第三十七話:バトンタッチと合成魔獣
花鬼生徒会の面々と行った模擬戦は引き分けとなった。
強敵であったスミハル殿から勝ちを得る為。
俺は捨て身の戦法で秘剣を使い、乗っていた練習機を壊してしまった。
当然ながら無茶をした事と壊した事を怒られた。
「わかっちゃいるんだよ、けど勝負事となると勝てるならな」
前世からの戦闘経験が弾き出した勝ち筋に体が自動で目指してしまう。
権田原長官にも言われた。
仲間や人々を悲しませる勝ち方は勝ちではない。
前世の業って奴は、抜けねえなあ。
魔法学園に戻っての昼休み。
天気のいい日なので、のんびり昼寝と洒落込んだ。
記念樹の林檎の木の上で寝そべりながら物思いに耽る。
何と言うか、この木の枝の上で寝てると安らぐんだ。
まるで母親の腕とか祖母ちゃんの背中みたいな安心感。
昼寝にはここが良い、眠くなって来た。
「起きて、後輩君♪」
「え、誰だあんた?」
「もう! 誰だじゃないわよ、シャキッとしなさい♪」
木の上で寝てたはずが気が付くと、暗い場所で見知らぬ美少女と二人きり。
目の前の美少女の格好は、赤いブレザーにグレーのスカート。
うちの学校の女子の制服だ。
俺と同じ赤い髪をショートボブにした、緑の瞳の美少女。
彼女の声に何故か逆らえず、俺は気を付けの姿勢になる。
何者だよ?
俺の胸をときめかすこの娘は?
これが乙女ゲームの聖女か?
「うん、よろしい♪ ちなみに聖女様じゃないよ私は♪」
「えっと、どちら様で?」
「私の名前は、アップル・サンハート♪ 君のご先祖様だよ♪」
「は~~っ? いや、成仏とか転生してないんですかい!」
「うん、私は魂が林檎の女神に昇格したからね♪」
「で、そのマイナーゴッド様が俺に何のご用で?」
「無茶ばかりのやんちゃな子孫へ、お説教と引き継ぎ♪」
「いや、お説教は勘弁して下さいよ懲りてはいるんですから」
「あっはっは♪ 何君、本当に昔の私にそっくり~♪」
アップルさんはひとしきり大笑いしてから突然、俺を愛しそうに優しく抱きしめた。
いや、ご先祖様とか言われても胸がときめく~っ!
「こっちに生まれて来てくれてありがとう、世界の事はお願いね♪」
「おっす、勇者稼業に励ませていただきます!」
「うん、自分の命も大事に頑張ってね?」
「短いけれど重いお説教、あざっす!」
「宜しい、私も聖女の親友として戦ってたから人の事は言えないけどね♪」
「ああ、つまりアップルさんは俺の先輩ヒーローなんですね?」
「うん、君の前の世界で言うとね」
「おっす、謹んで引き継ぎさせていただきます♪」
先輩ヒーローからのバトンタッチ。
そういう事なら理解した。
ヒーローは体育会系でもあるから、先輩の言う事は守ろう。
「いや、それより先輩はハグを解いて欲しいっす!」
「え~♪ 可愛い子孫をハグさせなさいよ~♪」
「勘弁して下さい、俺にも愛してくれる人がいるので!」
「うん、なら仕方ないね♪」
アップルさんのハグから解放される。
残念な気もするが、いかんいかん。
ご先祖様にときめくのは不味いだろ。
「可愛いねえ、加護をあげよう♪」
アップルさんが俺に掌をかざし、金色の光の粒子を浴びせる。
「ちょ、何か染み込んで来るっす!」
「魂を回復させてるの♪ それじゃあ、世界と未来を宜しくね♪」
アップルさんが遠のいて行く、何だよこのバトンタッチは!
気が付くと俺は、両腕にどっさりと林檎の実を抱えた状態で木の枝の上ではなく根元に寄りかかた状態で座っていた。
「……ヤベえな、クソ恥ずかしい」
アップルさんの事は実家に帰ったら調べてみるか。
貰った林檎の山を魔法で異空間に仕舞い、仲間達の所へと戻る。
「マッカ、何があったの?」
「元気になられたのは宜しいのですが」
「林檎の女神の加護? どういうことだ?」
「マッカさん、今度は何をしたんですか?」
「マッカ殿、何処の女子ですか!」
民間伝承研究会の部室に来ていた仲間達に詰め寄られた。
「いや、林檎の女神が家のご先祖様でお説教をだな」
俺は記念樹で昼寝したら林檎の女神様に呼び出された件を語る。
証拠の林檎も見せる。
「まあ、妻としてご挨拶に伺わないと♪」
フローラ嬢は余裕たっぷりだった。
「女神様の嫁いびりかい? 僕は負けないよ!」
レオンは何故か闘志を燃やす。
「私は林檎の皮むきは、天下一ですよマッカ殿♪」
アオイ嬢は、わけのわからないアピールを俺にしてきた。
「つまり、美味しい林檎料理を作れる女が正妻と言う事ですか?」
クラウ、お前は何を言っているんだ?
「ふむふむ、ちなみに妾はアップルパイが得意料理じゃぞマッカよ♪」
アデーレ様、それは興味があります。
アップルさんのいたずらか、俺の食事は暫く林檎尽くしとなった。
ぐだぐだなラブコメで緊張をほぐしつつ、戦いに備える俺達。
味方の機体を開発する為には素材も必要。
アップルさんの件から時が経ち、今日は鉱山に赴いてレンセイオーを重機の代わりに怪談方式で露天掘り。
『うおりゃ~~! ドラゴンスピア、ヴぉルテックピアスです!』
アルタイスがメインでの必殺技、槍にドリルの如く水流を纏わせて突き立てる。
敵を倒す技を転用して、大地を穿つ採掘作業。
ミズホ鉄の素となる鉄鉱石を掘っていく。
練習機も含めた機体の補習の為だけではなく、部品の製造の為にも物はいる。
使えるものは何でも使い、自分達で出来る事は自分達でする。
こう言う戦闘以外での作業にもロボットを使い、操縦の腕を磨く訓練にもする。
兵農一体ではないが、軍の類は何でも屋とも言えるな。
俺達は一旦、ロボでの作業を一休みする。
ロボの動力は俺達のMPなので適度な回復がいるのだ。
俺はアップルさんから貰った林檎を虚空から取り出して食う。
全身が光り輝き、身も心も元気になった。
「この林檎、回復アイテムだな。 ポーションより美味い♪」
『マッカ様、その林檎はもしや中毒性があるのでは?』
『普通の食事も摂りましょうね?』
何だか知らんが仲間達に心配をかけてしまった、気を付けねば。
アラートが鳴り、レーダーに敵の反応が出現する。
同時に、空に紫色の雲が生まれ一体の怪物が地上へと落下して来た。
「出たな、魔王軍の化け物!」
『以前とは姿が違います、警戒してまいりましょう』
『向こうも私達みたいに、三つくらい混ざってますよ!』
モニターに映る敵の姿は異形の怪物であった。
下半身は蜘蛛、両腕は蟹、頭部から上半身は鮫の三種混合型だ。
『勇者共、今度はこっちも三つの魔獣の力で殺してやる!』
フグ男、テッポーの叫びが怪物から聞こえてきた。
『では、ベアシールドを召喚いたします!』
『こちらはドラゴンスピアです』
「行くぜ、戦闘開始だ!」
街や人々じゃなく、俺達を直接狙いに来てくれるのはありがたい。
俺達のレンセイオーは、左手に盾、右手に槍の装備で怪物に挑む。
『くたばれ~~~~っ!』
テッポーが怪物を疾走させて突進、巨大な蟹の鋏で殴りかかる。
「うおっ! あぶねえ!」
ベアシールドで受けたが突き飛ばされ、転倒したレンセイオー。
『蜘蛛の足で追撃が来ますわ!』
『緊急回避です!』
アルタイスがレンセイオーの体を回転させて動かし回避。
こちらが武器を拾い立ち上がると、敵は今度は鮫の頭が口を開き放水攻撃。
「負けるか、ドラゴンスピア吸収だ!」
こちらはドラゴンスピアを突き出せば、穂先の龍の頭が開き敵の放水攻撃を吸い込んで飲み干す。
『何、飲まれただと! あの槍は生きているのか?』
テッポーが驚く、教えてやる必要はない。
「お返しだ、今度はフェニックスオオダチで決めるぜ♪」
ドラゴンスピアとベアシールドを虚空に仕舞う。
代わりにレンセイオーの両手に握られたのは大太刀。
真紅の鳥の羽を模した巨大な刀身の刀だ。
「一撃で決めて見せる、熱血一刀流巨大奥義・フィニックスパニッシュ!」
『鎧袖一触の技、受けて見なさい!』
『レッドらしく決めちゃって下さいね♪』
俺達は、大太刀を大上段に構えたレンセイオーを飛翔させる。
フェニックスオオダチの刀身に紅蓮の炎が灯ると同時に、急降下をしながら断罪の刃を敵へと振り下ろす。
怪物は蟹の鋏で上段受けをするが、この技は相手の防御ごとぶった切る。
敵の体は一刀両断されると同時に大爆発を起こした。
残心を決めて血振りをしてから武器を虚空へとしまう。
「ふう、これにて成敗完了だな」
襲って来た敵を相手に必殺技のデータ取りを終えた俺達は、採掘作業を再開した。
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