第二十四話:刀を求めて
「すまねえ、大臣から貰ったシミター折っちまった」
俺だけ先に現実空間に戻り、仲間達に説明する。
「アオイ嬢は、聖獣相手に居残り特訓中とはあの子らしくて仕方ないね♪」
俺の話を聞いた面子の中で、レオンはアオイ嬢の前世の時の戦いであった特訓の出来事を思い出したのかくすくすと笑う。
フローラ嬢やクレインとバッシュ、前世からの面子は呆れ顔だった。
「まあお前が聖獣に認められた代償なら、仕方あるまい」
「ドラゴンに勝って折れたなら、滅茶苦茶に名誉の負傷ですよ」
クレインとバッシュが慰めてくれる。
「お祖父様に口出しはさせません、私は常にマッカ様の味方です」
フローラ嬢も責めなかった。
「ふむ、仕方あるまい。 じゃが、マッカにはもう少し己の命を預ける武器を大事に扱って貰わんといかんな?」
アデーレ様は溜め息をついてから呟いた。
はい、面目ないです。
昔を知っている前世組は笑ってやがる。
前世からの業かな、戦隊時代も武器とか壊して始末書書いたな。
「でしたら、話に聞くミズホ鉄と合成して武器を新たな姿に作り替えませんか?」
クラウが提案をする。
その提案は普通に武器を治すよりも面白そうだった。
「そう言えばマッカよ、変身した時の固有の武装はないのかの?」
「実は今まで、あるかどうか気にしてませんでした!」
「そなた、実は物凄いアホの子じゃろう?」
「申し訳ございません」
俺はアデーレ様に謝った。
そう言えば、レオンは槍でフローラ嬢は斧、クレインは杖。
バッシュはまだ見てないが、あいつも個人武装はあるんだろう。
俺は何だろうか、ヒヨちゃんに聞いてみないとわからない。
ステータス画面とか見られないのが不便だぜ。
「マッカ様にお説教ができる、アデーレ様は凄いですわね」
「僕達だと甘くなっちゃうからね」
フローラ嬢とレオンが、俺がアデーレ様に怒られている様を見て語り合う。
「優勝で授けた剣は、壊すではないぞ?」
「はい、式典とか出席する時用にします」
流石に、公で授与された物は武器とはいえ気軽に壊せねえな。
式典とかで着る時に、正装の一部にもなり得る剣だし。
貴族や騎士も日本とかの武士と一緒で、偉い人から貰った武器とか大事にしないと下手すりゃ処刑物だからな。
好き勝手できるように見えるが、守らないといけない約束事が多いんだ。
小一時間後、アオイ嬢がみっちりしごかれて戻って来た。
「うう、精神や肉体が時の流れから離された所で十年修業させられました」
不思議な時空での苦労話を語るアオイ嬢。
彼女に使っていた武器が壊れたという話をする。
「ごめんなさい、では名刀で名高い職人の里へ参りましょう」
アオイ嬢が手紙を書くと、空から烏が下りて来て手紙を掴む。
「父上との連絡では、カラスに手紙を届けて貰っているんです♪」
「そうか、便利だな。 ああ、カラス君大急ぎで手紙を届けてくれ」
俺がカラスに語りかけると、カラス君が恭しく翼を折り畳み一礼してくれた。
「ありがとう、褒美の先渡しで食べてくれ♪」
俺は懐から干し肉を取り出してカラス君に与えと、喜んで食べた。
『我が王の為、全力で使命を果たします』
「ああ、頼んだぜ♪」
カラス君は手紙を足でしっかりと掴み、勇ましく空へと飛び立った。
「マッカ殿は、鳥と話せるのですね」
「ああ、そっちは多分魚とかと話せると思うぞ?」
聖獣が支配する生き物と会話できる能力は、こういう時にありがたい。
餌や世話などの対価はいるが、それは人でも同じ。
働きには報い合うのが大事だよな。
俺も女神様や仲間達に報いるべく、戦働きをせねば。
本殿を出て境内で待っていると、カラス君が空から戻って来た。
俺の所に来たのでカラス君から手紙を受け取りアオイ嬢へと渡す。
カラス君は用が済んだから自由だと言い、空へ飛んで行った。
「父上が話を付けてくれました、フイゴ藩のクマヌキ殿の所へ参りましょう」
「ああ、ありがとう。 海龍神社の皆様も、お世話になりました♪」
俺達は神社の方々に礼を言い、船で南下しフイゴ藩へと向かった。
漢字ことミズホ文字で、熊の皮も骨肉の守りも貫き叩き切る刀を作る匠。
ゆえに
フイゴ藩の港に降り立つと、お侍さん達のお出迎えが来ていた。
「何処の馬鹿だ、龍神様と喧嘩して刀を折ったって言うのは?」
「キヨムネ殿! 落ち着きなされ!」
お侍さん達を乱暴に掻き分けて現れたのは一人の緑の着流し姿の人物。
黒い長髪に細面だがマッチョなイケメン鬼。
彼こそがフイゴ藩のお抱え刀匠。
名工クマヌキ派の当主、キヨムネ・クマヌキとの事。
「俺です、ごめんなさい!」
「お前か赤髪! よし、そこのアオイ姫に次いで二人目の馬鹿だお前は! 刀の前にお前の剣の腕を見せろ!」
噂の鍛冶師らしいキヨムネさんと妙な流れで俺は剣を交える事となった。
フイゴ藩の城の敷地にある、砂利敷きの練兵場にて相まみえる俺とキヨムネさん。
互いに中段の構えから歩を進め、刃を振るえばぶつかり合い鍔迫り合う。
「なるほど、馬鹿姫を負かした腕前なのは本当みたいだな!」
「……そちらこそ、見事な腕力と腕前で!」
うん、流石オーガの腕力から繰り出される一撃は重く強くて押される。
ドワーフやオークに並ぶ三大脳筋族だけはある、師匠がドワーフで良かった。
脳筋族との稽古や対戦経験から、力では惜し負ける。
なので俺は、相手の力を受け流して後ろを取ろうとする。
だが、相手もこっちの狙いを読んでいたのかくるりと再度向き合い仕切り直し。
キヨムネさんの上段からの一撃を刀が折れないよう、刃を寝かせて根元で受ける。
「……は、やればできるじゃねえか? 試しは終わりだ、打ってやるよ」
「ありがとうございます」
俺達は離れてお互い納刀して刃を収める。
キヨムネさんの工房に案内されて話をする。
「ほう、これがその異国の刀か? 確かに業物ではあるな」
彼に俺が折ってしまった真紅のシミターを見せる。
「魔法で素材に戻し、ミズホ鉄との合金を生み出して打ち直すのはどうじゃろ?」
アデーレ様がキヨムネさんに尋ねる。
「ああ、ドワーフの姫さんの考えで言えば間違いない」
「良かった、何とかなる♪」
「マッカ、火はお前さんの聖獣の火じゃねえと駄目だ手伝え?」
「はい、わかりました!」
「馬鹿姫や上様みたいに木っ端微塵にしては、こっちに丸投げよりはお前さんはマシだがな? 剣士なら剣を大事にしろよ、剣は剣士の家族で相棒なんだぞ?」
「おっす、肝に銘じます!」
俺はキヨムネさんの言葉に従う。
ありがたいお説教が終わり、レオン達も交えて新武器作成計画が動き出した。
細かい過程は省略するが、シミターだった物とミズホ鉄の混ざった合金らしい虹色に輝く金属の塊が出来た。
いわゆるSSレア素材だ、これを用いて刀を作る。
「で、お前さんのその姿は勇者と言うよりは赤天狗って感じだな?」
「言われてみればそんな感じですね」
「良し、しっかり火を起こせよ赤天狗♪」
「おっす、フェニックスファイヤー!」
フラメスに変身した俺は竈に不死鳥の炎を灯す。
「塚や鍔に鞘は仲間に任せて、お前さんは俺に合わせて火の調節だ!」
角で魔力や温度を感じ取って指示すると言われ、作業が開始。
「良し、もっと全力で火力で行け! でなけりゃお前さんの炎に耐えらえねえ刀になっちまうぞ!」
「おっす!」
指示を受けて俺が竈の火を強くし、キヨムネさんに打ってもらう。
やがて時間が流れ作業が終わり、シミターは日本刀ならぬミズホ刀へと生まれ変わる。
聖なる真紅の刃、フェニックスブレードが誕生した瞬間であった。
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