第二部 砂漠の国と星の魔神編 第二章:鍋の国と星魔教団編

第六十五話:中鍋からの誘い

 ガラム帝国での騒動を片付けた俺達。


 「あれからガラムとの交流も増えて来たわね♪」


 ミズホにある基地の会議室で、レオンが俺に語りかける。


 「現在は、王国との間の砂漠に中継都市を建設中ですわ♪」


 フローラがガラム帝国で買て来たお茶を入れて回る。


 「都市が出来たら遊びに訪れてみたいでござる♪」


 アオイは呑気だ。


 「まあ何にせよ、星魔関連の事件の調査とかをしないとな」


 俺は分厚い紙束を眺めながら呟く。


 ガラム帝国の一件にかかりきりだったので、他の国の状態とか把握してない。


 「更には星の魔神ってのも気になるな」


 クレインが資料を纏めながら述べる。


 「花鬼さんチームの資料、の国って美味しそうな所が臭いますね」


 バッシュも紙束を見ながら呟く。


 シンベエ君が文官スキル高いので資料が良く纏まってる。


 「鍋王朝かおうちょう、俺らで言う中華な所らしいな」


 それだけで何やら陰謀の臭いがする。


 「邪神倒すまでガラムと同様、何故か異世界化してたのよね?」


 レオンが苦い顔をする。


 ガラムと同様に魔王戦争の時に力を借りれあたらである。


 「ハレール様曰く、異界の神の力が働いたと」


 クラウが女神様からの話を伝える。


 俺達の上の次元では、神様同士の縄張り争いとか起きてそうだな。


 勇者だマイナーゴッド見習いだとは言え、俺達はまだまだ下っ端なんだよな。


 現場で起きた事に対応するって言うのは、まあ昔から。


 本当に自分は経営や管理の側には向いていない、現場人間だ。


 数日後。


 噂をすれば影とやらで、鍋の国からの使節がミズホに来ると言う情報がこちらにも入って来た。


 「聞いたでおじゃるよ♪ また大暴れしたと♪」

 「いや、左大臣様が直接来られるとは思いませんでしたよ!」

 「何を申す、麿は依頼人であるぞ♪」


 ヤバい公家、カラスミ卿を出迎えて応接室で話を聞く。


 普通ならこっちがもてなさないと行けないのに、カラスミ卿の方から菓子だなんだと俺達に土産物をたんまりとくれた。


 「小童が気遣いなぞ無用じゃ、都の銘菓でも食いながら聞け♪」

 「ありがとうございます」


 カラスミ卿自身がお茶を淹れてくれる、所作が達人ってヤバイ。


 「まあ、そなたら戦隊を先方の警護将軍が御指名でな」

 「あ、もしやタンメン将軍と言う方では?」

 「うむ、虎のような面白き漢よ」

 「それでは、お受けさせていただきます」

 「うむ、では宜しく頼むぞ♪」


 カラスミ卿からの依頼と言う形で、俺達は軽い支度で都へと向かった。


 使節団が来訪する日は天気も良く、都も賑わっていた。


 都の宮城前に勇者の証のケープとサーコートの正装で整列する。


 ミズホ側の警護役として、周囲に不審な気配がないかなど仕事も忘れない。


 鳥達に空を見張らせると、一話の鴉が使節団の到来を告げに来た。


 白い中華鎧を纏ったタン将軍が率いる、地球で言うキョンシー衣装の集団。


 役人衣装である、黒い上着に黒い帽子を被った使節団のドラゴン人間達。


 獣人の派生で龍人族と言うそうだ。


 カラスミ卿と使節の代表が挨拶を交わせば、俺達皆で城の中へと入る。


 お偉い方々が集まる中。黙って侍り話が終わるのを待つ。


 やり取りを見てると貢物の献上とか、時代劇の世界だ。


 面会が終わればお見送りで終わり、そう思っていたのが甘かった。


 「ではマッカ殿、世界を救った剣の腕前見せて貰おうか♪」


 タン将軍が嬉しそうに刃引いた大剣を構える。


 宮城内の蹴鞠とかする砂利敷きの庭。


 俺は公王様のリクエストだと言う事で、タン将軍と生身で打ち合う事となった。


 あんたとはロボで散々、殴り合ったでしょうが! 


 こちらも刃引きの刀を、頭の横で刃先を寝かせる上段霞に構える。


 「いやっ!」

 「せいっ!」


 大剣、グレートソードの方が間合いが長くて面倒くさい。


 横薙ぎの一閃を受けた勢いで飛ぶ。


 こっちも打太刀でなく大太刀にすれば良かったという間も無く攻防が始まる。


 相手の大剣の上にジャンプして乗り、更にジャンプで間合いを詰めて背後を取る。


 「これにて一本!」


 背後を取ってからの胴切りを決める。


 拍手喝采で、勝負は終わった。


 「うむ、見事であったぞ♪」

 「素晴らしい、これが勇者の剣ですか♪」


 カラスミ卿も使者の龍人間も喜んでいる、勘弁してくれよ。


 「いやあ、やはりマッカ殿は楽しい御仁ですなあ♪」

 「こちらは肝が冷えましたよ」


 無茶振りで人と剣を交えるとか御免だよ。


 俺の剣は、世の為人の為の化け物退治に振るうべきもんなんだから。


 世界の為に必死になって勝った事が、面倒を呼んでいる気がする。


 使者の人達を見送り、ひとまずの仕事は終わった。


 「ムッキ~~~~! 何なのよ、あの男~~~っ!」


 都の宿の一室で俺はレオンに抱き着かれつつ叫ばれていた。


 「あのタンと言う男、マッカ様に向ける熱い視線。 万死に値します!」


 フローラも全身から黒いオーラを出して憤慨していた。


 「我らが夫に色目を使うとは、鍋の国は戦が望みですか!」


 アオイもヒーローが言っちゃいけない台詞を吐き出している。


 「外交だから我慢しましたが、渡しません」

 「クラウに同意じゃ、我らが夫に手出しはさせぬ!」


 クラウもアデーレも怖い、愛の重力崩壊が起きそうであった。


 バッシュとクレインは逃げていた、夫婦喧嘩は犬も食わないとか言って。


 アップルのご機嫌も取らねば、鍋の国の農業事情が危ない。


 俺は世界の平和の為に、頑張って妻達のご機嫌を取ると言う仕事に励んだ。


 都から基地へと帰っても、妻達の視線は厳しかった。


 「デサキにある中鍋街の総督にタン将軍が就任か?」


 例によって、カラスミ卿からもたらされた手紙の内容が妻達が不機嫌になる鍋の国に関する事だったからだ。


 「まるでフラグのように、私達と鍋の国とつなげようとしてるわね?」


 レオンが眉を顰める。


 「女神様とは違う、何者かの強制力が働いている気がしますわ」


 フローラも訝しんでいた。


 会議室の空気が重くなる。


 「とはいえ、行かねばなるまいよのう?」

 「ええ、私達は世界の平和を守る勇者ですからね」


 アデーレとクラウは溜め息をつく。


 「クレインさん、これはもしかしなくても次の戦場は鍋の国ですね」

 「バッシュ、それがお約束と言う物だ」


 クレインとバッシュは、何処か目が死んでいた。


 「よし、今度は中華だ♪ 皆で満漢全席があれば食おう♪」


 俺は無理やり明るい話を切り出す。


 「そうね、私もチャイナドレスを着てマッカを誘惑したい♪」


 レオンも俺に乗っかる。


 「薬膳料理で体を整えるのも良いですね♪」


 フローラもポジティブになる。


 「相変わらずの笑う門には福来るの精神でござるな♪」


 アオイが笑いだした。


 「うむ、我らに暗い顔は似合わぬ♪」

 「明るく楽しく事件を解決しましょう♪」


 アデーレとクラウも、心のエンジンがかかり出した。


 「家のレッドは相変わらず、気合いと根性とノリで生きているな?」

 「まあ、前世の頃からですよ仕方ないです♪」


 クレインとバッシュも、やる気のスイッチを入れる。


 「じゃあ、デサキに行って話を聞いてから渡航して調査だな」


 誰の陰謀かは知らないが、動かないと話にならねえ。


 俺達は新たなステージ、鍋の国へと向かう決意を固めた。


 旅の支度をして久しぶりのデサキの街にやって来た俺達。


 中鍋街へはすんなり入れた。


 「うん、中華な街だな赤色の建物が目立つ」


 異国情緒あふれる街並み。


 日本なら神社でしか見ないような赤い柱の建物が並ぶ。


 ふかした饅頭を売る店や、ラーメンの香りのする店。


 仕事がらみでなければ観光したい。


 だが、事件が俺達を呼ぶのか俺達が事件を呼ぶのか?


 「い~や~じゃ~っ!」

 「お待ち下され~っ!」

 「姫様を捕えよ~っ!」

 「お仕置きですぞ~!」


 俺達の目の前には、兵士に追われる身なりの良い赤いドレスの少女。


 「そこの赤い髪の英傑よ、この哀れな娘をかくまっておくれ!」

 「だあ、やっぱりこの流れか!」


 ヒーローはプリンセスを助けるお約束でも働いているのでは?


 早速厄介ごとが飛び込んで来た。

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