第二十六話:都へ上る

 「さて、お前らのねぐらは何処だ?」


 村の広場で住民達と共に拘束した元怪物の山賊もどきに問いただす。


 「向うの山の中隠し銀山だ! 俺達は山奉行様の息がかかってんだよ♪」

 「おい、馬鹿! 何喋ってんだ!」

 「へ、俺達を解放しねえとお上が黙っちゃいねっ!」

 「はい、ぐっすり寝てろよ三日ほど」


 クレインが山賊もどきに魔法で緑色の煙を放って眠らせる。


 「というわけで、この悪人達は僕達が町の奉行所に運んで裁いてもらいますから」


 バッシュが村人達に、下手に私刑で恨みを晴らそうとするなよ? と告げる。


 「その通りです、残りの悪者達も山奉行も私達がみっちり仕置きします。 だから、皆さんは手出し不要です。 こんな奴らに、皆さんの日常の為の綺麗な手を汚させてなるもんですか♪」

 「すげえ、流石は姫様だ♪」

 「姫様が、俺達の為に天狗様達を連れて来て下さったんだ♪」

 「アオイ姫、有名人なんだね♪」


 村人達の声を聴いたレオンが微笑む。


 「はい、父上と一緒に青鬼姫として各地の悪党どもを退治してましたから♪」

 「正体を隠さないタイプの英傑なのですね、アオイ様」

 「アオイ殿は、豪快じゃのう♪」


 フローラ嬢とアデーレ様が感心する。


 「今の所、村で連れて行かれた方などはおりませんか?」

 「うんや、今ん所この村ではまだでございます」


 クラウが村長のゴエモンさんに尋ねた、ゴエモン・カキノキさん。


 オーガだけあって老人でもマッチョで背筋も伸びてるし、知識も作法もできてる。


 代々村役人を任された郷士の家系でフイゴ一刀流皆伝とか、スペック高すぎだよ。


 村の男衆は皆、ゴエモンさんの弟子でもあるらしい。


 そんな防衛力が高い村だから、怪物の力がないと攻め込めなかったんだろうな。


 捕えた山賊は、バッシュとクレインが聖獣に乗せて飛び街の奉行所まで護送した。


 「さて、それじゃあ敵のアジトへと殴り込もう」


 敵地も黒幕もわかったなら、後は決戦だ。


 この地以外にも、顔と名と腕を売りに行かねばならないし。


 「戻りました~~~~♪」

 「マッカ、置いてけぼりは止めろよな?」


 バッシュとクレインが戻って来る。


 「山奉行のワルダユウは生け捕りでと注文が入った」


 クレインが依頼人である、フイゴの殿様の言葉を伝える。


 「わかった、気を付けてなアオイ姫?」

 「マッカ殿の方こそ、勢いで切り捨ててはなりませんよ?」

 「はいはい、問題児の背比べはお止め下さいね♪」


 漫才にオチが着いたので全員で出撃。


 「お奉行様、空に聖獣の群れが!」

 「おのれ、藩主の手先め! 者共、であえであえ~!」


 隠し銀山の入り口近くにある奉行所からゾロゾロと悪代官と手下が出てきた。


 「ワルダユウ、仮面衆なる悪党に与し民を虐げた報いでお仕置きです!」


 着地すると、アオイ嬢がいかにも悪代官な風体の中年男性に告げる。


 「例え姫であろうともこの面の力なら、負けはせぬ!」


 ワルダユウが懐からオペラで見る仮面を取り出して装着。


 筋骨隆々な馬の怪人へと変身した。


 乙女ゲーム的世界を何だと思ってやがる!


 「刀を抜くじゃなくて、怪人に化けたな聖獣武装だ!」


 敵が化けてからこちらも変身と、作法的に変身。


 「不死鳥の勇者、って! 名乗らせろ!」


 変身は終えていたのでヒーローパワーの峰打ちで雑兵の仮面を割り元に戻す。


 「何たる無礼、それでもミズホの武士ですか!」


 戦隊の青、アルタイスが矛から水流の鞭を出して迫る敵兵を張り倒す。


 「変身や名乗り妨害もお約束ですわ!」


 黄色のポラリスも雑兵の刀を肘打ちで折り張り手で倒す。


 「大人しく縛につけ、ビーンズバインド!」


 緑のエラポスが真夫雄で豆の蔓を生み出して縛り上げる。


 「眠ってもらいましょう、シープスリープ♪」


 ピンクのアリエスが不思議な旋律を生み出して敵を眠らせる。


 「フラメスの名乗りを妨害されたの、許せないかな♪」


 雑兵の小手を返して転がして行くゴールド担当のレグルスは、私怨が酷かった。


 「レグルスに同意です、全員で名乗りを決めたかったのに」


 戦隊シルバーのタウラスも、拳のラッシュと頭突きと手加減モードでお仕置き。


 「まったくじゃ、穴に埋まって反省せい!」


 レアカラーの戦隊ブラウンことヘリオス。


 彼女は魔法で生み出した落とし穴に雑兵を沈める。


 「さて、残るあお前だけだぜワルダユウ!」


 戦隊レッドの俺、フラメスが刀を八相に構えて怪人と向き合う。


 「舐めるな、鎖鎌術を受けてみよ!」


 敵が鎖鎌を虚空から取り出して分銅を飛ばす。


 「甘いぜ、てりゃっ!」


 変身後の俺の目はまさに超人、鎖と分銅の継ぎ目を切り落とす。

 

 「負けてたまるか~~っ!」

 「熱血一刀流、フェイスバッシュ!」

 「あば~~っ!」


 残った鎌で面を狙って来たので、面擦り上げ面で仮面だけを砕く。


 「これにて一件、落着ってな」


 倒した敵をすり抜け納刀して残心。


 こうして、仮面衆の一人である山奉行ワルダユウを倒した俺達。


 隠し銀山は公の物となり、不当に集められ働かされていた者達は新たに派遣された奉行の下で給金に休みにと待遇が改善され正当な労働者としての権利を得られた。


 「で、次は一気に中の都ってか?」


 捕えたワルダユウからの情報は、都に旅に出た時に出会ったジェスター卿と言う公家から仮面を渡されたとの事。


 「左様、貴殿らの実力はわかったので都へと向かって欲しい」


 殿様から褒美の金子を千両箱で戴く。


 何となく追い払われた気がするが仕方あるまい。


 悠長に諸国漫遊してらえねえと、俺達は地球で言う熊本ことフイゴ藩から京都相当の中の都へと飛び立った。


 「で、ここがアオイ嬢の学校がある都か?」

 「賑やかな街ですわね、あけぼの乙女草紙のようです♪」

 「流石はフローラ殿、そんな感じなんですよ♪」

 「乙女ゲームか?」

 「僕も遊んでましたよ、あけおと♪」


 フローラ嬢達が仲良く語り合う。


 そう、この都は和風乙女ゲームチックな場所なのだ。


 地方は時代劇っぽいがな。


 「牛車とか乗りたいね、マッカ♪」

 「武芸魔術学院じゃったかの、この国の大きな学び舎は?」

 「四月の剣術大会が懐かしいですね」


 レオンとアデーレ様、クラウが団子を食いながら語る。


 「マッカ殿、アオイ姫! 見つけましたぞ!」


 俺達が茶店を貸し切りのんびりしていた所に、息を切らせて駆け付けたのは白い狩衣姿のシンベエ君だった。


 彼の案内で俺達は国で唯一の男女共学の学校、武芸魔術学院へとやって来た。


 理事長の執務室へ通された俺達は赤い一重姿のオーガ族の美女と対面する。


 白い肌に金の角は般若みたいだった。


 「アオイさん、ようやっとお帰りですね♪」

 「お、おば上じゃなかった理事長! これには深いわけが!」

 「……はあ、今更咎めても仕方ありません。 勇者の皆様はようこそ♪」


 理事長、ナゴンさんが俺達を歓迎してくれた。


 「兄上から話は聞いております、皆様には特別留学生として学院を拠点に仮面衆の退治をお願いいたします」

 「わかりました、お世話になります」


 魔法学園や神聖騎士学校などそれぞれの所属へ話を通すので、単位になるとの事。


 勇者以前に学生であるので、配慮はありがたかった。


 男子は狩衣、女子は巫女服と俺達は学院の制服に着替えその場は解散した。


 「狩衣姿のマッカ、素敵だよ♪」

 「待て、俺とお前が相部屋かよ!」

 「ああ、これが僕のご褒美タイムか~♪」


 あてがわれた男子寮にて、俺はレオンと相部屋になった。


 何で四人部屋とかじゃないんだよ、理事長は腐女子か?


 「マッカと一つ屋根の下、僕達の愛の草紙の幕開けだね♪」

 「ときめくなよ、お前は!」

 「四畳半の部屋で同棲かあ、素敵♪」

 「窓の下には川は流れてねえから! お前の感情の重さが怖いわ!」


 和風乙女ゲーステージにて、次なる戦いが始まろうとしていた。


 さっさと仮面衆を退治してロボットを作らねえと、俺の人生が危ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る