第五十七話:揺るがぬ基礎

 砂漠でガラム帝国のパティ姫と出会った俺達。


 「お手紙でしたら、私自身が所持しておりますが?」

 「と言う事は、王国に手紙を出したと言うのは別口ですか?」


 彼女は使者は使者でも、依頼とは別口のようだった。


 第百八と言う事は、皇女だけでも相当な人数がいる。


 後継問題で揉めないわけがねえ。


 顔は合わせたが、さてどうするか?


 「これは、パティ殿下を王宮へご招待は不味い気がするな」

 「うっかり、他の派閥の使者と鉢合わせしたら不味いでござるよ」


 アオイも俺に同意する。


 「はいは~い、お困りの助っ人参上よ~♪」


 ものすごいスピードで此方に迫るのは、黄金の獅子キングネメア。


 その背に乗るのは、金色のドレスを纏った美少女レオン・サンハート。


 「こ、金色の獅子! もしやあの方が、ゴールドバーグ王家の方ですの?」


 パティ姫が驚く、俺も驚くよ。


 「初めまして、プリンセス♪ レオン・ゴールドバーグ・サンハートです♪」


 キングネメアから降りて、丁寧に挨拶をするレオン。


 「ああ、俺の妻の一人で元ゴールドバーグ王国の王子だ」

 「最愛の夫が勇み足でごめんなさいね、プリンセス♪」


 俺からもレオンをパティ姫に紹介する。


 俺が最初に国王陛下から依頼された使者の方は、片が付いたとレオンがアイコンタクトでこちらに伝える。


 「……あの! 情報が、母なるガラム川よりも氾濫しておりますわ!」


 パティ姫は混乱した。


 砂漠の真ん中でパラソル立て、テーブルをセットして急遽ティータイム。


 魔法で用意した紅茶とパンケーキで、パティ姫を正気に戻す。


 レオンは洗脳の魔法でも使ったのかと言わんばかりの手際で事を進め出す。


 流石は元英国貴族、舌で丸め込むのが上手い。


 「つまりレオン様は、権限を預かった王族の方ですのね?」

 「ええ、親書は私が預かって父に渡すわ♪」


 レオンが笑顔で俺達やパティ姫とお茶をしながら会話を進める。


 「で、姫を王国へ連れて行くのは止めた方が良いかな?」

 「うん、ちょっと面倒な事になりそうだから止めてね♪」


 俺の問いかけにレオンが答える。


 「では、私は一体どこへ向かえば?」


 パティ姫が不安げな顔をする。


 「ならば、ネッケツジャーの基地へご招待するのが安全ですわ!」


 フローラが鼻息を荒くする。


 母親歴がある彼女の目は真剣だった。


 前世の頃から我が子以外への子供にも愛情深い彼女。


 視線で俺にパティ姫を守れと訴えて来る。


 勿論だとこちらも視線で語る。


 「そうだな、ヒーローたるもの子供は守らないと」

 「……赤鬼、マッカ様は私をお守り下さるのですか?」

 「ああ、俺の事は怖がっても良いが君を守る存在だと認識して欲しい」


 身分の高い相手に言う台詞じゃねえが構わねえ、とにかく俺のハートを伝える。


 「大丈夫ですわ、この方こそ邪悪を絶ち人々を救う正義の鬼神♪」

 「そして、私達の最愛の夫でござる♪」


 フローラとアオイは、そのフォローはちょっと恥ずかしい。


 「はい、父上のようにお嫁さんが沢山いる方は苦手ですし怖いですけど」


 パティ姫の言葉が刺さる、その辺はすまねえが仰る通りです。


 「ですが、サフェードハッティが認めた方ですから信じます!」

 「ありがとうございます」


 改めて、俺達はそれぞれの機体に乗り込む。


 「じゃあ、親書の件はこっちに任せてね♪」


 レオンが俺に投げキッスをして、キングネメアと共に砂漠を走る。


 王国への報告などはレオンに任せる事にした。


 武辺者である俺に、筆仕事や交渉事は任せたらいかんと言う判断だ。


 砂漠の真ん中にゲートを開いて、巨大な白い象ロボを誘導。


 続いて俺達もゲートをくぐる。


 「帰って来たか、マッカ達よ♪ って、何じゃそれは~~~っ!」


 ゲートを越えた先。


 基地の格納庫前で出迎えてくれたアデーレが驚く。


 「ああ、これはガラム帝国の魔神と言われるロボで」


 俺がフラメスナイトから降りてアデーレに近づき語りかける。


 「……もしや、またどこかで女子でも助けたのか?」

 「助けたよ、あのロボを襲った賊や巨大な星魔から」

 「その女子は嫁にする気かえ?」

 「しねえよ!」


 アデーレに睨まれて答える、嫁はもう増やしません!


 「大丈夫ですわアデーレ様♪」

 「そうでござるよ、我らが渡しませぬ♪」


 フローラとアオイも降りて来てフォローしてくれる。


 「まあ、レオン殿からもうっすら話は聞いておるし妻議会の開催は決定じゃな」


 アデーレが呆れて溜息を吐く、本当にレオンの根回しや手回しは頭が上がらない。


 「お山と緑がいっぱいですわ♪」


 象ロボ、サフェードハッティから降りたパティ姫が周囲の景色にはしゃぐ。


 「ここはミズホ国にある、我らが領地ですわ♪」


 フローラが姫に説明する。


 「ミズホ? ここって、おとぎ話で聞く東方の先の島国ですの!」


 姫は自分が途方もない場所へ来た事に驚く。


 うん、普通の反応だよな。


 パティ姫が落ち着いた所で、食事。


 「こ、このカレーはお母様の味にそっくりですわ~~~!」


 ハッティの中にあったテーブルや椅子を外に出してカレーで食卓を囲む。


 フローラのカレーは、ガラム人もびっくりな美味さらしい。


 「では、我らに話を聞かせてくれぬか? 一人で国を出て助けを求めたわけを」


 議長役はアデーレ、身長が近いからかパティ姫はアデーレにも懐いていた。


 「我が国を、お母様を皆様に助けて欲しいんですの!」


 姫が俺達を見回して訴える。


 姫の話を聞くと、父である皇帝が素性の知れぬ百九人目の妃を迎えた。


 「むむ~? あからさまに、その妃とやらが怪しいのう?」


 アデーレが相槌を打つ。


 百九人目の妃、白狐の獣人はあれやこれやと宮廷内での地位を固めて行った。


 彼女を危ぶんだ皇妃達もおり、確執が起こるのは必然だった。


 パティ姫の母も対立派閥に属していた事。


 更には国を守る巨大ロボ、魔神を操れる家柄だった事が災いとなった。


 武力も権力もあるライバルは排除を目論まれるのが世の常。


 他の有力な皇妃達と共に捕らわれの身となったパティの母。


 夫である皇帝は、人が変わったかのように狐の妃の言いなりだったとの事。


 「良し、乗り込んで助けに行こう!」


 俺の怒りに火が付いた。


 「マッカは待つのじゃ、姫はゆるりとで良いから続きを」


 アデーレがパティ姫に続きを促す。


 パティが母を救うチャンス、それは四年に一度の魔神同士の闘技大会。


 その大会の名はガランピック。


 優勝すれば、神と皇帝の名の下に報酬として三つ迄願いが叶う。


 皇帝は優勝者の三つの願いを、どんな願いでも絶対に叶えないといけない。


 でなければ神の怒りにより、皇帝は命を失う。


 「お母様の一族は、ゴールドバーグ王国とご縁があったそうです」


 ゴールドバーグ王家は、友情の証にパティの母の一族を救うと誓ったらしい。


 「それで、パティ様はいわば代理闘士を求めて国を出られたのですね」


 フローラが問いかければパティ姫が頷く。


 家柄の者が魔神を操れぬ場合は、代理闘士が認められているそうだ。


 家臣達により難を逃れたパティ姫は、ハッティに乗り国を出て今に至る。


 「な、何と言う話じゃ~~~~っ!」


 アデーレが泣きだした。


 「パティ様。あなたは運が良いでござる!」


 アオイも泣きじゃくる。


 「あなた、何卒よろしくお願いいたします!」


 フローラも泣きながら俺に姫を助けるように頼む。


 「ああ、勿論だ♪ 俺が姫の御母堂も国も助けに行く!」


 俺はパティ姫の目を見て誓う。


 十歳の子供が勇気を出し、一人で国を出て助けを求めに来た。


 応じなけりゃ、命としての矜持が廃れる。


 本心としては、今すぐ仲間達とネッケツゴッドレンセイオーで殴り込みたい。


 だが、それだと火力がオーバー過ぎて無辜の民まで滅ぼしかねない。


 平和を守る力で平和を壊したら駄目だ。


 面倒だが、相手の土俵に上がって試合に勝つしかない。


 「その百九番目の皇妃とやら、星魔かもしれんのう?」


 アデーレが呟く。


 「狐と言うのが怪しいですわね」


 フローラも頷いて呟く。


 「だな、狐は聖獣も神獣もいないから狐の獣人は生まれるはずがないんだ」


 パティ姫の種族である獣人は、聖獣や神獣が人間に産ませた子供の子孫。


 俺達もマイナーゴッド見習いとして女神様から教わったので確信が持てる。


 こっちで狐の獣人というのは異世界の存在、星魔でしかありえない。


 「決まりじゃな、レオン殿に働いてもらいガラム帝国へ参ろうぞ」


 アデーレが結論付ける。


 「マッカ殿とパティ姫だけを行かせるわけには参りませぬ」


 アオイが生身での護衛も必要だと告げる。


 レオンに負担をかけるのは心苦しいが、その分働きで報いるしかねえ。


 そう思った時、俺の結婚指輪が点滅して声が鳴り響いた。


 『話は聞かせてもらったわ♪ マッカは遠慮せず私を頼りなさいよ!』


 当のレオンの声だった。


 「わかった、迷惑かけ倒させてもらうぜ♪」

 『ええ、その分取り立てるから安心して頼ってねダーリン♪』


 レオンから迷惑をかける許可は得た。


 「しかし、何か九尾の狐の伝説みたいな事件だな?」


 俺は頭の中で話を整理してから呟く。


 「はい、前世で似たような敵がいた気がします」


 フローラも俺に同調する。


 「悪い狐の敵は、どの世界にもいますね!」


 アオイは鼻息を荒くする。


 「では、砂漠の狐狩り計画の始動なのじゃ♪」


 アデーレが締めて会議は終わる。


 新たなミッションのスタートだ。

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