第六十一話:インターバル、姫の覚醒

 何らかの魔術儀式が企まれている。


 歯がゆいが相手の掌の上に乗らねばならない。


 倒した相手もこちら側で回収したい所。


 敵が俺達をコストにしようと企んでるのはわかってる。


 とはいえ、祭典をぶち壊しとかしたら今後の国際関係がこじれる。


 郷に入れば郷に従えって言葉があるが、これから仲良くして行きたい相手に対して

下手は打てない。


 例えるなら外国のオリンピック選手が、開催国でテロ行為したら戦争勃発になる。


 平和の為の祭典を悪事に利用されてるとしても、下手にぶち壊したらあかんのよ。


 レオンから聞いたが、俺達が無事に来れたのもテイル皇妃の使者達をやり込めたからだそうだ。


 ゴールドバーグ王国へ先に手紙を出したのは、テイル皇妃の一派らしい。


 外交で互いに貸しだ借りだと駆け引きして繋いだ道。


 ガラム帝国の罪なき人々の命と暮らしが人質状態な今、下手に相手を殴れない。


 敵の陣地に正面から入り込んでの立ち回りなのだ。


 歯がゆいが、このストレスは決戦の爆発力の燃料に変える。


 世界を守る力は世界を滅ぼす力に容易く変わる。


 今はヒーローに先手無しの精神で耐えるしかなかった。


 「マッカよ、すまぬ」

 「願いの敵う鍋やテイル皇妃について、調べ切れませんでした」


 戻って来た控室にて、クラウとアデーレが俺に頭を下げた。


 敵の懐へ入り込むのは無理だったようだ。


 招かれた身としてホスト側に挨拶したいと温和にとりなしを頼むも拒否。


 テイル皇妃のガードは固く、大会終了後の宴会迄待てとの事らしい。


 アデーレ達のミッションは失敗。


 とはいえ、前世で幾度となく敵の基地への潜入調査ぶち壊しまくっていた俺には彼女達を咎める何てできない。


 「いや、二人が無事なら構わない帰って来てくれてありがとう♪」


 俺は本心を伝える、共に戦う仲間であると同時に妻である彼女達。


 彼女達の誰一人として失いたくない、愛に応えて愛を守りたい。


 敵の手に捕らわれて、無惨な目に遭わされなかっただけで十分だ。


 「レオン達もありがとう、事件が解決したら新婚旅行でガラムを楽しもう♪」


 俺は皆に微笑みかける、俺自身がまずは笑わねば。


 笑う門には福来る、マイナスの力を倒すには強大なプラスの力がいる。


 積極的に仲間達とプラスの力を生み出して行かねばならない。


 「でしたら、皆様に最高のガラム観光を提供させていただきますわ♪」


 俺の気持ちを察したのか、パティ姫が提案する。


 「まあ、素敵な提案ですわ♪」


 フローラが笑顔で手を叩いて喜ぶ。


 「ガラムの料理を満喫したいでござる♪」


 アオイは手を上げて希望を述べる。


 「私は、夜景が見たいわ♪」


 レオンは俺に絡みついて笑顔で自分お希望を言う。


 「妾は、魔神の工場を見たいのじゃ♪」


 アデーレも鼻息を荒くして叫ぶ。


 「私は、この国の神殿にお参りをしたいです」


 クラウは礼拝を希望。


 「よし、楽しい予定を立てて実行するべく頑張るぞ♪」


 俺が拳を握り着き上げると皆が同意して拳を突き上げた。


 ヒーローに盆暮れ正月はないと言うが、平和な休暇は欲しい。


 休暇は新たな事件の前振りとかあるが、今度は大丈夫なはず。


 海では鮫、山では悪の怪人と遊びに行くと出先で事件が起きて来た。


 いかん、俺が事件を思いかえすとこの世界でも再現されかねない。


 楽しい事を考えねば。


 「まずは、お休みになって次の試合に備えて下さいませ」

 「ああ、次は準決勝確実に歩を進めるぜ♪」


 虚空から黄金の林檎を取り出して喰らう。


 農耕神が作りし万能アイテム生命の林檎、これを食えばもう元気百倍だ。


 パティ姫が俺が林檎を食う様を見るので、もう一個取り出して手渡しで献上する。


 「ありがとうございます、いただきますわ」


 姫が林檎を食べる、彼女にも農耕神アップルの加護が得られるだろう。


 「パオ! 体中に光が満ちて力が沸いて来ましたわ♪」


 パティ姫が全身から光を放ち、額に第三の目を開眼させる。


 そして背後に金色に輝く象のオーラを出現させた。


 「ちょ、姫が覚醒したでござる!」


 アオイが驚いて腰を抜かした。


 「こ、これは何とすさまじい魔力ですの!」


 フローラは象のヴィジョンが発する魔力に驚愕する。


 「マッカ、そなたはまたやらかしおったな!」

 「いや、俺は林檎をあげただけだって!」


 アデーレが俺に詰め寄る。


 「プリンセス、お心とお体に異常はございませんか?」


 レオンは穏やかにパティ姫に尋ねる。


 「はい、マッカ様からいただいた林檎の力で神へと覚醒出来ました」


 両の瞳を閉じ、仏様みたいに座禅を組んで宙に浮かんだパティ姫。


 「マッカさん、あの林檎は神へと至らせるって忘れてましたね?」

 「ああ、だがこれはチャンスだろクラウ?」


 うっかりパティ姫を神に覚醒させてしまったが、これは戦力強化では?


 「マッカ様、感謝いたします。 私もこの力で皆様と戦えます」

 「試合と機体はもう少し俺に預けて下さい、その間に姫は神の力の習熟に」

 「はい、修行に励み神の力を使いこなして見せます♪」


 地面に降りて俺に礼をするパティ姫。


 額の第三の目が閉じて元に戻る姫。


 姫が自衛できる力を得たのは何よりだよ。


 俺達も勤めがある以上、何時までも彼女の護衛してるわけにはいかん。


 いつかは立ち去り帰らねばならんし、他の国にもいかないといけない。


 ガラム帝国を守るのは、ガラムの王族や民達の役目だ。


 さて、次はいよいよ準決勝だと俺は意気込む。


 同時に控室のドアが開かれて、豹の獣人の兵士が入って来た。


 「失礼いたします、準決勝の試合ですが三日後に延期となりました!」


 長い棒を持った、武道の稽古着みたいな服装の兵士が直立姿勢で叫ぶ。


 「それは、理由を聞いても良いのかな?」


 俺が兵士の目を見て問いかける、魔力とかからは悪人には見えない。


 「は、テイル皇妃の占いにより日取りが良いのは三日後だとの事です!」

 「決勝戦も同じ日かな?」


 俺の問いかけに兵が頷く、敵が本格的に動くまで残り三日か。


 兵士を帰らせると俺は仲間達とパティ姫を見やる。


 「三日後ね、縁起が良いのは皇妃にとってでしょうね?」


 レオンがため息交じりに呟く。


 「余裕ぶって私達に三日も与えた事を後悔させて見せましょう!」


 アオイが拳を握り気合を入れる。


 「では、その間に姫様のお稽古の相手は私が」

 「フローラ様、宜しくお願いいたします!」

 「厳しい稽古ですが、音を上げてはなりませんよ?」

 「はい、先生!」


 フローラとパティ姫の間に師弟関係が結ばれた。


 「ならば妾とクラウは機体の整備じゃの?」

 「ええ、ハチダイレンセイオーで悪の野望を砕きましょう」


 アデーレとクラウは俺達の本来のメカの整備。


 連絡を入れたら、バッシュとクレインは皇妃達の護衛の継続。


 役割分担と、どう合流するかなどを決める。


 「じゃあ、私はマッカと一緒に夜の街へデートに行きたい♪」

 「「駄目です!」」


 レオンの抜け駆けを防ごうと反対する嫁達。


 闘技場の近くの市場にある店を貸し切り皆で食事となった。


 「ここは鍋王朝風の店だな?」


 真紅の巨大円卓、高級中華料理店ですどう見てもと言う店内。


 料理も地球人から見たら中華料理のフルコースにしか見えない物ばかり。


 「さあマッカ、果糖水よ♪」

 「いや、毒が裏返るとかねえから!」


 レオンが俺に砂糖水を勧めて来るが、それは飲むならデザートだろ。


 「マッカ様、はい蟹ですわよ♪」


 フローラが蟹の載った皿を出して来る。


 「あ、それはいただきます♪」


 蟹は好きなのでもらう、そういやこっちに転生してから蟹は初めて食ったな。


 毒に侵されてもいないのに俺は仲間達と、薬膳料理のフルコースで英気を養った。


 店を出る時、入れ違いに強烈な気を放つ武人とすれ違った。


 「ほう、もしや貴殿はガランピックの選手かな?」

 「鍋の国からも選手が来てるとは思いもしませんでしたがね?」


 俺は中華の武将と言う風体の鎧姿の武人の男と語り合う。


 「我が名はタン、タン・タンメン。 準決勝でまた会おう勇者よ♪」


 タンと名乗った男は微笑み、俺と入れ違いで店内へ入って行く。


 これは準決勝も、一筋縄じゃ行かなそうだな。

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