こんな牧歌的な場所で、どうして悪党以外と決闘せねばならんのだ。


 俺の剣技は悪を斬る為にあるんだと言うのに、勝負を挑んで来る分からず屋は尽きない。


 乙女ゲーム風の世界のはずなのに、俺が出会う乙女って武闘派ばっかじゃねえか!


 喧嘩して勝って仲間を増やすとか、バトルマンガの世界じゃないんだぞ本来は?


 「炎と打ち込みの威力が増した、素晴らしい!」

 「喧しい、熱血一刀流奥義フェニックスダイブ!」

 「ならば私も奥義だ、タイガーブリザード!」


 フェニックスと氷の虎がぶつかり合った結果、倒れていたのは相手の方だった。


 「これで話を聞いてくれるか、パイフー嬢?」

 「……ああ、貴殿なら我が身を任せられる♪」

 「……失礼、妻達の機嫌が悪くなるのでやはり自分で立ってくれ」

 「ふ、面白い男だ♪」


 俺は、一人だけいい笑顔で地面に寝転がっている白いロングジャケットに黒の乗馬ズボン姿のパイフー嬢に手を伸ばしかけて慌てて引っ込めた。


 「マッカ、そなたはまた女子にフラグを立ておって!」

 「マッカさんは私達の夫ですよ!」

 「いや、立ててないし嫁は増やさないよ」


 俺はクラウとアデーレの所へ行き彼女達を宥める。


 「マッカ様、ご無事ですか!」

 「マッカ殿に近づく女子の気配が!」

 「家の夫は渡さないわよ!」

 「久しぶりに来れた~♪」

 「うお、嫁達が来た!」


 フローラ、アオイ、レオン、アップルと嫁レンジャーの六人がテレポートで現れて勢ぞろいした。


 「ほう、奥方殿達か英雄色を好むとは言ったものだ♪」


 パイフー嬢は堂々としていた。


 「あれ、あの虎獣人の子ってもしかして勇者?」


 アップルがパイフー嬢から感じ取る。


 「そうか、聖獣の気配か!」


 俺も気付く、彼女は俺達と同じく聖獣の勇者か?


 「いかにも、聖獣武装♪」


 パイフー嬢がサーベルを胸の前で交差させると、彼女は光に包まれた。


 光が消えると、白い虎を模した装甲を纏った勇者が立っていた。


 「白虎の勇者、ベラトリクス!」


 新たな勇者、ベラトリクスが虎のような拳法の構えを取る。


 「いや、どういうことだよ!」


 まさかの追加戦士だよ、しかもホワイト。


 俺も仲間達も唖然としていた。


 いや、まさかこの国にもいてもおかしくなかったんだよな。


 ガラムでは神獣や聖獣はロボになってたし、全く調べてなかった。


 「これは、民間伝承研究部としては恥ずかしい限りだは」


 レオンが珍しく反省する。


 「女神の作り給えた地である以上、聖獣や神獣はいるはずでしたものね」


 フローラも感心する。


 「まさか、行けなかった地にも仲間がいたとは不覚でござる」


 アオイに同感だ、俺も前世の仲間を探す事しか考えてなかったもん。


 「知らない聖獣の勇者です、もしや月の女神が生み出された物では?」


 クラウが驚きつつ尋ねればベラトリクスが頷く。


 「ほうほう、興味深いのう? じゃが、マッカは渡さんぞ?」


 アデーレも興味を覚えたようだ。


 「私も、出会うまではいつか出会える仲間がいるとしか聞かされていなかった」

 「そうか、戸惑っているがこれから宜しく頼む♪」

 「ああ、貴殿の妻としても迎えてくれるとありがたい♪」

 「妻うんぬんは、置いておく」


 俺は仲間ならと握手を申し出て受け入れられた、だが妻発言はスルーさせてくれ。


 「あ、あの? 皆さんのお話はまとまったんでしょうか?」


 ミンミンさんが、おどおどと俺達の所へと近づいてくる。


 この人、危機感知力とか優れてるな。


 「ああ、夫を紹介してくれてありがとうミンミン♪」

 「ちょっと、それは止めるわよ?」


 俺を夫と言うベラトリクスにレオンがつっかかる。


 「夫を守ろうとする貴殿は素晴らしい、私も貴殿らにマッカ殿の妻に相応しいと証明して見せよう♪」

 「良い根性してるわね、あなた?」

 「いや、俺は勘弁してくれと言ってるんだが?」


 パイフー嬢には、前世でも今世でも責任を取るまでの縁はないぞ?


 「マッカ殿、七人目の妻候補としても宜しく頼む♪」

 「いや、一歩も引かないなあんた!」

 「当然だ貴殿こそ我が初恋、諦める気は毛頭ない♪」

 「もしかして、さっき負けてたら婿に貰うとか言う気だったか?」

 「良くわかったな、流石は我が伴侶に相応しい男子だ♪」


 パイフー嬢は豪快に笑う、笑顔だけは良い笑顔だな。


 何と言うか、新たな厄介ごとを引き当ててしまった気がする。


 その後クレインとバッシュも呼び、パイフー嬢を紹介する。


 「あ、マッカさんはこれは逃げられませんね♪」


 バッシュはアハハと笑う。


 「マッカ? お前へのパイフー嬢の好感度がドンドン上がてるぞ?」

 「聞きたくなかったよ、そんな情報」


 クレインはギャルゲーの親友キャラか?


 「うむ、クレイン殿達かお二人は仲間として宜しく頼む♪」


 パイフー嬢は正直だった。


 翌日、俺はフローラとレオンを伴いパイフー嬢の家に招かれていた。


 「そう言えば、パイフー嬢はまさかガラム帝国の関係者か?」

 「うむ、ガラムの皇帝とは従兄妹同士だ♪」

 「どうりで、あの皇帝と似た目付きだと思いましたわ!」

 「不味いわよフローラ、家格的に釣り合っちゃう!」


 居間で円卓を囲みバター茶でもてなされつつの会話。


 なるほど、家柄を含めて勇者に選ばれたタイプか。


 「貴殿らのように私にも巨人がある、雪山に隠しているので見て欲しい」

 「え、どんな機体なんだ?」


 ロボ好きとしては引かれる。


 「行けませんわ、マッカ様をロボで釣る気です!」

 「マッカの趣味から攻め落て行くとはやるわね」

 「貴殿らとの会話で、調べさせてもらった♪」

 「くそ、ロボの誘惑には勝てそうにない」


 ロボットを見に来てくれと言われたら、行かざるを得ない。


 新しい仲間の戦力を知ると言う大義名分もあり、俺達は雪山へと向かった。


 アデーレも加えて五人でロボに乗り空を飛んで雪山へ。


 「俺達のロボで入れる洞窟かよ?」

 「本当、世の中広いわね」

 「興味深いのじゃ♪」

 「清らかな魔力で満ちておりますわ」

 「良い所だろう、私の修行場でもあるんだ♪」


 俺の機体の掌にパイフー嬢を乗せて氷の壁の洞窟内を進む。


 辿り着いた洞窟の先でパイフー嬢を降ろす。


 俺達の目の前には、仏像のように足を組んで鎮座する白い虎人間型ロボがあった。


 「これは、ガドゥンガンの同型機か?」


 ガラム帝国で対決した虎人間ロボと似ていた。


 目の前のロボの方が女性的フォルムだった。


 「ガラムと鍋の国の技術を混ぜた機体、白虎王びゃっこおうだ♪」


 パイフー嬢がこちらに笑顔で紹介する。


 俺はフラメスナイトから降りて白虎王に礼をする。


 「初めましてだな、俺はマッカ。 宜しく頼むぜ白虎王♪」

 『ああ、我が名は白虎王。 貴様が我が王に相応しいか力を見せよ』

 

 俺が名乗ると、白虎王が語りかけてくる。


 ロボもパイロットも似た者同士かお前ら!

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