第三十二話:武戸の街

 ナゴリの街を出てからも関所では舞を求められた。


 ハマミズの港町では、渡世人の抗争に巻き込まれて解決に奮闘した。


 ヨコクラでは、アイゼン帝国の武器商人と結託した悪代官を成敗した。


 どの事件も共通している事は、種族間の対立と魔物化する仮面。


 月の邪神に従う魔王軍の尖兵、ジェスターの関与が見られた。


 ヨコクラでの事件の際、破壊されてない仮面の現物を見てみた。


 仮面の内側に子供でも描ける簡単な図面で術式が刻まれていた。


 魔族が絡んでいなくても、製法が分かれば誰でも簡単に事件を起こせる。


 悪のシンプルイズベストとでも言うべき恐怖のアイテムだった。


 装着者の姿は変わらないが強化される。


 と言うタイプの黒い仮面などは手に入らなかった。


 敵も手駒に役割を与えているのではと言う推測をレオンが出した。


 俺もそんな気はする、しかし魔王軍も地球の悪の組織と似てるな。


 注意喚起の為でも情報拡散すると、仮面事件の量産に繋がりかねないのは痛い。


 誰が心にどんな闇を抱えているかわからない。


 悪ふざけで術式を発動されて事件を起こされても困る。


 あれこれ出た課題をどうしようと悩みつつの到着であった。


 「ふう、あれこれトラブルを片付けつつやっと着いたな」

 「でも、見逃して行たらマズイ事件も解決できたから良いじゃない♪」


 都を出て十日、旅の疲れでぼやく俺にレオンが微笑む。


 「マッカ様の選択は間違ってないと思いますわ♪」

 「そうかねえ? まあ結果オーライで良いのかな?」


 フローラ嬢が俺を肯定してくれるが、腑に落ちてなかった。


 「まあ、塵も積もればだから。塵の内に片付けておいて正解だと思うぞ」

 「そうそう、各地の名物も食べられましたし♪」


 クレインの後に言葉を続けたバッシュは、どこかのうっかりなお共か!


 「西の都とはまた違う賑やかさだね♪」


 レオンが周囲を見回す。


 俺も見てみるが、行き交う人々のほとんどが頭に角が生えて和装したオーガ族。


 と言うのを除けば、浮世絵の江戸に似た景色だ。


 大昔の日本橋みたいな、アーチ状の橋が川の上に建っている。


 「何か俺達、悪目立ちしてないか?」


 こっちを通行人が見てる気がするが、俺達が外国人だから珍しいのか?


 「おい、あの赤い髪って?」

 「まさか、都で噂の赤天狗か?」

 「そういや武戸に来るとか?」


 ちらほらと噂話をする人達の声が聞こえる。


 うん、俺のやらかしだった。


 「しょうがねえな、聖獣武装!」


 サービスだ、変身しよう。


 「おお、やっぱり赤天狗だ!」

 「こいつはめでてえ♪」


 俺が変身すると、周囲から拍手と歓声が沸き上がった。


 もうこの国では、赤天狗で良いかな?


 芸を披露するかと、武戸の人達の前で舞を舞う。


 いや、こういう芸事は大事だと思うんだ。


 心が荒めば、悲劇を生む一因になるとも言える。


 心を癒し人々のストレス緩和できれば少しは事件も減るはず。


 人々を楽しませ喜ばせる事も勇者の大事な仕事なんだ。


 自分に言い聞かせるのって大事、モチベ維持の為に。


 「じゃあ、僕達も変身して踊ろうか♪」

 「マッカ様に続きましょう♪」

 「踊る阿呆に見る阿呆」

 「踊らにゃソンソンですね♪」

 「追従します」

 「妾も踊るのじゃ♪」

 「「聖獣武装♪」」


 仲間達も変身して踊る、聖獣達も小さな姿で飛び出て踊る。


 俺達が楽器を鳴らしたわけでもないのに、天から太鼓や笛など曲が流れる。


 「ほう、何やら面白い事をしているな♪」


 いつの間にやら上様っぽいお侍さんも踊る、キレが良いな。


 「何事だ! あ、赤天狗?」

 「どーも、お役人様♪ これは赤天狗の厄払いの踊りです、皆で踊って厄払い♪」


 騒ぎが起きればポリスが来るのは世の倣い。


 役人達も纏めて踊念仏みたいに練り歩く、後の世にどう記録されようとも構わん。


 俺が踊りながらヒヨちゃんの力で、周囲の汚れを浄化する。


 厄払いをしているのは嘘じゃないんだ。


 一般ピープルたちを引き連れて街をぐるりと回り、ゴールはお城で人々は解散。


 変身を解いた俺達は城の中へと通された。


 勇者団の正装して、謁見の広間で平伏して待機。


 上様のおなりでって、時代劇ムーブから会話が始まる。


 「そなた達の各地での活躍、見事であった」


 上様から、お褒めの言葉を戴く。


 改めてミズホ国の総意として協力の約束と五国連合の加入が決まった。

 

 五国連合は、西方四国とミズホ国による軍事同盟だ。


 教皇猊下が根回ししていてくれたらしい。


 七国でないのは、ガラムと鍋王朝が外れてるから。


 この二つの国は、世界にはあるけど存在が切り離されてる感じ。


 まるでシナリオ攻略を終わらせないと行けない、ゲームのステージみたいだ。


 第一部をクリアしろって言うならしてやるよ、と言う気分である。


 思う所は色々あるが俺達のミズホ国内での活動拠点は、地球で言えば山梨あたりに軍事基地や工場などを設ける事となった。


 国内のみならず海外からも人と物を集めて工業化を急ピッチで進める。


 見返りとして、ミズホ国にアイゼン帝国からの技術供与などがされる。


 この世界の人形ロボット兵器、マジックメイル。


 アイゼン訛りだとマジック・メイルらしいが、意味は変わらん。


 八体のマジックメイルに聖獣を憑依させ聖獣巨人を生み出す。


 そう言う方向で、合体ロボの開発計画も動き出した。


 後は一旦、俺達は王国に帰るはずだった。


 「せりゃっ!」

 「ふん!」

 「うおっと!」


 何故か城の道場で俺は上様に剣の稽古を付けていただいていた。


 こっちの打ち込みを上段受けで止められてから、反撃の横薙ぎを転がって避ける。


 竹刀だけど、上様の種族はオーガ。


 オーガの筋力でのスイングは剣圧がヤバい。


 「まだまだ、てい!」


 姿勢を立てなおして中段からの小手で攻める。


 「何の、軽いわ♪」


 こっちの一撃が弾かれる。


 上様の反撃の突きを、魔力を額に集めて頭突きで受ける。


 ダメージ七割はカットしたけど来るな。


 「ほう、向こう傷か♪」

 「まだまだ行けます!」


 相手が誰であろうとも全力で動く、胴を狙い打ち込む。


 「うむ、良い打ち込みである♪」


 流石は武士の王、強い。


 「俺は息子達には全員剣の稽古を付けている、義理の息子となる其方もな」

 「ありがとうございます!」


 理由はあれだが、この世界での刀の剣術の指導を受けられるのはありがたい。


 上様からフォームの修正を受け、実践の打ち込み。


 受け太刀と仕太刀を交互に行う合わせの型稽古。


 単独の型は上様の動きをトレースするように自分も動く。


 竹刀、木刀、真剣と道具を使い分け魔法も組み合わせて学ぶ。


 四日ほど集中して上様直伝の基礎稽古を行った。


 「さて、基礎は詰め込んだ故に残り三日で二手ほど秘剣を授けよう」

 「ありがとうございます」

 「うむ、変身して臨むが良い。 まずは一本目、破邪の太刀!」


 変身した俺は、全身から金色のオーラを発する上様の光輝く一刀で斬られた。


 峰打ちだとわかったけれど、意味はなかった。


 八相の構えから振り下ろされた一刀は、回避も防御もできなかった。


 変身が解除されただけで無事だったので、二本目。


 「続いては、星切りの太刀と言う」


 再度変身して構える。


 上様の方は前傾姿勢からオーラを発しつつ突進。


 上様当人も天翔ける流星の如き突進からの抜き打ちを受け、俺は再度変身解除。


 「ふむ、流石は不死鳥の勇者と言う所か」


 上様が俺を感心してる。


 いや、峰打ちとは言えども勇者パワーがなければ危なかったぜ。


 実際に上様から技を受けて見た後は、型を教わり実践だ。


 俺は木刀を八相に構えて、精神を集中させる。

 

 全身から出たのは光ではなく真紅の炎。


 更に精神を集中させ気を錬ると、真紅の炎が黄金の炎へと変化した。


 黄金の炎を纏った切り下ろしで、巻き藁を斬る。


 続いて、巻き藁を変えて星切りの太刀の修練に入る。


 見よう見まねだが、前傾姿勢から気を発しつつ突進。


 抜刀し、黄金の炎を纏った横薙ぎの一閃を放つ!


 試し切りの巻き藁は、綺麗さっぱり物別れにできてはいた。


 「見事なり♪ やはり其方は見込みがあったな♪」

 「ありがとうございます、この技を磨き世の為に振るいます」


 七日の特訓を終え、どうにか技を身につけた俺の言葉に上様は微笑むのであった。

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