第五十九話:思惑の交錯

 辛くも一回戦を勝った俺。


 「うっ! 何だこの感じ?」


 突然吐き気に襲われたので呼気を整える。


 モニター越しに倒した相手の機体から、何か黒いエネルギーが煙のように抜けて行ったのが見えた。


 気になる事は多いが、参加者は悪人ではない者もいるのが辛い。


 前世でも経験したが、ヒーローはヒーローと戦うもんじゃないんよやっぱり。


 運営の悪意を感じるぜ。


 勝ったからには、彼らの大切な人達も助けねば。


 ヒーローも勇者も任侠だ。


 弱きを助け強きを挫く。


 強き力で悪を為さんとする輩は許せない。


 試合が終われば、勝ったこっちは自力で格納庫まで移動。


 負けた相手はスタッフが小型のロボット数台で搬送して行く。


 街の見た目が古代インドっぽい国だけど、ロボ技術がアイゼン帝国よりも進んでいるように見えたのが驚きだった。


 魔王軍との戦いでガラム帝国の加勢が得られていたら、また違った戦いになったのかもしれない。


 その時は俺達は、今ほどパワーアップしてなかったかもしれないな。


 歴史のもしもは、考えるのは止めよう。


 下手に確かめようとすると時空警察軍に怒られる。


 格納庫から降りて控室に戻ると、仲間達に守られたパティ姫が落ち込んでいた。


 「もしかして、対戦相手と面識が?」

 「はい、猿の皇妃様の弟君で義理のおじにあたるヌマン様です」

 「……すまない、辛い思いをさせる事になる」

 「いえ、仕方のない事です! 悪いのは父上と狐の皇妃ですわ!」

 「勝ったら願いの一つは、捕らわれた皇妃全員の無事の開放と復権で良いかな?」

 「勿論です、マッカ様はお優しい人だったのですね♪」


 パティ姫が笑顔になる、クライアントにようやく好印象を持って貰えたよ。


 「ええ、彼は私達の強く優しい素敵な夫ですわ♪」

 「私達の心を掴んだお方でござる♪」

 「誰にでも優しいのが難点じゃ♪」

 「ええ、ホイホイ助けて女心を掴むのが困るのよ」

 「だからこそ他の女に取られないように団結しているのです」

 「いや、お前ら子供に変な事を吹き込むな!」


 嫁であり仲間である彼女達にツッコむ。


 「……うう、父上も昔はマッカ様のように強く優しいお方だったのに!」

 「ああ、姫の情緒を刺激するなよ!」


 再びパティ姫の笑顔が曇る、勘弁して欲しい。


 幼子の悲しむ顔を見るのは辛いぞ。


 しかしあの皇帝、何考えてるんだろう?


 操られている気配は見えない、皇妃達も殺していない。


 裏がありそうだが、俺は調べ物は向いていない。


 「マッカは試合に集中してね♪」


 レオンが俺の肩を叩いて微笑む。


 「きっと、皇帝陛下も何か事情がおありなのですわ」


 フローラがパティ姫をハグして宥める。


 「はい、父上を信じて見ますが優勝したら父上にもお仕置きをします!」


 うわ、何か姫の闘志が目覚めた?


 「そうだな、保護者には説教しないとな」


 俺も前世では子供の学校の先生からお小言を受けた。


 そんな身だからこそ言える。


 「何と言うか、あの皇帝殿は我らが夫と同じ匂いを感じるのう?」


 アデーレさん、勘弁して下さい。


 「はい、マッカ様は父上にそっくりですから心配です」

 「がふっ! 試合前に依頼人から心を抉られた!」


 幼子の無垢な言葉は、俺の心の防御力を無視してクリティカルヒットするから止めてくれ!


 「大丈夫ですよ、我が家は妻達が議会を結成して夫を管理してますから♪」

 「何ですのその制度、わが国にも採用すべきですわ♪」


 クラウ~! 子供に吹き込むな!


 パティ姫は目を輝かせないで!


 パティ姫は、俺達のぐだぐだな空気に染まらず清く可愛くいて欲しい。


 けど、ぐだぐだなやり取りが俺の心を癒してくれるのも事実なんだよな。


 「おや、そろそろ次の試合でござるよ♪」


 アオイが気楽に告げる。


 うん、ムードメーカー的な人材は大事だ。


 俺は試合の場に向かうと、相手は紫色の蛇人間の女性だった。


 パーマのかかった黒のカーリーヘアーで、茶色の革鎧を着て槍で武装してる。


 美人の類なんだろうが、海外の悪の怪人みたいで怖さしかない。


 「ヒャッハ~~♪ 我が名はガラジャ、テイル様こそ皇太后に相応し~♪」


 何か、目がグルグルしてるよあの蛇の人!


 あれは、洗脳とかされてるアカン奴だ!


 彼女の背後の下半身が蛇の紫色の女性型ロボも何かヤバい。


 色々気になるが、機体に乗り込み試合開始だ。


 双方、戦いの舞を奉げてから勝負。


 『リトラは辺境部族の機体、ガラジャは出世欲の強い狐の一派だ』

 「うわ、面倒な事情だな!」


 コーチであり相棒であるハッティから聞かされた話はうへえとなった。


 だが、こちらと似た立ち位置の善人を相手にするよりは気が楽になったよ。


 バックステップで相手の槍による突きを避けた時、空間が伸縮した気がした。


 今更気付いたが闘技場内は、俺達が動くと変形する仕組みのようだ。


 『客席は守られている、全力で戦え!』

 「了解、お返しだ!」


 ハッティヨーダ―の巨体にステップ踏ませつつ、間合いを詰めてジャブ。


 すると相手は上半身も蛇の如く捻り回避する。


 意外と伸縮性と柔軟性のあるタイプだった。


 双方、間合いを取っての飛び道具の打ち合いになる。


 相手は口からマスタード色の毒液弾の連射。


 こちらは象の鼻から火炎弾の連射で対抗。


 相殺されるも、飛び散った毒液がこちらの装甲に当たれば焦げ目を付ける。


 相手はこちらに語り掛けてくるタイプじゃないようで、攻めの手は緩まない。


 象牙っぽい刀の二刀流で、相手の槍や尻尾攻撃を耐え凌ぐ。


 「武器が刀とはありがてえ♪」

 『そなたが剣術が得意と知った、我が牙を存分に震え!』


 相手には悪いが、俺が刀を持てば鬼に金棒だ♪


 相手は、槍の穂先に毒液を吹き付けて燃やして振りかざして来る。


 「何の! 熱血二刀流、火炎竜巻っ!」


 こっちも刀に炎を灯して上段から振り下ろせば火災旋風が吹き荒れる!


 炎の竜巻は、相手の武器を腕ごと吹き飛ばした。


 「おっしゃ、これはヘビーウーンズに行ったか?」

 『まだだ、ガードしろ!』


 手ごたえは感じた俺、だがハッティは違うようだった。


 相手の傷口から、ナノマシンみたいに無数の蛇が出て来て腕を拾い繋げる。


 相手も再生持ちか、手間だな。


 すると今度は、人型から蛇型に変形して牙を剥き突撃してきた!


 俺は刀を十字に構えて振るい、相手の牙を斬り飛ばして噛みつきを無効化。


 そのまま機体をバク転させて、突っ込んで来た相手の勢いを受け流す。


 相手もまた人型と言うか蛇人間型に機体を戻して、仕切り直し。


 「こっちも変形して体当たりとかして見るか?」

 『出来なくはないが、微妙な戦術だ?』

 「了解、じゃあこのまま行くぜ♪」


 コックピット内でも象牙風の刀をそれぞれの手に握り構える。


 『我が牙も鼻も伸縮自在、思うように振るえ!』

 「わかった、試して見るぜ!」


 手に持った刀を繋げて、弓の様なツインブレード形態に変形させる。


 その上で八相に構えた所で、相手は攻め込む隙ができたと感じたのか再びの突進。


 「伸びろツインファングセイバー! 熱血一刀流、縦回転斬りだ!」


 俺が叫べば刀が伸びる!


 相手の機体がジャンプして、尻尾を槍の如く突き立て落ちて来る。


 こちらも跳躍、尻尾を切り下ろしてから刃を回して返す刀で逆袈裟に切り上げる!


 相手の機体が銅と下半身が斜めに物別れし所で着地し残心を決める。


 上空では、大爆発が起き破片が落下。


 なにやら巨大な球体が無傷で転がったが、コックピットだろう。


 『乗り手の安全は確保されておる、案ずるな』

 「良かった、うっかり相手のパイロットを殺してなくて」


 ほっと一息ついた所でまたうっと吐き気に襲われて、体から何かが抜けて行く。


 何かが出た後は、気分がすっきりするのはどういう理屈だ?


 ともかく、俺は二回戦もどうにか勝ち上がれたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る