第二十話:ブロンズ王国奪還

 団体戦で起きた騒動は早期に鎮圧できた。


 のはいいが、剣術大会の団体戦は中止。


 実行犯のダークエルフ達はその場でアイゼン帝国の兵達により拘束。


 司法の裁きを受けさせられる為に連行されて行った。


 この世界、何処も軍と警察は一体化してるから軍の地下牢行きかな?


 悪いが事情はどうあれ、テロリストは擁護できねえよ。


 法で裁いてもらえるだけ有情だと思う。


 勇者の仕事は怪物や怪人退治まで。


 怪物から普通の犯罪者に戻ったなら、扱いは国の司法機関の領分だ。


 そう必死に自分に言い聞かせる。


 でないと、皆の晴れの舞台をぶち壊された怒りで俺が実行犯達を殺しかねない。


 「大会、どうなるんだろう?」


 ポンデ君が不安な顔になる。


 「取り敢えず中断でしょうね、チーム一つが消えたんだし」


 サルミアッキ嬢は溜め息。


 他の選手達もそれぞれが不安な顔をしていた。


 ジェスターの野郎、とんだ置き土産だぜ。


 ブロンズ王国の女王陛下は滞在先の宿へと運ばれた。


 謀反宣言に暗殺未遂、国際行事の妨害と災難のコンボだ。


 「マッカさん、猊下が勇者団の緊急招集です」

 「わかった」


 俺はクラウについて行き、教皇猊下のいるゲストルームへ案内される。


 レオンとフローラ嬢は先に来ていた。


 「勇者諸君、新たな災厄が起きてしまった」


 豪華な調度品で満たされた室内の中央にいた猊下が告げる。


 「まさか、ダークエルフの反乱ですか?」


 ここに来て災厄と言えばブロンズ王国での内乱だろう。


 「ダークエルフではなく、エルフの大臣による反乱だ」

 「大臣は、排斥主義者の疑いがもたれていたそうなんだ」


 悪い事には変わらない、レオンが補足する。


 「主のいぬ間に謀反とは姑息ですわ!」


 フローラ嬢が憤る。


 「それじゃあ、俺達でひとっ飛びして鎮圧してきますか」


 ボヤの内に鎮火しねえと。


 「ところで猊下。 此度の大会での騒ぎの件、女王陛下とブロンズ王国を責めないとお約束いただけませんか?」


 レオンが俺の気にしていた事を言ってくれる。


 こういう時は、こいつが権力者で助かったと思う。


 「案ずるな、ダンケ陛下とも示し合わせて宣言すると誓おう」

 「良かった、当人なりに善政敷いていたらしいからな。 犯人達には理解されてなかったみたいなのは哀れだが」


 魔法学園の社会の授業で習った事を思い出す。


 「じゃあ、鎮圧して戻ってきたら団体戦の再開もお願いします」


 剣術部の頑張りを無駄にしたくねえし、雨が降ったら地を固めねえと。


 「うむ、平和と友好の祭典として改めて執り行うと約束しよう」


 流石猊下、話の分かる人で良かった。


 いや、俺が勇者でなかったら話とかできない地位の人なんだけどな。


 「マッカさん、やっぱりお優しい方ですね」

 「当然ですわ♪」


 クラウとフローラ嬢が褒めてくれる、こそばゆい。


 「では勇者達よ、女神の名の下にブロンズ王国を救うのだ!」

 「「はっ♪」」


 猊下の前で俺達は跪いて礼をして応じる。


 教皇猊下、本当に前世の戦隊時代の長官みたいだな。


 ゲストルームを出るとアデーレ様とアオイ嬢が来ていた。


 「行くのであろう、必ず帰ってくるのじゃぞ?」

 「私達はまだ聖獣の力がないのでお留守番しております」


 まあ、二人にはそれぞれのチームリーダーの立場もあるしな。


 二人に見送られ、俺達は外に出て変身。


 合体してキメラみたいになった聖獣に乗り空へと飛び立った。


 「よし、降下だ!」


 現場上空に到着した俺達。


 聖獣から飛び降り、空中で手を繋ぎ輪を作り回転しつつ魔法による対地攻撃を行い敵兵を削りながら石畳みの敷き詰められた市街の円形広場に着地する。


 「グワ~ッ! 何奴だ!」

 「フラメス、皆も来たか!」

 「遅いですよ! どれだけ重役出勤何ですか!」


 火の手が上がり明るい街並みの中、周囲とは違う暗めだが無事な区画。


 あれがおそらくは事前に聞いたダークエルフ達の居住区の入り口。


 周囲には俺達が来るまでに倒された反乱軍の兵士達。


 先行して防衛に当たっていたエラポスとアリエスの二人と俺達は合流した。


 「悪い、まだ始まったばかりだろ?」

 「二人共、場の暖めをありがとう♪」


 俺とレグルスは軽口で返す。


 「あれが大臣ですの?」

 「そのようですね、汚らわしい!」


 タウラスは怒りに燃えていた。


 「まずは消火だ。、炎よ集いて我が力となれ!」


 ブロンズ王国の王都に燃え上がる炎。


 その全てを俺は一気に吸い込み消火する。


 「な、炎が一瞬で吸い込まれただと!」


 驚くのは反乱の主の大臣が変身したと見られる怪人。


 ブリキの王様とでも言うような、十円玉カラーの茶色く寸胴体型な怪人。


 「不死鳥の勇者、フラメス!」

 「熊の勇者、ポラリス!」

 「鹿の勇者、エラポス!」

 「羊の勇者アリエス!」

 「獅子の勇者レグルスさ♪」

 「牛の勇者タウラスです!」


 まだと二人追加予定だが、名乗りを上げる。


 「「我等、聖獣勇者団っ!」」


 背後で爆発はしない、街が壊れるから!


 「おのれ女神の勇者ども! 何故、女王も貴様らもダークエルフ共の排除を邪魔するのだ! 者共、かかれ~っ!」


 怪人かした大臣が己の歪んだ思想を叫び、黒い体に白き仮面の異形の兵士達を召喚してけしかけて来た。


 「決まっている、ダークエルフも女神の愛し子だからだ!」

 「女神様は世に生きる全ての種族を、等しく愛されておられますわ!」

 「他種族排斥などと言う。非学術的な思想は認めん!」

 「排斥されちゃうのは、あなたの方ですよ!」

 「残念ですが、他種族も受け入れられない方は、王の器じゃありませんね♪」

 「女神様の教えを歪める汚らわしい背教者、断罪します!」


 前世でもやっていた、懐かしいお約束の流れ。


 敵の戦闘員を各自の武装で倒しながら敵の言葉を否定する。


 平和を乱す悪党の主張は認めねえ!


 「おのれ~~っ! この国の王は私だ~~っ!」


 ブリキの王様が、背中から腕を五本生やしてビームを撃って来た。


 「行くぜ皆、結界魔法だ!」

 「「了解!」」


 俺を先頭に皆で縦一列に並び、正面に虹色の光の壁を生み出す。


 敵のビームは、虹色の壁に全て吸い込まれた。


 「続いて行くぜ、俺を担いでくれ!」

 「お任せ下さい♪」

 「いや、こっちでもあれをやるのか?」

 「お金出して武器作りましょうよ?」

 「君に合法的に触れられる♪」

 「レグルスさん、変態ですね」

 「気にするな、フェニックスシュートだ!」


 仲間達が俺をバズーカのように担ぎ、除夜の鐘月の如く敵へと放り投げる。


 タウラスは知らないが、前世のネッケツジャー時代の必殺技の一つだ。


 投げ飛ばされた俺はと言うと、空中で両腕を広げ火の鳥となり敵に突っ込んだ。


 「な、何だその魔法は~~っ!」

 「魔法じゃねえ、必殺技だ♪」


 俺は敵を突き抜けて爆破し、着地して残心を決めながら呟く。


 倒した大臣は、怪人から本来の姿らしい赤い貴族衣装の中年男性に戻っていた。


 「……おのれ、おのれ!」

 「取り敢えず、縄で縛って牢屋へぶち込むか?」

 「はいはい、そこは僕にお任せあれ~♪」


 アリエスが魔法でロープを生み出し、大臣を素早く縛り上げた。


 「反乱に加担した兵達はどうする?」


 エラポスが俺に尋ねる。


 「同じようにまとめて拘束で、裁くとか殺すのは俺らの権限じゃねえよ」

 「それもそうだな、俺達にそこまでの権限はないしな」


 エラポスが納得し、その場で木の根を生み出して檻を作り兵士達を捕縛する。


 「さて、じゃあ俺は怪我人達の治療かな生命探知」


 俺は魔法で王都中の生命反応を探る、死者はいないのは運が良いぜ。


 俺は空へと飛び上がり、回復魔法を発動。


 全身から無数の光の粒子を放ち、街中に回復魔法の雨を降らせた。


 「やべえ、魔力使い過ぎた!」


 変身が解けた俺は地上へと落下する。


 落ちると思った時、俺はもふっと柔らかな感触に受け止めれた。


 「マッカ様、救助成功ですわ♪」


 魔法で巨大な黄色い熊となったポラリスの腹に俺は救われた。


 かくして、俺達勇者団は無事に反乱事件を解決。


 全員でアイゼン帝国へと戻って来たのであった。

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