第四十四話:聖獣と箱舟

 「まさか、皆で馬の世話をするとか懐かしいな」


 俺は良く晴れた空の下、牧場で白い仔馬を撫でる。


 服装は赤い野良着だ、飼育員の人とかが来てる感じの。


 「戦隊時代も馬術の訓練でお馬さんのお世話をいたしましたね♪」


 フローラ嬢も白い仔馬に林檎を食わせている。


 「ふ、馬術には自信ありですよ♪ にゅわ~~~っ!」


 アオイ嬢は元気すぎる仔馬に引き回されていた。


 クレインは、木陰で寝そべっている馬に本の読み聞かせ。


 バッシュは馬に顔をなめ回されていた。


 「良い、ハニーちゃん? マッカのお馬さんのハートを掴むのよ?」


 女モードのレオンは、自分の仔馬を俺の馬にけしかけようとする。


 「ほれ、たくさん食べるのじゃ♪」


 アデーレ様は、餌やりだ。


 「騎士たるもの、馬と絆を深めるのは大事ですね」


 クラウも自分の仔馬と触れ合う。


 俺達はこうして、女神様から支給された神獣の仔馬の世話をしていた。


 聖獣の上位種である神獣も、パートナーと絆を深める事で力を発揮する。


 この仔馬達が、戦闘では追加装甲になるとはな。


 「アデーレ様、仔馬達の力をマジックメイルには反映できないもんですかね?」


 俺はアデーレ様に近づき、相談してみる。


 「うむ、妾も考えてみたが研究や開発に必要な時間がわからん」


 アデーレ様の答えは納得できた、確かに一朝一夕でどうにかなるもんでもないか。


 現状では、神獣達の力はロボ戦では使えないと言うのが分かった。


 こちらが使える金も時間も人も物も限られている。


 民草に支えて貰ってる身である以上、何でもすぐにとはいかないか。


 各国の民草からの依頼も受けて、民意と戦費を稼がないと。


 「マッカよ、思いつめるでない!」


 アデーレ様が強めの口調で語りかける。


 「おっと、失礼」


 その声に俺は物思いから引き戻された。


 「思考に溺れてはいかん! 仲間を頼るのじゃ!」


 アデーレ様が俺の背をバシバシと叩く。


 「いや、勘弁して下さいよ!」


 ドワーフ筋肉で叩かれるのはヤバい。


 前世ではきちんと考えろと言われて、今は考え過ぎるなと言われる俺。


 「そなたは極端すぎるのじゃ! 中間で良いのじゃ!」


 アデーレ様の言う事は確かにそうだな。


 物理ダメージは痛いが、こういう風に言ってくれる人がいるのはありがたい。


 仔馬の次はそれぞれの聖獣との触れ合い。


 メインの相棒は聖獣なので、彼らとの付き合いも疎かにしてはいけない。


 「マスター♪ 私の乗り心地は如何ですか♪」

 「うん、ふかふかだよヒヨちゃん♪」


 俺はフェニックスのヒヨちゃんの背に乗り、空の散歩。


 思念ではなく普通に会話できてるな俺達。


 ヒヨちゃんにホバリングしてもらい、林檎を食わせつつ地上を見る。


 フローラ嬢は、アースグリズリーと相撲を取っていた。


 アオイ嬢は広めの湖でオーシャンドラゴンと泳いでいた。


 クレインはサイクロンディア―とボードゲームで遊んでる。


 バッシュはパッションシープの毛刈り。


 レオンは男の姿で、キングネメアと槍で模擬戦。


 クラウはシルバーバイソンのブラッシング。


 アデーレ様は、ゾンネモールの背に乗りひなたぼっこ。


 俺達が今いる、農耕神アップルの世界。


 ここは時間の流れが現世とは違うので、のんびり過ごせる。


 平和になれば、ここで過ごすのも悪くは無いかなと想えた。


 そんなこんなで聖獣や神獣との絆を深めた俺達は現世に戻った。


 「よし、リフレッシュしたしブロンズ王国へと行こうか?」


 俺は基地の自室を出て格納庫に向かうと、仲間達も揃っていた。


 全員で変身して機体を飛ばし、空からブロンズ王国へと向かう。


 「あれが聖なる湖か、琵琶湖より広そうだな?」


 俺は機内からモニターで外部を確認して呟く。


 湖周辺は女神様の結界で守られていたので、王国が攻め込まれた時も無事だった。


 仲間達と機体を四方に分散させて湖畔に着陸。


 「よし、配置に着いたな? それじゃあ潜るぜ?」


 俺は仲間達に通信で告げる。


 『箱舟の中に入って起動させて浮上だね』


 レグルスがプランを述べる。


 当初はハチダイレンセイオーで持ち上げる事も考えた。


 機体の緩衝材などが持たないと却下された。


 『何となく、ネッケツベースを彷彿とさせる形ですわね?』


 ポラリスもセンサーで湖面を探ってみた感想を述べる。


 『水の中なら私にお任せですよ♪ 水を得た河童です♪』


 アルタイスは通信で調子に乗る。


 『それぞれの機体の気密性と耐圧性は問題なしじゃ♪』


 ヘリオスが潜る前に各自の機体の状況をチェックして報告する。


 『釣りでもしたくなるな、この湖』


 エラポスは珍しく何処か呑気だった。


 『仕事が終わったら、みんなで釣りをしましょう♪』


 アリエスも十分すぎるほどリラックスしていた。


 確かに、こういう湖で魚釣りとかして遊ぶのも良いな。


 『もう、遊ぶのは仕事の後ですよ?』


 タウラスが仲間達を窘める。


 ぐだぐだな会話で雑念を絞り出した俺達は、機体を湖へとダイブさせた。


 湖の中は魚達が沢山いて、確かに釣りスポットとしては穴場だった。


 センサーに魔物などの敵性反応もなく、湖底に向かい沈んでいく俺達の機体。


 やがて見えて来たのは、ドーム状の物体。


 「何と言うか、巨大な亀か?」


 探し求めていた箱舟の形状は、超巨大な亀と言う物であった。


 湖底に着地すれば、やはり亀形の超巨大要塞とでもいう代物が鎮座していた。


 仲間達の通信から俺も四方に巨大なハッチを確認した。


 「これは確かに持ち上げるよりも中から起動した方が楽だな」


 ハッチに機体の手を触れて魔力を注いで見ると開いた。


 中に入ればハッチが閉まり排水され通路に明かりが灯る。


 文明レベルが剣と魔法のファンタジーではなくロボットアニメだ。


 用心して機体に乗ったままで進む。


 この箱舟の全高、ハチダイレンセイオーよりあるな?


 通路区画は五十メートルはあるな。


 『ここは、ロボットの発進口のようにも見えますわね?』


 ポラリスが通信を入れて来た。


 「ああ、もしかしたら床がカタパルトにあんるのかもな?」


 彼女に答えつつ床を見ると、線が見えた。


 奥へと進んで行くと、四方の入り口から来た仲間達と合流する。


 部屋の中心はジェネレーターみたいな柱があり、壁にはハンガー。


 ロボ用の格納庫と整備工場が混ざった施設だ。


 俺達が入った事で照明などの動力が入ったが、警備システムが発動しない。


 『取り敢えず、機体をハンガーにセットして降りて見ない?』


 レグルスから俺に通信が入り問いかけて来た。


 「そうだな、ご丁寧にハンガーの頭上にそれぞれの色の光が灯ってるし」


 俺は赤の表示灯が点いたハンガーに機体を付けると自動で機体が固定された。


 全員が機体から降りて変身を解除する。


 「よし、室内の空気は安全だな。 探索と行くか?」


 俺は尋ねると全員が頷く。


 「妾達は、どうやらクルーとして認められたのかのう?」


 アデーレ様は考え事をしながら周囲を見回す。


 工業ゴリラのドワーフからすれば遊園地張りに興味の宝庫だろう。


 「何となくですが、神聖な空気を感じます」


 クラウは何か魔力とは違うものを感じていた。


 「皆さん、エレベーターらしきものを見つけましたよ♪」


 バッシュが、移動手段を見つけたので俺達は彼について行く。


 皆でエレベーターに乗ると自動的にエレベーターが動き出して俺達を運ぶ。


 止まった階に降りて進めば辿り着いた先はブリッジだ。


 俺の目の前に黄金の文字板が出現したのでキャッチする。


 「マッカ、迂闊に物に触るな!」


 クレインが叫ぶがもう遅い、俺の頭の中に様々な情報が流れ込む。


 突然入って来た大量の情報に気持ち悪くなった俺は倒れかける。


 「危ない!」


 アオイ嬢が俺を受け止めてくれた。


 「うん、僕達はこの箱舟の新しいクルーに登録されたみたいだね」


 レオンは問題なく文字板に触れて解説を始めた。


 いや、あいつの頭にも大量の情報が流れ込んでるだろうに何で平気なんだよ?


 「ふむ、なるほどのう♪」


 文字板に触れたアデーレ様も平気だ。


 「マッカよ、前船長の末裔である妾とレオン殿は事前学習は免除だそうじゃ」


 アデーレ様が笑う、コネで試験免除みたいなノリかよ。


 レオンとアデーレ様以外の面子は文字板に触れると俺と同様の憂き目にあった。


 「じゃあ、僕がキャプテンに選ばれたみたいなので浮上させるね♪」

 「妾が副長なのじゃ、ムーントータス起動せよ!」


 レオンとアデーレ様が自分達の席に着き船を起動させる。


 こうして俺達は、箱舟ことムーントータスのクルーとなり船を持ち帰る事に成功したのであった。

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