第二十一話:土竜の勇者
ブロンズ王国の反乱はスピード鎮圧できた。
いや、まさか反乱の主が直接出て来てたとは思わなんだ。
大体ボスって、城とかに籠ってる印象だったんだがな。
まあ、兵達がクレイン達に倒されたから出て来たとかだろう。
今度こそと意気込んで臨んだ団体戦の結果は、惜しくも準優勝だった。
優勝はアイゼン大学、三位はミズホ国。
「くそ、初手で地面泥沼化は無理だった」
「でも、頑張ったよね僕達♪」
「そうだよ~♪ 来年は優勝を目指そう♪」
表彰式の後、悔しがる俺をエミール部長とポンデ君が励ましてくれた。
「私達も、魔法も剣も鍛えないとね」
「頑張ろう、サルミアッキちゃん♪」
サルミアッキ嬢とフェレット嬢も気合を入れた。
「皆さん! よく頑張りました、素晴らしいです~!」
ロール先生は泣いてた、良い先生だよなこの人。
波乱は起きたが、剣術大会は幕を閉じた。
ミズホ国とも今後は国交が結ばれて行く予定だ。
俺達が王国の控え位置で話していると、アオイ嬢が近づいて来た。
帝国の控え位置からはアデーレ様もやって来る。
「く~~~っ! マッカ殿~? ミズホ国へ参りませんか~?」
「いや、無茶言うなよ?」
泣きつかれても困るわい!
正直、この世界の日本っぽい所は気になる。
ぶっちゃけ、日本刀と言うかミズホ刀が欲しい。
一応習っては来たが、魂が西洋剣より日本刀を求めてる。
後、握り飯とか味噌汁に魚料理も食いたい。
でも、行ったら行ったで西洋の方が良いとかになるのが人の性。
「正式な手続きの上で、行き来できるようにして欲しいな」
「私が気に入ったからお婿にするで、ミズホ的には正式に行けますよ♪」
やべえ、前世より押しが強いぞこの子。
「アオイ様、距離が近いですわ!」
「おのれまたしても! フローラさんは割り込まないで下さい!」
「今世でもマッカ様は私の夫になる方なので♪」
「むき~~~! また独り占めですか!」
俺とアオイ嬢の間にフローラ嬢が割り込む。
「駄目だよアオイちゃん、マッカは家の国のだから♪」
「レオン殿、マッカは帝国の騎士でもあるのじゃよ♪」
更にレオンとアデーレ様が割り込み、混乱させる。
「え、騎士は名誉称号じゃないのか?」
「帝国では騎士は立派な貴族階級の身分なのじゃ♪」
「国の違いって、あるあるだよな」
アデーレ様、マジですか?
そういや前世でも、イギリスとドイツの爵位の違いとか聞いたな。
「アオイちゃん、相変わらずすね」
「まったくだ、一人だけ国が離れすぎて大丈夫なのか?」
バッシュとクレインが呟く。
何か視線を感じて見れば、クラウが混ざりたそうに遠くから見ていた。
ちなみに、女子でクラウだけ呼び捨てなのは本人の要望だ。
「恋は世界を守りながら、世界平和優先です! 俺について来い!」
女子達とレオンが不満そうだが、無理やりまとめる。
「マッカさん、そう言う所は前世と変わりませんよね」
「まったくだ、後でもみくちゃにされるに金貨一枚」
クレインは賭けをするな。
大会も終わったし、王国へ帰れるかと思いきや。
俺達勇者団は教皇猊下に呼び出しを受けたのであった。
「勇者達よ、良くぞブロンズ王国の反乱を鎮めてくれた」
「我が末娘も勇者とは真か、ゴンザレスよ?」
闘技場のゲストルームにはダンケ三世もおられた。
俺達勇者組は、跪いた状態でトップ同士の会話を聞く。
「真です、アデーレ殿下こそ八人の勇者の一人」
「……我が娘がのう。 ならば、試練を受けさせねばなるまい」
皇帝陛下が考えてから口を開く。
「勇者達よ、どうかゾンネ鉱山に赴き我が娘を守り導いて欲しい」
皇帝陛下の言葉に俺達は御意と応じた。
ドランクの街から南へと、俺達八人は聖獣に乗り飛んで行った。
火の鳥に、鹿にライオンに熊に羊に牛が連結して空を飛ぶってシュールだな。
「凄いのじゃ! これが聖獣の力か♪」
「く~~~っ! 私も早く力を得ねば!」
今回は、アオイ嬢も付いて来た。
青空の下、ゾンネ鉱山の麓の巨大洞窟前に降り立った。
「なるほど、土竜だから洞窟なのか」
「今では鉱山自体を神殿としているのじゃ♪」
入り口に狛犬みたいに土竜の石像が鎮座してた。
神社じゃないけれど、礼をしてから洞窟に入る。
俺達を歓迎するように、中で自動的に明かりが灯る。
進んで行くと広間に出る。
中央には土竜の石像が鎮座し祭壇が設置されていた。
石像の両脇には、閉じられた坑道の入り口。
祭壇に果物を供えて、皆で祈ると石像が光り一匹の土竜が飛び出した。
「おっと、これが聖獣ゾンネモール様かの?」
アデーレ様が小さく茶色い土竜を抱き留める。
アデーレ様と土竜が金の光の鎖で繋がれて鎖が消えた。
「おや? 俺の時と同じかな?」
契約自体は割かし早く済んだかな?
『女神の勇者達よ、我が勇者を連れて来てくれた事感謝します』
アデーレ様が胸に抱いた土竜から思念で語り出した。
女性人格かな?
「伝説ではもっと大きかったはずなんじゃが。魔力が足りんのかの?」
『この地の浄化に力を使い過ぎて、今はこの姿なのです』
「なら、俺の出番だな♪ アデーレ様、聖獣様をこちらに」
「わかったのじゃ!」
俺が腕を伸ばすと、アデーレ様が察したのかこちらに聖獣を渡す。
「ちょ、マッカ殿は何を?」
「アオイちゃん、大丈夫だよ♪」
「マッカ様の真骨頂ですわ♪」
「聖獣を回復させるほどの魔力、あいつは大丈夫か?」
「マッカさんなら、どうにかできますよ♪」
「女神様、マッカさんにご加護を」
アオイ嬢以外は俺のやろうとしてくれることを理解してくれた。
「それじゃあ、全力全開で行くぜ♪」
『これは、不死鳥の勇者の魔力が流れ込んで来る?』
俺は抱っこしたゾンネモールに、ありったけの魔力を注ぎ込む。
俺の腕の中で、ゾンネモールがぐんぐんと巨大化し軽自動車サイズに変化した。
俺は魔力を使い切り、ゾンネモールの背によりかかる。
「おっし、これで石像位までには戻ったな」
『感謝します、不死鳥の勇者。 これなら、我が勇者に力を与えられます』
「マッカ! すまぬ、今ポーションを飲ませるぞ!」
アデーレ様が腰のポーチからMPポーションを出し、俺の口に当てて飲ませた。
「ま、マズいですそのポーション」
「我慢せい馬鹿者、そなたはどうしてそう無茶をするのじゃ!」
怒られてしまった、申し訳ございません。
「いや、弱っている善性の命を見たら放置できず」
前世でもそうだったが、自分のできる事で命を助けられるなら助けたい。
「そなたの身は、もはやそなただけの物ではないのじゃ!」
「アデーレ様に同意かな、無茶し過ぎるなら止めに入るからね?」
「私達との未来の事もお忘れなく!」
「お嫁さんである私を置いて行くなど許しません!」
「女神様も怒りますよ?」
「いや、ちょっと待てお前ら! ポーションもって近づくな?」
俺はレオン達により、MPポーションをガッツリ飲まされる仕置きを受けた。
「良薬口に苦しだな」
「まあ、マッカさんですからこれはもう前世からのデフォルトの流れですね」
クレインとバッシュは止めてくれなかった。
俺に関しては自業自得なので、甘んじて罰は受けた。
「マッカのお陰で、妾も変身できるようになったのじゃ♪ 聖獣武装!」
アデーレ様が叫ぶと、彼女の身長が伸びて全身を茶色い装甲で覆う。
胴鎧は土竜の頭、マスクや手足のアーマーは岩を模した戦士の誕生だ。
「この姿の時は、土竜の勇者ヘリオスと名乗るぞ♪」
ヘリオスが胸を張り宣言する。
「これで残るは、アオイ嬢だけだな」
残るメンバーはあと一人だ。
「はい、なので皆さんには私と一緒にミズホ国まで来ていただきたいです」
アオイ嬢が俺達に頼む。
「よっしゃ、こうなりゃついでにミズホ国へ行くぜ♪」
手続きは面倒だが、海を越えるぜ。
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