第三十一話:東海天狗道中

 「皆さんとお別れするのは名残惜しいですね」

 「お世話になりました♪」

 

 理事長室で俺達はナゴンさんや生徒会の面々と別れの挨拶をする。


 「武戸むとへ行くのだろう、達者でな♪」

 「スミハル殿もお世話になりました」

 「義弟の面倒を見るのは当然だ、おてんばだが頼むぞ」

 「はい、大事な仲間ですから」


 スミハル殿が言うように、俺達の次の目的地は江戸ならぬ武戸。


 武王の城がある東の都だ。


 上様とはデサキで知り合ったが、正式な挨拶はこちらから出向かないといけない。


 この世界の東京というか江戸がどんな所か楽しみだ。


 前世は江戸っ子なので、はんなりもいいがちゃきちゃきが良い。


 「ま、いつでも会えるし別れの言葉なんか言わねえぞ♪」

 「ああ、またな兄弟♪」


 俺とダイダイマルは拳を合わせる。


 「クレイン殿、お互いの筋肉道を進みましょうぞ♪」

 「ああ、俺も鍛え続ける」


 ソウキュウ殿とクレインはポージングで語り合う。


 細マッチョとゴリマッチョの友情だった。


 「別れの挨拶はしませんよ、どうせまた会います」

 「そうですね、また会いましょう♪」


 ムラサキ殿とバッシュも仲が良くなったようだ。


 「レオン殿は書き物の御助力感謝いたします」

 「良いって、シンベエ君は王国に来ない♪」


 レオンとシンベエ君も仲良くなっていた。


 「マッカ殿、兄上達と戯れてないで行きますよ!」


 アオイ嬢が俺とスミハル殿の間に入ろうとする。


 「アオイ殿、友情の邪魔はいかんぞ?」


 アデーレ様がアオイ嬢をホールドして止める。


 「そうですよ、見守りましょう」


 クラウはデレデレだった。


 「殿方の交流に水を差すのはいけませんわ♪」


 フローラ嬢は、確かに俺の前世の奥さんだが正妻の余裕みたいなのが見えた。


 「アオイさん、あなたは学業成績が足りていませんよ♪」


 ナゴンさんが引きつった笑顔で、アオイ嬢に告げる。


 怒らせたら執務机を投げ飛ばしそうなほどの圧だ。


 「ええ! 剣術の世界大会頑張ったのにですか!」

 「剣術だけで世渡りができると思わない事です」


 アオイ嬢の反論を抑え込むナゴンさん。


 え、まさかのピンチ?


 「アオイよ、流石に学業は刀で切り倒せぬぞ?」

 「迎えに来るから、頑張って補習に励め」

 「マ、マッカ殿もお勉強苦手枠だったはずでは?」

 「俺は、魔法学園では勉強もきちんとしてたから」

 「絶対に迎えに来て下さいよ!」

 「わかった、帰りにまたこっちによるから連絡してくれ」


 うちのブルーは前世から脳筋だった。


 「ほら、また会う事になるって言った意味が分かったでしょ♪」


 ムラサキ殿が微笑んだ。


 ブルーがまさかの補習で一時離脱と言うアクシデント。


 それでも予定を変更はできないので、俺達は先行した。


 「アオイちゃん、こっちでも赤点だったなんて泣けてくるよ」

 「私達がお勉強を見て差し上げられなかったから」

 「アオイちゃん、剣の腕は立つんですけどね」

 「マッカですら勉強は頑張っているというのに」


 クレイン、俺だって勉強はするんだよ。


 「アオイ殿、残念な子じゃったな」

 「王国に留学するんですよね、羨ましいです」


 アデーレ様が残念がればクラウが羨ましがる。


 旅の道中、キングネメアが引く荷車の上で語り合う俺達。


 「でもマッカ、飛ばなくて良かったの?」

 「そうですよ、いつもなら飛んで行くぜ! でしょ?」


 レオンとバッシュが尋ねる。


 「いや、きちんと関所を通って行かねえと駄目だろ?」

 「順法精神だけでなく、道行く先で事件が起きた場合の事もお考えなのですわ♪」


 フローラ嬢が補足してくれる。


 飛んで行けば早いのだが、間違いなく世を騒がせる。


 下手すりゃ領空侵犯で、対空攻撃されかねない。


 俺達の事がキチンと各地に通達されてるかわからんしな。


 後は、道中での事件を見落とさない為だ。


 勇者の助けがいる人がいるかも知れない。


 都から東の方にも仮面の悪党がいないとも言い切れんし。


 「お母ちゃん、赤天狗様だよ♪」

 「おお、天狗様が獅子車に乗っておられる♪」


 道行く人々が俺を見て天狗呼ばわりするけど、どういう事?


 「マッカ様、実はですね」

 「遺憾なのじゃがな」

 「マッカさん、グッズ化されてますよ」


 フローラ嬢、アデーレ様と来てクラウが虚空から何かを取り出す。


 「うげ、何だよ羽子板に絵に根付って! 素顔のもあるよ!」

 「大丈夫、僕達で全部監修してるから♪」

 「いや、本人が許可してねえんだよ!」


 レオンが俺らしい人形を見せる、知らない間にグッズが出来ていた。


 「すまぬ、勇者団の資金繰りの為なのじゃ!」

 「もしかして、全国展開されてます?」

 「マッカは胸を張って良いよ、君は今この国一番のアイドルだから♪」

 「俺、外タレなの?」


 知らない間にアイドルデビューしてたよ俺、


 でも、芸名が赤天狗ってセンスがねえ。


 関所が見えて来たな。


 「おお、赤天狗殿が参られたぞ~~♪」

 「やっぱりか!」


 聖獣勇者団が旅芸人一座みたいになってるよ!


 「上様の紋所は確かに拝見いたした、ですが赤天狗殿にはひと舞お願いしたく」


 お役人様に頭下げられちゃったら、断れねえよ。


 変身して舞わせていただきました、お喜びいただけました。


 拍手喝采だったのは良かったが、とんだサブクエストだったぜ。


 「無事に武戸まで辿り着きたいが、助けを求める声は無視できねえ」

 「うむうむ、それでこそマッカじゃ♪」

 「うん、流石は僕らのヒーローだよ♪」

 「いや、お前らもヒーローだろ?」


 仲間達にツッコミつつ、俺達は荷車を進ませる。


 次の関所の間にある宿場町では顔が知られているらしく騒がれた。


 厄払いの舞だとヒヨちゃんを召喚して踊りながら周囲の浄化したよ。


 宿場の次は城下町だ、ここって地球だと名古屋辺りだな。


 城の屋根瓦が緑だし。


 やっぱり、街に入ると赤天狗だと騒がれた。


 身バレって、面倒だな本当に。


 お侍さん達が来て、俺達はお城へ招かれたよ。


 「よくぞナゴリへ参られた、余はナガハル・トクダイラである♪」


 親戚だから当然だが、上様やスミハル殿に似たお殿様と面会した。


 「勇者の方々、なかでも赤天狗殿のお力をお借りしたい」

 「かしこまりました、お引き受けいたします」


 殿様からの依頼を引き受ける。


 仲間も俺の性分を知っているので止めない。


 依頼内容は、二つ。


 一つは昏睡状態にされた姫の解呪。


 二つ目、呪詛を掛けた犯人の成敗。


 俺達は城の人達の立会いの下、城内に設けられた結界の間に向かう。


 「ヒヨちゃん、頼んだぜ」


 俺はヒヨちゃんを召喚する。


 部屋の中央で周りを注連縄で囲まれた中で眠る女性へとヒヨちゃんが飛んで行く。


 ヒヨちゃんが女性の上で羽ばたき、光の粒子を振り撒くと女性は目を覚ました。


 「姫様がお目覚めになられた!」

 「殿にお報せせよ!」

 「おお、トヨ姫! 無事か!」


 殿様が大慌てでやって来てトヨ姫様に駆け寄る。


 「よし、次は犯人の成敗だ!」


 ひと仕事終えて気合を入れ直した時、上の方から邪気を感じ取った。


 「悪い、後は任せた。 聖獣武装!」


 俺は変身して、反対側の窓から空へと飛び出す。


 「貴様、噂の赤天狗か!」

 「そうだよ仮面の悪党!」


 ナゴリ城の天守の屋根の上、俺は今回の事件の犯人と対峙する。


 「黒い仮面にダークエルフの素浪人か、何が狙いだ!」

 「トヨ姫を我がものとする為よ!」

 「事情は知らんが迷惑だ、成敗する!」

 「我が怨嗟の炎を受けて見よ!」


 仮面のダークエルフが抜刀と同時に黒い炎に包まれ、悪鬼の如き鎧を身に纏う。


 こちらもフェニックスブレードに炎を灯して、ぶつかり合う。


 赤と黒、互いに炎を灯した刀で切り結ぶ。


 互いに繰り出される技を刀で受けては捌き、切り返す。


 「こいつで決めるぜ、熱血一刀流奥義・フェニックスバースト!」

 「我が魔剣を破れるものか!」

 「破ってやるよ!」


 刀から火柱を上げて振り下ろす、敵は黒い炎が灯った刀で上段受けをする。


 だが、こちらの技は相手の防御を貫いて叩き潰した。


 悪いが聖獣の力はその程度の邪悪な炎じゃ防げねえよ。


 倒れてるダークエルフの男を掴んで、俺は城へと戻った。


 犯人を引き渡した俺達は、礼など不要とナゴリの街を出発した。


 「何やら、複雑な事情がありそうでしたわね」

 「うむ、しかし妾達もそこまで面倒は見きれぬぞ?」

 「取り敢えず、道中で事件が起きれば悪党退治だけして武戸へ向かおう」


 俺の言葉に仲間達は頷き、聖獣が引く荷車の速度を上げた。

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